第22話 『恋人のための聖夜』



小さい頃、信じていた。
赤い服着てトナカイに乗ってくるといわれている白いお髭のオジサマ。
一目見たくて、ずっと起きていたこともある。
すると真夜中にパパがやってきて、プレゼントを持ってきたの。

そのとき、サンタクロースがいないってわかって大泣きした私を、パパが抱きしめていってくれた。

『サンタクロースは信じているヒトの心の中にいるんだよ。信じていれば、いい子の名前にはサンタクロースはきっときてくれる。』




***




「ジングルベール♪ジングルベールすっずっがーなるぅー。」


この前家から持ってきたクリスマスの飾りたち。
これを取りに帰っていたと後日話したら、安静にしていろ。と怒られてしまった。


「すっずっのーリズムにっひかりの輪がまーうっ!」

「ご機嫌だねぇあだ名たん。」

「うんっ!!」


クリスマスだよクリスマス!!
サンタさんだよサンタさん!!
浮かれないわけないじゃない☆

ただいま私は執務室に持ってきたツリーを組み立てて(ヒュウガに組み立ててもらった)、飾り付けをしています。


「もぉーろーびとぉーこぞーりぃーてぇー」

「…何をしている。」


会議から戻ってきたアヤナミさんは開口一番に訝しげな目をしながら、脚立にのって天辺のお星様を飾ろうとしている私に話しかけた。


「ツリーの飾りつけ。」

「そんなもの許可した覚えは無い。今すぐ片付けろ。」


そんなもの…
そんなものだなんてひどい!!


「ヤだ!!」

「…二度も言わせるな。」

「ヤだヤだ!!ヤダー!!」


脚立の上で足をまるで駄々をこねる子供のようにバタバタさせる。
そんな私をみんな驚愕の目で見てくる。


「絶対ヤだ!クリスマスは譲らないから!」

「なぜそこまでしてそんなものを飾る必要がある。」


だって!!


「ツリー飾らないとサンタクロースがプレゼント運び忘れちゃうかもしれないじゃない!」


部屋の隅で肩を震わせて笑っているヒュウガが視界に入った。


「ヒュウガ!何笑ってんのよ!」


ヒュウガに飾りの小物を投げつける。
その反動で脚立がグラリと動いた。


「きゃっ!」


揺れる脚立から落ちてゆく私を、アヤナミさんがしっかりと受け止めてくれた。


「こんな不安定なものの上で暴れるな。」

「はぁーい。」


そのまま下へ降ろされるかと思いきや、腰辺りを掴まれてツリーの上へ高く上げられた。


「え?」

「それをつけたいのだろう?」


右手の星に目をやると、私は大きく頷いてツリーの頂上につけた。
ストンと私を降ろしたアヤナミさんはもう何も言わずにイスに腰掛ける。


「それは認めてやろう。だが、傷口が開くようなことだけはするな。」

「アヤたんってばやっさしー。」


バシィィィィッ!!


あ…久々だな……


「名前さんはクリスマス、お好きなんですか?」


カツラギ大佐が飾り付けの終わったツリーを見上げる。


「はい!サンタさんが、プレゼントを持って夜に枕元に置いていってくれるから。」

「サンタさん…ですか。」

「名前ー。サンタさんはいないんだよ?」


何を言ってますかクロユリくん!!


「サンタはいるの!信じてる人の心の中に、ちゃんといるんだよ。ですよね?カツラギ大佐。」

「…まぁ……そうですね。」

「ね?コナツ!」

「…え?え…まぁ……」

「ハルセさんもそう思うでしょ?」

「貴女がそう信じていらっしゃるのならそうかもしれませんね。」

「ヒュウガは?!」

「…どーかなぁー。いるかなぁー?いないかなぁー?」

「いるの!!ね、クロユリくんもいると信じて!」

「う、うん……」




***




「あだ名たん、アレ本気で言ってんのかなぁ……」


名前がいなくなった執務室で、ヒュウガがポツリともらした言葉に皆の手が一斉に止まる。


「どうでしょうか…。」

「でもさー、サンタ信じてるってことは今までずっとプレゼント貰ってたってことでしょ?」

「そうですね……。ではクリスマスはご両親のいる元の世界に戻られるんでしょうか?プレゼントを貰いに…。」

「名前に両親はいない。ここに初めてきた数日前に他界しているそうだ。」


シーンと静まり返る執務室。


「ここに初めて来た頃??すっごく明るかったよね、コナツ。」

「はい……。」

「では、戻っても今年は誰もいない…ということでしょうか?」

「それじゃぁプレゼントくれる人いないんじゃ……」

「「「「「「………。」」」」」」




***




クリスマスイブ当日。


「アーヤーナーミーさんっ♪」

「何の用だ。」

「今日はクリスマスですねー。」

「それがどうかしたか。」

「夜は雪が降るらしいですよ。」

「だから何だ。」


つれないですねぇ…


「今日くらいはずっと一緒にいたいです。」

「……善処しよう。」


わーい!
一人浮かれて喜んでいると急に後ろからヒュウガに肩を掴まれた。


「何?」

「ちょ、ちょちょちょ、ちょっと2人とも!今の会話何っ?!」


ヒュウガだけじゃない。
執務室にいる皆驚いた表情をみせている。


「何って…ただの会話。」

「ただのじゃないでしょ?!恋人みたいだったよ?!」


え?
だって…


「恋人だもん。」


驚いた表情から一変、目が点になっている。


「ですよね、アヤナミさん。」

「あぁ。」

「いつから?!」

「私が病室で初めて目が覚めて、皆がお見舞いから帰ったすぐ後。」

「あれからちょっと経ってるけど全然そんな雰囲気2人ともなかったよね?!昨日のツリーの時ぐらいだよ?!」

「私だってイチャイチャしたいけど……アヤナミさん仕事ばっかりで構ってくれないんだもん。」

「イチャイチャしたいの?!アヤたんと?!」


もーヒュウガしつこい。
うるさい。


「あたりまえじゃん!」

「今日クリスマスイヴだけとベットの上で激しい運動はダメだからね!!まだ傷口開いちゃうから!!」

「……下ネタ嫌い。」


ヒュウガのお腹に軽くパンチを入れて、私は自分のイスに座った。
すぐ近くでムチのしなる音が聞こえてくる。


「クリスマスイヴに仕事かぁ〜。」

「名前さんは休養中なのですからお仕事なさらなくてもいいのですよ?」

「うーん……一人は落ち着かなくて。」


というか寂しいし。


「よし!皆が少しでも早く終わるように私も頑張るから、バンバン雑用押し付けてね!」




***




皆の仕事が終わったのは夜の8時。
それから皆でご飯を食べに行った。


「いやぁ〜見事にカップルばっかだったねぇ…」

「ねー。見てるこっちがじれったいよ。」


ヒュウガとアヤナミさんはお酒を飲んだため、私に話しかけてくるヒュウガの息が酒臭い。


「私も飲みたかったなぁ。」

「二十歳になるまで飲まないと約束したはずだ。」

「しましたね〜。」


アヤナミさんの目が始終怖かったため結局一口も飲むことができなかった。
目を盗んで少しくらい飲もうと思ってたのにさ。
あ、でも息でバレるか。


「では、わたくしたちはここで。」

「おやすみー名前。」

「おやすみなさい、ハルセさん、クロユリ君。」


曲がり角でクロユリとハルセが先に自室へと戻って行った。


「コナツは恋人とかいないの?」

「残念ながら。」

「コナツにはオレがいるから☆」

「……あーコナツはヒュウガのお守りでいっぱいいっぱいなのね。」

「はい…。」

「え〜。コナツもあだ名たんもひどいよー。」

「では、私たちもここで。」

「おやすみーコナツ。」

「おやすみなさい。」

「じゃーねー。」

「クリスマスだからってはしゃいで起きてちゃダメよ!ヒュウガ。」

「あだ名たんじゃないんだから☆」


そんな子供じゃないもん!!


「とっとと寝ろ!!」

2人の後姿を見送る。
もう少しお酒に付き合って。とヒュウガがコナツに言っているのが微かに耳に入った。

聖夜だ。
子供だって大人だってはしゃいでいいの。

ヒュウガの自室にコナツが入っていくのを横目に見ながら、私はアヤナミさんの横に並んだ。


「雪、降りませんね。」

「そうだな。」


ちょっと前まではしゃべりかけても一言で返されて、すぐに静寂になるこの雰囲気が苦手だった。
会話がもたないのが嫌い。

でも今は違う。
ちょっとしたことで話しかけても他の人なら無視するくせに、私にはちゃんと返事してくれる。
それがちょっと『特別』なのかな。って今は思えたりするんだ。

通りかかった私の自室の前で私は立ち止まった。


「それではアヤナミさん、おやすみなさい。」


それに気づくとアヤナミさんも立ち止まって私を見下ろした。


「今日くらいは一緒に居たいと確か言っていたはずだが。」

「?はい…。」


確かに言ったけど??


「今日はまだ終わっていない。」

「じゃ、じゃぁ!まだ一緒にいていいんですか?!」

「そう言っている」


そう言って歩き始めたアヤナミさんの腕に私の腕を絡ませて、私も歩く。
行き先は、アヤナミさんの自室だ。




***




先にシャワーを浴びろ。と半分強制的にお風呂に入った私。
今、アヤナミさんがシャワーを浴びている。

…どこに座っていたらいい??というのが今の私の問題。


「ベッド??」


いやいやあからさま過ぎでしょ自分!!


「ソファ??」


でもベットから遠いし…って、『する』前提で考えている自分がイヤだ!!
あぁ…どどどどうしよう……。

落ち着け自分!
とりあえず落ち着くのよ!!


「…何をしている。」


深く深呼吸しているところをバッチリ見られてしまった。


「は、早かったですね!!」

「ダラダラと入ると反対に疲れるだけだ。来い。」


ベッドに腰掛けたアヤナミさんは私を呼んだ。


「なんですか?」


腰に腕を回され、アヤナミさんの足と足の間に後ろ向きに座らせられた。
背中に感じるアヤナミさんの吐息。
それだけで私は体を硬くした。


「今日は別に何もしない。そんなに硬くなるな。」


耳の裏に軽くキスをしながらそんなことを言われても説得力と言うものが欠けている。


「何もしないって…」

「傷口が開いても困るからな。」


少し安心。
少し残念…
て、自分バカ?!


「じゃ、お茶でも淹れましょうか??」

「いい。もう私は眠い。」


私を抱きしめたまま横に転がるアヤナミさん。
ボスッという音と共にベッドのスプリングが軋んだ。


「名前。こっちを向け。」


少しだけ腕が緩められ、私はアヤナミさんの方に体を向けた。


「名前のいう『イチャイチャ』というものはわからぬ。」


いや貴方、これをいちゃいちゃと言わずになんというんですか?!
ものすごく恥ずかしいんですよ!!


「だがこうやって私を癒せ。…お前といると落ち着く。」


髪、額、頬、そして唇にキスを降らせてくる。
上唇を食み、深く深くなってくるキスに酔いしれながら、私は目を瞑った。




***




夜中…皆が寝静まっているであろう時間。
私は眠っているアヤナミさんを起こさないようにベッドを抜け出して一度自分の部屋に戻った。

そこに置かれている皆へのプレゼント。
名前、今からサンタクロースになります!!

ヒュウガから教えてもらったピッキングで鍵をこじ開けてハルセ、クロユリ、カツラギ、コナツとヒュウガの順にそれぞれの自室へ眠っている彼らの枕元に置く。

抜き足…差し足…忍び足とはこういうことを言うのか、と緊張の面持ちで、ヒュウガの枕元にプレゼントを置いた。

やはりアレから2人はお酒を飲んだのか、二人並んでベッドに眠っている。
なんか、本物のカップルみたいだ…
なんて腐女子な発想をしながら、私はコナツの枕元にプレゼントを置いた。
ま、コナツにそんなこといったら怒られそうだが。

おっし、終わった!


「う〜むにゃむにゃ……」



うおっ!びびったぁ〜…
ヒュウガのバカ寝言で驚かさないでよ!!

私はヒュウガを一睨みして、またそっと部屋を出て行った。


「……かっわいーことしてくれるね〜あだ名たん。」

「少佐、脅かさないであげてください。可哀相でしたよ。」

「面白かったの間違いでしょ?」


ばっちり起きていた(正しくは気配で起きた)ヒュウガとコナツが小さく呟いていたことも知らずに……



一番緊張するのがまたベッドに入る瞬間だ。
きっと一番アヤナミさんを起こしやすい瞬間。

アヤナミさんの部屋へ戻ってきた私は、ゆっくりとベッドに乗っかり、息を静めて横になる。
そして私はアヤナミさんの枕元にもそっとプレゼントを置いた。
一番サンタさんなんて信じてなさそうな人だけどね…


「大好きです、アヤナミさん。」


頬に小さくキスをして、私の真夜中の任務は完了した。




***




気持ちよさそうにアヤナミの腕の中で寝息を立てている名前を見下ろしながら、起こさないように優しく横髪を耳にかけた。
枕元には小さなプレゼントが一つ置いてある。

名前が部屋を出て行ったのも、プレゼントを枕元に置いたのも、すべて知っている。
そして、先程からアヤナミの自室の前で騒々しいくらいの気配が蠢いていることも。


『さっきね、あだ名たんに夜這いされちゃった☆』

『……少佐、そんないかがわしい言い方しないでください。』

『ボクのところにもきたよー!!頑張って静かに入ってくる名前が可愛かったー!!』

『おや、クロユリ様のところにもですか……』

『ということは…皆プレゼントを??』

『そういうことになるねぇ……。オレら気配でわかっちゃうのにねぇ。』

『可愛らしいですよね。』

『嘘寝に気づかないとこも含めてね☆そろそろあだ名たんもう寝たかな??』

『少佐!少し声が大きいですよ!飲みすぎです!』

『酒臭いよ〜』

『あぁ!すみません中佐。』

『おや、みなさんもうお集まりでしたか。』

『カツラギ大佐まで…』

『みんな目的は同じのようですね。』

『そろそろ入りましょうか。』

『待って!!どうしよう!アヤたんとあだ名たんがお楽しみの最中だったら……』

『『『『……』』』』


静かにしゃべっているが、ドア越しの丸聞こえの声。
ヒュウガの発言に、アヤナミが殺気を放つ。


『……アヤたんは起きてるみたいだね☆』

『少佐。お願いですから少し黙っててください。』

『では、開けますよ。』

ハルセが音を立てずにドアを開く。
真っ暗の部屋の中に入ると、ベッドで眠っている名前に腕枕をしているアヤナミがまず最初に瞳に飛び込んできた。


『アヤたんが腕枕してるー!!』


鋭い視線がヒュウガに送られる。


『ホントに、ホントに黙っててください少佐ぁ!!』

それぞれが持ってきたプレゼントを名前の枕元に置いていく。


『ここでいいですかね?』

『ベッドに乗りきらないよー!』

『では私のは床に置いておきましょう。』

『じゃーねアヤたん☆』


ぞろぞろとやってきたメンバーは名前にばれることなく、そっと部屋を出て行った。


「皆に…愛されているな。」


置いていかれたそれぞれのプレゼントを眺め見ながら、アヤナミは自分の腕の中で眠っている名前に愛おしそうに呟いた…

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