/ / /
彼は食糧の他に、厚手のコートと新しいグローブも用意して渡してくれた。馬に荷物を積んだのも彼だ。私はそこまでしてくれなくてもいいと断ったのだけれど、「君はこれから何マイルも旅をするんだろ。休める時に休んでおかないと」と言って譲ってくれなかったのだ。そういうことならと彼の言葉に甘えて、手早く荷造りをしていくビリーを近くで眺めていたけれど、自分の旅路の支度を人にやってもらうのはひどく落ち着かない気持ちにさせられた。
街で過ごす最後の夜、彼は私をバーに招いて一曲ピアノを弾き語り、
「君、酒は飲める?」
と断ってそこで飲める一番上等な酒を一杯頼んで「君の旅路に」とグラスを突き合わせてくれた。払うと言ったらすぐさま止められて「これは僕からのささやかなプレゼントだと思ってくれ」と困り笑いされてしまった。
そうしてきたる今日この日、私はちょうど太陽が東の地平線から顔を出し始めるくらいの明け方に、愛馬の背に跨り、見送りにやってきてくれたビリーと視線を絡め合っていた。
「何から何までやってもらっちゃった」
ありがとう、と口にすると彼は肩を竦めて「僕が勝手に世話を焼いただけさ」と笑い、「……元気で」と告げた。
「ビリーも」
「うん」
まるで今生の別れのような雰囲気が漂っていた。私にも、ビリーにも似つかわしくない重苦しい空気を振り払うように「でも案外少しした後に会ったりして」と軽口を叩く。
「ありそうなのが少し怖いよ。……よし、じゃあお互い元気で、運が良かったらまた会おう」
「もちろん!その時は私がご馳走する、きっと」
「楽しみにしていよう。じゃあね、レディ。良い旅を!」
貴方も良き日々を、と返して馬の腹を軽く蹴る。長い旅路を共にした芦毛の馬は私の指示を受けて、ゆったりと足を街の外へ向けた。
少し行った先でちらと振り返ると、ビリーはまだそこにいて、ひらひらと軽く手を振って見送ってくれていた。