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「ビリーくんて結構力持ちだよね」
「……は?」
 音楽雑誌から顔を上げたビリーが怪訝そうに此方を見やる。「いきなりどうしたの」とでも言わんばかりの表情で私を見つめていた彼は、「どうしてそんな風に思ったのさ」と眉宇を寄せたまま尋ねてきた。
「私のこともさらっと持ち上げちゃうんだよなと思って」

 ビリーと私の体格差はほとんどない。身長差は2センチと少し、体重の差は――分からないけれどそこもあまり無いのじゃなかろうか。これは少し重たい現実だ。それでもビリーは私のことなど簡単に抱き上げてしまう。先日の戦線離脱時に明らかになった新事実だった。
 彼は私をあっさり担いで、その上で全力疾走した。サーヴァントだからなし得たことなのか、それとも純粋に彼の力が強いのか定かではないけれど、彼の筋力がその華奢な見た目から想像できるものより強い、というのは確かだ。

「そりゃあ君は女の子で、僕は男だからね」
「にしたってその、……そんなに体格差ないのに」
「じゃあ、僕はサーヴァントだから」
 これなら納得できる?
 そう問いかける彼の顔は、ほんの少しだけ不満そうに歪められている。咄嗟に「ごめん」と謝ると、彼は小さく笑って「いいよ」と返した。
「君が驚くのも無理ないと思うし」
 この前のことを言っているのだ、と彼も察しているのだろう。「どうしても気になるなら、何だっけ、君の国の言葉……何とかの馬鹿力って思ってもいいよ」などと言って薄く微笑む。
「いいの?」
「いいよ。……そんなのじゃないって今ここで示してあげてもいいけどね」