第13話 『お見舞いハーレム』



頭、痛い。
体、熱い。
でも寒い。

いつもよりお布団が重い。
熱い。

あれ?
熱あるのになんで温かくしないといけないんだっけ?
ダメだ、頭がグラグラする…。

ん〜。
なんかおでこがひんやりして気持ちいい…
誰だろう…


「まだ、寝ていろ。」


この声、アヤナミさんかな?
なんでアヤナミさんがいるの?
も…ダメ、ダルすぎて瞼も開けれないや。




***




ふと目が覚めた。
部屋には私以外誰もいない。

さっきアヤナミさんがいた気がしたんだけど、気のせいだったのかな?
額にはもう温くなった小さめのタオルが乗っかっていた。


「あだ名たん、起きてる?」


ノックなしに入ってきたのはやはりヒュウガ。


「起きてるよ。」

「ダメだよーちゃんと寝てなきゃ。」


ヒュウガは私のベッドの脇にイスを引きずってきて座った。


「今まで寝てたから大丈夫。」


起き上がろうとすると、肩を押さえられて起き上がれなかった。


「起きなくていーよ。」

「ごめんね。」

「まだ熱高いんだから。そうだ!リンゴ剥いてあげよっか?」


どこからか出したリンゴを手のひらの上に乗せ、腰に挿している刀に手をかける。


…すんません。
その人を切ったことのある刀でリンゴ剥くのやめてもらえます??
めっちゃ食べる気失せるんですけど。


「…今、食欲ないからいいや……」

「そう?じゃぁ食べたい時はいつでも言ってね。」


絶対あんたにだけは頼まないけどね!!
というか、『いつでも言って』って…いつまでいるつもりだよ!


「ヒュウガ、仕事は?」

「大丈夫♪」


…コナツにやらせてるから??


「戻っていいよ。今すぐ戻って仕事してあげて!」

「え〜。」

「え〜。じゃない!ケホッ。」


あー。
咳まででてきちゃったじゃん。
悪化したらヒュウガのせいだからね。


「じゃぁせめてあだ名たんの熱下げてから…」

「どうやって下げるの?」

「人肌で☆」


お前ホント、マジで戻れ!!



やっとのことでヒュウガを追い出した後、なんでかな、熱とは別の疲労感が……
見舞いに来て欲しくないbPだな、ヒュウガは。

でも…
あ〜〜〜〜〜〜〜
風邪の時って妙に人恋しくなるんだよね。
一人になりたくないっていうか…
でも、アレ(ヒュウガ)に居てもらったら身が持たないな、と思う。
こんなときは寝るのが一番だ。


「…寝よ。」


私は布団を肩まで上げて、また瞼を閉じた。




***




暗い、闇。
その先に見えるのは……


「名前…苦しそうだよ。」

「クロユリ様、そろそろ戻りませんと…」


ハルセさんとクロユリの話し声で目が覚めた。
いつの間に来ていたのか、目を開けると心配そうに私を覗き込んでいるクロユリと目が合う。


「ごめんね。起こしちゃった?」

「ううん。」

「ボクね、名前に早く元気になってほしくってお薬持ってきたんだ。」


ハイ。と天使のような笑顔で渡されたソレは、茶緑色の粉薬…
もしかしてコレって…


「ボクの手作りなんだ♪」


やっぱりか!!


「飲んで?」

「……」


背中に風邪とは別の嫌な汗が流れる。
風邪、治る前に死にそうだな、私。

いかにも怪しそうな薬と睨めっこ。
そんな時、


「お食事を摂られてからでなければお薬は飲んでいけませんよ、クロユリ様。」

「あ!そっかぁ。」


よし!
ナイスですハルセさん!
難は逃れた!
ありがとう!
貴方、神だよ!!


「クロユリ様、そろそろ戻りましょうか。」

「…うん。」

「お仕事あるのに、来てくれてありがとうございました。」

「いえ。早く良くなってくださいね。そういえば、カツラギ大佐がおかゆを作っていらっしゃっていたのでそろそろ持って来られると思いますよ。」


ご飯かぁ…
それ食べたらクロユリから貰った怪しい薬、飲まなきゃダメ?

目で訴えれば、ニッコリと笑ってハルセさんは私の手に何かを握らせて、2人は仕事に戻っていった。

恐る恐る手の中のものを見てみれば、それは…胃薬。


「やっぱ飲めってかー??(泣)」


クロユリ優先のハルセさん。
いつもはあの2人の仲は微笑ましいけど、今日は涙で歪んで見えます。

風邪ってこんなに疲れるもんだっけなぁ〜。
お昼は梅粥、夕食には卵雑炊を作ってきてくれたカツラギ大佐。

嬉しくて涙がでちゃう。
だって、女の子だもん♪


「ごちそう様でした。」

「お粗末様でした。お昼に比べたら少し食欲もどってきたみたいですね。」

「おいしいご飯食べると元気になりますから!」

「でもお昼も夜も半分近く残していますし…まだ熱もあるんですから気をつけてくださいね。」

「はい。」


のほほんとした空気の中、ドアをノックする音が聞こえた。


「どーぞ。」

「失礼します…」


入ってきたのは…


「コ・ナ・ツぅ!!」


仕事忙しくって来てくれないかと思ってたよぉ〜。


「…元気そうですね。では…」

「ちょい待ち!!そんな急いで帰らなくても…」


ゆっくりしてけ☆


「では、私はこれで…」


コナツと入れ替わるようにして、カツラギ大佐が出て行った。


「ヒュウガに、クロユリに、ハルセさん、カツラギ大佐に〜コナツ!お見舞いしてくれて嬉しいなぁ〜。忙しいのに、アリガトね。」


ハーレムだよ。
逆ハーだね☆


「いえ。少し熱は下がりましたか?」

「うん、ちょっとは。…ねぇ、コナツ。アヤナミさん、何してた?」


それとなく聞いてみたつもりが、全然上手くいかなくてストレートで聞いてしまった。


「気になりますか?」


気になるっていうか…


「怒ってないかなぁ〜って。」

「アヤナミ様は病気の人を怒りはしませんよ。」


わかってはいるんだけどねー。


「ザイフォンの件、気にしてるんですか?」

「あ〜…うん。」


なんかまた熱あがってきたかも。
多分、この熱は知恵熱だ。
いろいろ考えすぎて頭がショートしちゃったんだ。


「きっとアヤナミ様は反対する理由がきちんとあるんだと思います。」


わかってるよ、ちゃんと。
コナツえらいな〜。
私のこともアヤナミさんのことも考えてしゃべってくれている。


「気、遣わせちゃってゴメンネ。でも大丈夫!元気になったら一回聞いてみる。」


どうしてザイフォンを使っちゃダメなのか。
知りたいの。


「はい。そしたらきっとスッキリするかもですね。じゃぁ、少佐一人だと不安なのでそろそろ戻ります。」

「あはは、だね。」

「あ、そういえば執務室の皆、今日ものすごく暗いんです。早く元気になってもらわないと調子でません。…ボクも含めて。」

「あらー。嬉しいこといってくれちゃって。たっぷり寝て元気になるよ!んで、モリモリ働くから!」

「はい、待ってます。」

「おぅよ!!」


そうだよ、知恵熱出してる暇なんてないんだよ。
早く、元気になって……
話さなくっ……ちゃ…ね……


急に眠たくなって、私はゆっくりと瞼を閉じた。




***




まただ。
またさっきの闇の中。

その向こうには…

大きな箱??


フタを開けて見ると……

ブラックホークのみんなが一斉に飛び出してきた。


『は?!』


なんで、みんなが……

まぁ、夢っていつもどこかしら変なんだよね。
でも、あながち外れてもない。

両親が死んで、暗くて一人闇の中にいた。
けど…みんなに出会った。

ここは真っ暗な闇の中。
だけど…決して不安じゃない。
むしろ、みんながいるから


『幸せ』



頬に、冷たい何かが触れた。


…手?


ゆっくりと瞼を開ければ、相変わらず無表情のアヤナミさんが横のイスに座っていた。


「アヤ、ナミさん……。」


小さく名前を呟けば、ハタ、と涙がシーツの上に落ちた。
そして、さっきアヤナミさんが涙を拭ってくれたんだと気付く。


「眠りながら泣くとは器用だな。恐ろしい夢でも見たか?」

「…いえ。幸せな夢を。」


まだ側にあったアヤナミさんの手をちょっと躊躇いがちに握った。


「アヤナミさん、私がザイフォンを使ってはいけない理由を教えて下さい。」


揺らがない紫の瞳。
握っていた手が、アヤナミさんに握り返された。


「…上層部が、名前のもつ能力の情報を手に入れていた。その上ザイフォンも使うことができ、強くなっていけば…第一線に出される可能性がでてくる。」


第一線??


「第一線って…」

「戦場だ。私やヒュウガのように人を殺さねばならなくなる。」


そんなのはイヤだろう?と横髪を耳にかけられた。
それがくすぐったくて目を細める。


「…イヤ。」


人を殺すのは、イヤ。


「私は、名前に怪我などしてほしくはない。」


ぎゅっと強く握られる手。


「…ありがと、アヤナミさん」

「納得したか?」

「したよ。」

「そうか。…具合はどうだ。」

「まだちょっと熱があるけど明日には元気になってるかも。」


薄く微笑みながら、私の髪を撫でるアヤナミさんを見つめた。


「ね、アヤナミさん。お願い、きいてくれる?」

「なんだ。」

「また、一緒に寝て欲しい。」

「…あぁ。」


アヤナミさんのベッドは広かったけど、今回は私のシングルベッド。
ちょっと狭いからお互いの肩がぴっとりとくっつく。


「もっとこっちへ来ないと落ちるだろう?」

「…うん。」


肩を抱き寄せられ、アヤナミさんの腕の中におさまってしまう私。
私の部屋なのに、アヤナミさんの香りに包まれる。
風邪の熱じゃない熱が上がって、きっと今、顔が赤いと思う。
前回は泣きすぎてあまりベッドでのことは覚えていない。
確か、泣きすぎで疲れて眠ったから。

でも今回は違う。
アヤナミさんをこんなにも近くに感じてる。


「そういえば、アヤナミさん。朝も私が寝てるとき様子見に来てくれたでしょ?」

「起きていたのか。」


最初は夢かと思ったけど…


「あの時が一番きつくって、頭は起きてたんだけど、体が起きてくれなかったの。」


『まだ、寝ていろ』
あの時の低くて優しい声が魔法のように響いて、すぐ眠っちゃったんだよね。


「アヤナミさん…ありがと。」


返事の変わりに、少しだけ強く抱きしめられた。


心地よい腕の中。
落ち着くアヤナミさんの香り。
優しく髪を撫でる大きな手。
…幸せすぎる。


私、知ってる。

この感情の名前。

確か、恋っていうんだよね。

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