第24話 『鏡の向こう側』
鏡よ鏡よ鏡さん。
世界で一番美しいのはだぁれ??
……え?
アヤナミさん??
「うっっは!!嫌な夢見ちゃった!」
書類を見直しながらいつの間にか寝てしまっていたらしい私は、悪夢によって目を覚ました。
「あだ名たんサボりー?」
「小休憩♪」
この文字の羅列見ただけで眠りに誘われるわけよ。
ようこそ、夢の国へ!みたいな。
「ヒュウガよヒュウガよヒュウガさん、世界で一番美しいのはだぁれ?」
「急に何?!オレ鏡?!…えっと、……あだ名たん☆」
「ありがとーヒュウガ!でもね、その間いらない☆」
無理矢理言わせたみたいじゃんか!
「ヒュウガもアヤナミさんが一番綺麗とか思ってるんでしょ?!」
「アヤたんねー。美人さんだよねー。女だったら恋人に欲しい感じ♪」
「だぁいじょうぶ♪あの顔なら男と男でも違和感ないって☆むしろ有りだよっ!」
BLばんざい!
「そうだよ……ね…………。わ〜……オレ仕事しよっと……」
急にそそくさと逃げるヒュウガ。
「急にどうし「一度地獄を見てくるか、名前?」」
血を這うようなアヤナミさんのおっそろしい声。
別に怒鳴っているわけでもないのにどうしてこんなに怖いのかしら??
背筋に嫌な汗が流れる。
ヒュウガはもうすでに自分の机に戻って書類と向き合っていた。
くそう。卑怯なり!!
「この年で地獄を見るのは早いかなぁ〜なんて……鬼のパンツ洗濯したくないし。」
「そうか…そんなに見てみたいか。なら貴様の望みどおりに…」
「ごめんなさい!二度と違和感ないなどといいません!誓います!」
もうこうなれば必死こいて謝るしかない。
逃げられないことは目に見えているのだから。
「わかればいい。名前、鏡が落ちている。」
いつの間に床に落ちたのか、トリップの原因である母の形見の鏡がアヤナミさんの視界に入った。
「あれま。失くしちゃったら困るのに。」
拾い上げてポケットに直そうとすると、アヤナミさんに止められた。
「それが例の鏡か。」
「はい。意識してコレに触っちゃうと行き来しちゃうんですよねー。まいったまいった☆」
「何故鏡ごときでそんな芸当ができる。」
そんなこと私に聞かれても…
「さぁ?」
できちゃうもんはできちゃうんですよね。
「戻れなくなったりとかしちゃったら困るんじゃないの??」
裏切り者のヒュウガがまた私の方へやって来た。
なんだよ、さっきは逃げたくせに。
「そりゃぁ…。」
ん?
困るのか?
別にあっちに帰ってもなんにもないけど……
待ってくれてる人だっていないし。
「そのときはそのときってことで。」
「いいの?」
「うん。こっちのほうが楽しいし♪好き!」
満面の笑顔で笑う。
「愛の告白されちゃった☆」
「してねーよ☆ここが好きっていったの。」
ここの空気も人も空も全部大好き。
「鏡の向こう側ってあだ名たんの世界なんだよね?オレらはいけないの?」
え?!
逆トリップ?!
「どうだろ…。あっちの世界に行きたいって願いながら触ってみたら?」
それで全ては解決だ。
「では失敬して……」
……
まままっまままままままままままマジで?!
どうしよう、ヒュウガが鏡に触れた瞬間消えちゃった………
「行くぞ、名前。」
「えぇ?!行くんですか?!」
次いでアヤナミさんも鏡に触れる。
背後では「ボクも!」だなんて無邪気なクロユリとそのまた後ろをついてくるハルセ。
コナツは呆然とそれを見ていた。
「コナツも来る?」
「戻ってこれますか?」
いや、来れる来れないじゃなくて…
「何が何でも戻って来させます!」
元の世界にいられても迷惑だし。
「行きます。少佐がはしゃぎすぎないか心配ですし…」
うん、そうだね。
ぜひそうしてくれると助かるよ。
ストッパーは必要だよね。
「では私はお留守番をしていましょう。帰ってこられるのをお待ちしておりますよ。いってらっしゃいませアヤナミ参謀。」
カツラギ大佐相変わらず大人だね!
「いってくる!」
私が鏡に触れると鏡も一緒に元の世界に戻った。
なるほど、他の人が触っても鏡は移動しないが、私が触ると一緒に移動するということなのね。
ってあんたたち!
人の部屋舐めまわすようにじっくり見ないでよ!
うぎゃぁ!
そうだ!
BLだけは隠さなくっちゃ。
「これがあだ名たんの部屋…」
「ね、ね?このクマさんちょーだい!!」
ん〜それはちょっと……
「貰い物だからあげれないの。」
人から貰ったものはどんな事情があれ人にあげることはしない。
「そっかぁ…」
そんなしょんぼりしないでクロユリくん!
「そのかわりこのうさちゃんをあげよう!私の手作りなんだ。貰ってくれる?」
「手作り?!すごい!オレが欲しい!」
いや、ヒュウガ…自分の年齢考えてものを言え。
その図体でピンクのうさちゃん?!
ありえんだろーよ。
「クロユリにあげるの!」
「ありがとう名前!ボク大事にするね!かわいい!」
ムギュッとうさちゃんに抱きつくクロユリ。
おぅ……かわいいのはお前のほうだぜベイベー。
お姉さん鼻血でちゃう…
「ティッシュどうぞ。」
「ども。」
コナツ、気が利くわ。
「一人暮らしにしては広いな。」
「まぁね。」
一応高級マンションの最上階全部が私の家だから。
みんなが泊まるくらい大差ないけど……
「そろそろ帰りませう。」
「興味深いものがあるな。」
「なんですか?」
こっちに興味深いものなんてないでしょうに。
こっちにはリヒトザイルだってホークザイルだってないんですよ?
どちらかというとあっちの世界のほうが文明も何もかも進んでるでしょう?
「この本はなんだ?」
うぎゃぁ!
BLは手に取っちゃダメ!
ダメ!!
置いてください!
「それは…女の子のための本??ささ、本が読みたいなら父の書斎に山ほどありますから!」
無理やり押して私の部屋から追い出す。
ふぅ…やれやれだ。
「ね〜これ何〜??」
休む暇ねぇ!!
「それはアルバムです。見たら斬り殺します☆」
ニコッと笑顔。
とりあえずこの人たちを落ち着けよう。
そう、落ち着けて…
「外出てみたい!」
「落ち着けぇぇぇぇぇー!!」
思い切り叫ぶと皆の視線が一気に私に集まる。
待ちに待った静寂がやっときた。
「外には出ちゃダメ!」
あからさまにヘンなコスプレ集団と思われるでしょ!
服着替えても……だめ。
女の子寄って来そうで面倒くさい。
それに親族に見られると厄介だ。
「あのね、外には出ないで欲しいの。その…私の都合的に…色々とあって……」
「わかった!ボク名前が困ることしないよ!」
「いい子〜ぉ〜〜」
お母さん涙が出ちゃう…
「でもね、一つお願いがあるの!」
「なぁに?」
「今日はお泊まりしたいな♪」
……マジですか?
いや、帰りましょうよ。
「これだけ広いなら皆泊まれるでしょ?」
アヤナミ、ヒュウガ、クロユリ、コナツ、ハルセ…5人……
「残念だけど…客室は4部屋しかないんだよねぇ…。」
「私と名前が一緒の部屋で寝ればいい話だ。」
いやいや、アヤナミさん?!
貴方の部屋のベッドと違ってシングルなんですけど!
2人はめっちゃ狭いよっ!
「いいなーアヤたん、オレも寝たーい!」
「お2人で寝られたら…」
いいのでは??
「何か言ったか?」
「めめめ、滅相もございませんでござりませぬ!!」
聞こえてたくせに!
怖いよ!!
「私が名前と寝る。問題でもあるか?」
問題はないけど…不満はあります!!
「…ないでぇーす。」
小心な私だこと。
***
お風呂も入った。
ご飯も食べた!
でも…
「もっとこっちへ来い。落ちるぞ。」
腰に腕を回されアヤナミさんにピッタリとくっつく私の体。
心臓がぁ!
心臓がぁぁ!!
破裂するぅぅぅぅ!
「ちょっと、近すぎやしませんか…ねぇ?」
「そんなことはない。」
視線がバッチリと絡み合い、アヤナミさんは私の髪を指に絡ませる。
ダメだ、何を話していいのやら…
「み!皆もう寝ちゃったでしょうか??」
「さぁな。」
ふたたび沈黙……
だ!ダメ!
この沈黙、静寂耐え切れない!!
これならもう…さっさと聞いたほうがマシだ!
するならするで、どんとこい!だ!!
「アヤナミさん!」
「何だ。」
「あ…その……今日するつもりですか??!!」
夜の情事とやらを。
アヤナミさんはちゃんと察してくれたのか、口の端を吊り上げて指に絡ませていた髪にキスをする。
「期待させたか?」
「し、ししてません!」
「そうか?だが緊張はさせたようだ。」
前髪を軽く上に上げられておでこにキスされた。
「今日はするつもりはない。」
「どうしてですか?」
「聞き耳を立てている奴に名前の愛らしい声を聞かせて平気でいられるほど、私も大人ではないということだ。」
聞き耳…
愛らしい声…
素直に照れていいのか、ドアの向こうの人に怒るべきなのか…
必死に迷っていると顎を持ち上げられそのまま振ってくる口づけに心の準備もする暇なく、唇が触れた。
「それに、こうしてお前を愛すのも悪くはない。」
抱きしめて、キスして、髪を撫でる。
ただそれだけだけど愛は確かに感じるよ。
感じてるよ。
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