第20話 『トキメキの最果て』



目の前に広がる光景。
赤い血。
転がる死体。

どちらが悪でどちらが正義なのか、そんなものはわからない。

ただ一つハッキリ言えるのは……なんでアナタたちはかすり傷一つ負ってないんデスか??

あれから敵を鎮圧するのにさほど時間はかからなかった。
初めて見る皆の力量。
私が圧倒されている間に終わってしまった。


「これより帰還する。」


皆が乗ってきたのであろうホークザイルに向かって歩き出そうとすると、ふわりとアヤナミさんに抱きかかえられた。
いわゆる、『お姫様抱っこ』だ。


「ひゃぁっっ!アヤナミさん!!自分で歩けます!!」


降ろしてといわんばかりにジタバタと暴れる。


「暴れると落とす。」


あ…
降ろす。じゃなくて落とすんですか??
なんか本気で落とされそうなんですけど…。

私は大人しくアヤナミさんの首に手を回して、落とされないようにしがみついた。
そしてゆっくりとホークザイルへと帰艦し、ソファに降ろされるとアヤナミさんは私の右隣に、左隣にはハルセさんが座ってきた。


「名前さん、止血をしますから動かないでください。」


そういえば怪我してたんだ。と思い出すと、急に激痛が襲ってくる。


「顔色が悪いな。血を流しすぎたか…。」


ハルセさんが私の傷口を手当している中、アヤナミさんが私の頬に手をそえた。


「大丈夫、です…」


その優しさが嬉しくて、安心したせいかニッコリ微笑みながら私は気を失った…。




***




目を覚ますと、消毒液の香りが病室に運ばれたのだと教えてくれた。
私一人の個室には誰もいない。
ゆっくりと顔を動かせば、貫通していた左肩にはしっかりと包帯が巻いてあった。


「……痛い。」


ため息混じりにそう洩らすと、病室の扉が開いた。


「ご機嫌麗しゅう??」

「残念ながら麗しくないかな。」


ヒュウガに続くようにしてクロユリ、ハルセ、カツラギ、コナツが入ってくる。


「あたりまえじゃないですか少佐!怪我してるんですから麗しいわけないですよ。名前さん、大丈夫ですか?」

「大丈夫なわけでもないでしょ?コナツ。」


なんて大人気ないんだ、この人は…


「あ〜大丈夫大丈夫。ちょーっと肩が痛くて貧血なだけ。」

「ご無事でなによりです。」

「本当に。」

「ありがとうございます、カツラギ大佐、ハルセさん。」

「名前―!!」


クロユリが心配そうにベッドの上に乗っかってきた。


「心配かけてごめんねー。」

「ううん!名前が無事ならいーの。」


なんって、憂いヤツ!!


「ねぇねぇあだ名たん。あだ名たんを戦場に置いていったヤツ、見つけ次第半殺しにしとくね☆」


いや、ヒュウガが言うとシャレになんないから…


「そんな、いいよ。」


私も一応、あの男の腕切りつけたし。
そりゃあと一発くらい殴りたいけどさ。


「え〜。半殺しがダメならいっそ殺して…」

「もっとダメだから!!」


さらっと怖いこと言うな!!
なんか、精神的に休まらないんだけど。
ちょっと寝かせてもらえるかな??


「病室に長いは無用です。反対に疲れてしまうでしょうからね。そろそろ戻りましょうか。」


カツラギ大佐…なんって気が利くんだろう!
やっぱり大人だ。


「そうですね。」

「早く良くなってくださいね。」

「元気になったら遊ぼーね。」

「うん。ありがとう。」


嵐のような人達がぞろぞろと帰り、一気にまた静寂が戻ってきた。
この静寂の中にいるくらいなら、あの騒がしい皆といた方が落ち着くかもしれない。
体は休まらないだろうが…

布団を肩まであげて窓の外を見ると、自分は生きているのだと実感した。
生きていることがこんなにも嬉しいと思ったのは始めてだ。
自然と笑みが零れ、私は深く深呼吸した。
皆が助けに来てくれなかったら、きっと私は今ここにいないだろう…

深く、心から感謝していると、病室の扉をノックする音が聞こえた。


「どーぞ。」


入ってきたのは、アヤナミさんだった。
相変わらずの無表情でベッドの横のイスに座る。


「気分はどうだ。」

「大丈夫です。」


アヤナミさんの顔を見てなんとなく思い出した…
忘れるはずもない。

私はこの人にキスされて、ひっぱたいてしまったのだから。


「あ、あの…助けにきてくれてありがとうございました。…でも、どうして私の居場所が……?」

「お前の気配でわかった。」


気配って……
あんな遠くまで探してくれたなんて……


「私も一つ聞こう。」

「なんですか?」

「何故ザイフォンが強力になっていた。」



バ・レ・た!!
こえー
ちょーこえ〜!!


「なぜ答えない。」

「特訓、してました…」


アヤナミさんから目を逸らしながら答える。


「私の理由にお前は確か納得したはずだったが…」


確かに。
『怪我してほしくないから』という理由には納得しました!
でも特訓しないなんて約束はしてないもんね!!


「納得はしたけど約束はしてません。」


目を合わせるのが怖くて、布団を顔に掛ける。


「…特訓したと言っていたが、強くなるスピードも異常だ。誰かに教えてもらっていたな。」


さすが、鋭いっす。


「…ひ、一人です。」

「どうせヒュウガだろう。検討はつく。」


ダメだ、この人に嘘は通用しないらしい。
神かこの人は?!


「怒って…ますか?」

「怒ってなどいない。ただ…心配しただけだ。」

「ホント、ですか?」

「本当だ。」


ホッとして布団から顔をだすと、いきなりキスされてしまった。
なんでこの状況でキスされているのか、まったくわからない。


「また、叩くか?」

「た、叩かれたいんですか?」


それならよっぽどのMだ。


「もう遠慮しておこう。」

「じゃ、なんでキスするんですか。」


アヤナミさんは私の髪に指を絡ませた。
次いで紫の瞳でしっかりと見つめられる。


「私が名前を好きだからだ。」


え??


「う、そ…だぁ……」


零れた涙がシーツを濡らしていく。


「嘘をついてどうする。」

「だって…だって……」

「名前は私のことが嫌いなのだろう?先日思いきり叩かれたからな。」

「それは!!それは…アヤナミさんが愛のないキスするから……」

「愛のない??…あっただろう?」


そんなまさか!
私の勘違い?!
バカヤロー!!


「わかりにくいです…。」


だったらもう一度、いえ、何回でもキスしてください。
そして教えて下さい。
貴方の愛を。

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