第26話 『鏡餅の上は蜜柑じゃなく橙』
新年が明けました。
もちろん、ブラックホークにお正月なんてものはありません。
おせちだって食べてません。
ちょっと戻って年越しそばだって食べてません。
お雑煮も、黒豆や海老も食べてません。
凧揚げもしていません。
羽子板だってしていません。
福笑いもしていなければ姫はじめもしていません!!
……ま、そういう雰囲気になったらなったで戸惑ってテンパる救いのない私、名前ちゃんでお送りいたします。
***
「かっがみもちの上はぁ〜♪蜜柑じゃなくて〜橙!橙!♪どんな味かわからないー。」
だって、食べた事ないもん。
「あだ名たん…そんな歌初めて聞いたよ…オレ。」
「そりゃそうだよ。だって今私が即興で作った歌だもん。」
鏡餅を眺めていたら上に乗っている橙に目がいったのだ。
そしたら私は橙を食べた事がない事に気がついたのさ。
「甘いかな?」
「さー?オレも食べた事ないからなぁ〜。飾ってあるイメージが…」
そうなんだよねぇ…
食べ物ってより飾り物のイメージがあるんですよねぇ…
「橙の色は〜コ・ナ・ツの瞳の色〜♪蜜柑の色は〜コ・ナ・ツの髪の色〜。好きさ〜好きさ〜ハチミツかけて食べたいぃ〜♪」
ハチミツ漬けなんかもおいしそうかも!!
「コナツが食べたいってさー。」
「少佐、そんなくだらない歌に付き合う暇があったら仕事してください。今日中に提出しないといけない書類が山ほどあるんですよ!」
「…おいしそう……」
コナツを見れば見るほど食欲が…
うぉっと、よだれが……ヤバイヤバイ。
「名前さんも、あまり浮かれないでください!静養室で少しは安静に…」
「ノンノン!!我輩の辞書に安静という文字はあーりませーん。」
クリスマスの日に傷口が開いたからとアヤナミさんに怒られ、コナツに呆れられ、ヒュウガに笑われた。
今日は1月1日。
傷口もほとんど治りかけてきている。
傷跡は、消えないかもしれないけど、いいのさ。
「ではせめて静かに邪魔はしないでください。」
「だって暇「しないでください!!」」
…怖いよ、コナツ。
新年早々怒ってたら今年一年怒ってばっかりになっちゃうかもよ?
「ねーアヤナミさん、かまってー。」
コナツから標的をかえ、アヤナミさんの机に顎を乗っけた。
「……」
あ、シカトですか。
彼女をシカトですか。
「グレちゃいますよー?」
「…」
うん、プライベートとお仕事は別ですよね……
そうですよね…
「じゃあ私にもお仕事ください。」
「ではお前にしかできない仕事をしてもらおう。」
私にしかできないこと?!
いやん、嬉しい!
「今すぐ静養室に戻って寝ていろ。」
やっぱ嬉しくないぃ〜。
「別の仕事がいいです。」
「他の仕事などない。」
うっそだぁ!!
そこの机に乗ってる処理済の書類とか各部署に届けるんでしょ?
本来なら私の仕事じゃん!!
「書類には一切触るな。」
…暇すぎて死にそう……
「少佐!どこに行くんですか?!仕事が溜まってるんですって!これ以上仕事したら死にそうです!!」
コナツ見てると…まだ暇すぎて死にそうな方がマシかな……って思うよ。
マジで。
アヤナミさんが各部署に届ける書類を持ち、イスから立ち上がった。
「あ!私が届けますよ?」
「私は休めと言ったはずだ。」
頑固者め。
「じゃ、ついて行きます!」
「一人でできる仕事を2人でする必要性はない。」
「だって参謀の長官であるアヤナミさんが直々に書類を届けるなんて雑用してたら、みんなが驚きますって!!」
「気にすることはない。」
あなたはね。
でも皆が驚くと思うの。
さっさと歩き出すアヤナミさんの後ろを追いかける。
怪我なんてほとんど治っているのに過保護すぎる。
これも愛ゆえ??なーんて……えへへ。って、自分で言って照れてどうすんのよ……
アヤナミさんは普通に歩いているのに、私は軽く小走り。
足の長さが違うだけでこんなに差が出るなんて…
「私、ついていったらダメですか?一人は寂しいのでアヤナミさんと一緒にいたいんですけど。」
「…邪魔にさえならないのなら、構わない。」
アヤナミさんの歩く速度が下がり、私に合わせるようにゆっくりになった。
「邪魔に、なってるじゃないですか……」
歩く速度が下がるということは仕事の速度も下がるということだ。
「邪魔になっていないから側にいるのを許している。」
仕事の速度が落ちているのは確かだ。
でも、嬉しいと思ってしまうのは少し不謹慎かな??
***
あれから元の世界に行って、この世界にはないものを持ってきた。
「あったかいねぇ…」
「寝ちゃいそう…」
コタツはこの世界にはなくて、頑張って一式持って来てみた。
「この足誰かなぁ〜?」
「ぎゃう!ちょっとヒュウガ!!痛い!」
アヤナミさんの隣に私が座っているから、私たちの足があたることはないが、向かいにいるヒュウガとコタツの中で足があたる。
コナツとカツラギ、ハルセは正座をしているためあたる事はない。
そんなに大きなコタツじゃないから助かった。
「蜜柑食べる??」
「あだ名たん、鏡餅の上に橙もあるよ!食べたことないなら今がチャンスじゃない?!」
「トランプしようよ!」
「大富豪がいいなー。」
「シンプルにババ抜きはどうでしょう、クロユリ様?」
和むぜ〜
ま、私の右横でこの雰囲気の中でも書類を離さない人はこの際放っておこう。
「アヤナミ様もババ抜きしますか?」
「遠慮しておこう。」
せっかくクロユリが誘ってるのに〜
トランプ配られ、始まるババ抜き。
最初こそは順調な私も…後半では
「はい、名前さん。」
ひいてください。とカツラギ大佐が私にカードを向ける。
「ん〜じゃぁ…コレ!!」
…げ、ババひいちゃった……
カツラギ大佐…ニコニコしてるからババなんて持ってないと思ってたよ…
侮り難し。
「どーぞ、クロユリくん。」
一度カードを混ぜてクロユリにカードを向ける。
「今ババひいたでしょー?」
う゛!
するどいよクロユリくん…
「あだ名たん顔に出やすいねぇ〜。わかりやすい。」
笑うなヒュウガの分際で!!
「正直でいいでしょ?」
「その正直の前に『馬鹿』っていれたほうが適切かもね☆」
…ぜってぇこいつより先にあがってやる!!
「クロユリくん、ひいて!!」
手元に残っているカードはあと2枚。
ババと8を持っている。
それにひきかえクロユリは1枚。
「名前〜。」
「何?」
「8、持ってる??」
……
顔に出しちゃだめ
顔に出しちゃだめ
顔に出しちゃだめ…
「…も、持ってないよ……」
「そっかぁ…。で、どっちが8??」
エンジェルスマイルは反則っすよぉぉぉぉ!
「顔に、出てた?」
「うん♪」
「……献上いたしまする」
泣く泣く8を献上する。
そのスマイルに勝てるはずがない……
「わーい!!ボクいちばーん!」
で、結局
1番クロユリ
2番カツラギ
3番コナツ
というところまでは決まった。
「あだ名たん、数字の3はどっち?」
だーれが教えるもんか!
それが通用するのはクロユリぐらいだよ。
…別の意味でアヤナミさんも、かな?
教えないと怖そうだし…
よし、顔に出るってんなら顔伏せてやる!!
「ねーあだ名たん、オレが勝ったらチューしてくれる?」
「アヤナミさんが良いって言うなら。」
絶対言わないってわかってるもんねー。
「アヤたん、いい「黙れ。」わけないよねぇ〜」
おぉ!
さすがアヤナミさん!
一言でヒュウガを黙らせたよ!!
「じゃぁ、蜜柑をあ〜んって食べさせて?」
「蜜柑じゃなくて橙じゃだめ?」
「オッケ!」
「じゃ、橙をあ〜んね。私が勝ったら?」
「オレのチューを「いらない。」……じゃぁ、「サングラス外して?」……いや、それは……」
「外して?」
「…りょーかい。」
交渉成立。
「どっちでしょ?」
「こっち。」
ヒュウガは迷いなくババ…じゃないほうをひいた。
「うわーん!!アヤナミさん負けたぁー!!あ〜んなんて食べさせたくなーい!」
「往生際が悪いなぁ〜。はい、あだ名たんあ〜ん。」
口を開くヒュウガ。
私は鏡餅の上にあった橙を手にとって一個まるごと口にいれてやった。
「ふごっ!」
もちろん皮なんて剥いてない。
文字通り丸ごとだ。
「美味しい?」
「裂ける裂ける!あだ名たん口裂ける!」
「自業自得です、少佐。」
…あ!
ヒュウガの口に入れたせいで結局橙食べれないじゃん!!
「私の代わりにたんと味わっておくれ…」
***
ポカポカでお腹もいっぱいになった。
アヤナミさんと私以外、皆コタツに足を入れたまま横になりいつの間にか眠っている。
「皆寝ちゃいましたね。」
「そうだな。」
「アヤナミさんは寝ないんですか?」
「私は眠くなどないからな。」
私と話しているのに書類から目を離さない。
「アヤナミさん。」
「何だ。」
「アヤナミさん。」
「…何だ。」
こっちを向いてよ。
せっかく一緒にいるのに寂しいじゃないですか。
仕方ない、最終奥義!
必殺、書類取り上げ!!
「……何をする。」
「構ってくれないアヤナミさんが悪いんです。」
昔だったらこんなこと出来なかったし言えなかったなぁ…と思う。
怖くて、ムチが飛んできそうでできなかったもん。
「何か話します?それともトランプでもしますか?」
私がトランプを取ろうとするとその手を掴まれた。
次いで引き寄せられ腰に手を回される。
「な、に…」
「構ってほしいのだろう?ならお前の望みどおり叶えてやろう…」
後頭部に手を回されてゆっくりと触れてくるアヤナミさんの唇。
思わず目を閉じてしまったせいで感覚がより鋭くなる。
歯列をなぞるぬるりとしたアヤナミさんの舌。
それが私の舌と絡み合えば何度も何度も角度を変えて口づけをより深くしてくる。
「んっ、ふ……ぁ…ア…ヤ……ミさ…」
口づけに酔いしれアヤナミさんの首に自分の腕を回し、無意識の内にアヤナミさんを求める。
舌が擦れるたびに快楽に溺れていく。
「っ…ァ……」
唇を離すと交じり合った唾液が名残惜しそうに2人を結んだ。
「いやらしい顔だな。」
「っ、アヤナミさんのせいです!!」
「誘ったお前が悪い。」
誘ってないもん!
構って欲しかっただけだもん!!
ちょっぴり悔しくなったからキスしてくれて嬉しかったことは黙っておこう。
『コナツーオレも彼女ほしいー。』
『…』
『あれー?コナツ2人のチュー見て赤くなったの??かわいー』
『黙ってください!!』
『それにしても……激しいキスだったねー』
『少佐!!』
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