第27話 『未来への岐路』



幸せを噛みしめて生きているから。
この幸せが続けばいいと願っているから。
私の未来がこちらの世界にあることを望んでもいいでしょうか?




***




夜。


「ただいま。」


絢爛豪華な振袖を身に纏って、私はふんわりとアヤナミさんの腕の中に落ちてきた。

今日は記念すべき成人式だった。
久しぶりに友人に会った。
でも感動なんてものはなかった。
愛想笑い。これが一番似合うだろう言葉。

そりゃそうだ。
そんな人付き合いしかしてこなかったのだから。

本家に集まった親族も相変わらずで、息が詰まるかのようだった。
それがイヤで抜け出してきた。
きっと今頃探しているかもしれない…
いや、いなくなったことにすら気づかないかも。

どちらにせよ、ここが私の一番落ち着く場所。
ブラックホーク。
アヤナミさんの腕の中…
私が帰ってきたい場所…


「あだ名たん綺麗!振袖といったらアレしかないよねー。」


あぁ…なんだかイヤな予感…


「こう、『あ〜れ〜〜』ってしたい!男のロマン!」


そんなロマンにはついていけません。


「『やめてくださいまし。お代官様』って言われるとなお良し!」


なんていうの?
よいではないか、よいではないか…ってやつ?
着物の帯をくるくると解いていくの、してみたいけど、されたくはないかな。


「ヒュウガ、黙れ。」

「はぁい。」


アヤナミさんはやっと私を降ろしてしばらく眺めた。


「あ、あの…何かヘンですか?」


落ちてくる間に乱れちゃった?!
あちこち振袖をみるがそんなことはなく、


「あ!もしかして髪の毛ヘン?!」


自分では見えないところが欠点だ。


「いや……綺麗で見とれていただけだ。」


目を細めて慈しむような視線を送ってくるアヤナミさん。
私は虚位をつかれて放心した。
こんなにもストレートに褒められるなんて思ってもいなくて、つっこむ言葉も出てこない。


「化粧をしているのか?」

「え?!あ、うん……」


唇に塗ってるのはアヤナミさんからもらったグロス。


「ずいぶんと官能的だ。」

「っ!」


か、官能的って!
官能的って!!
アヤナミさんなんかエロイよ!!
心臓が激しくなるっていうより止まりそうなんですけど!


「はいはーいストップ。周りの空気読んでね〜二人とも♪」


た、助かった……


「お化粧するとそんなにも変わるものなのですね。」

「お化粧って『化ける』って書くでしょ?」

「化けるって…あだ名たん妖怪みたい☆」


じゃぁ世の中の女性ほとんどが妖怪だよ!


「名前美人ー!もう大人なんだね!」

「早くクロユリくんもこっちにおいでね!」

「うん♪」


あ…やっぱりいつまでもそのピュアさでいてください。


「20歳かぁ…」

「あれ?でも誕生日まだだから19じゃないの?」

「そうなんだけどね。でもお酒は「19はまだ飲めないはずだが。」…でも成人式終わった…「関係ない。」」


アヤナミさん、厳しいよ


「それにしてもさー。あだ名たん、いつからかこっちの世界に戻ってくるとき「ただいま」っていうよね…」

「はぁ…それがどうしたんですか?」

「ただいまって、戻るべきところに戻ったときに言う言葉だと思うんだよね。」


…あ……


「そう、だね……」


私は、こっちの世界の方が私の戻るべきところだと…思ってる…??
うん、思ってる…。

でも、あっちの世界は?
戻らなくても平気。
だけど家族の思い出が残ってる……
手放したく、ない…

あれ?
私の世界はどっちだ??


「あだ名たん?!どうしたの?」

「へぇあっ?!あ…なんでもないよっ☆」

「なんでもないって顔じゃないよっ☆」


真似すんなっ☆

…ダメだ。
考えれば考えるほど…わからなくなる…


「ねぇ、あだ名たん。」

「えっ?!な、なに??」


やばい、また一人で考え込んでだ。
勘のいい人たちばかりだ。
悟られないようにしないと…


「振袖さ、脱がしていい??」

「結構です!自分で脱ぎます。」


ヒュウガに脱がせて貰うなんてそのままベッドインしそうでいやだ。


「じゃぁ、アヤたんだったら脱がせて欲しい?」


いや、どーしてそこでアヤナミさんの名前がでてくるわけ?
今そんな事一言もしゃべってないよね、アヤナミさん。
っていうかその質問困るんだけど!

いやだ。って言ったら傷つけちゃう?!
でも、うん。っていうのも…恥ずかしいわっ!


「……あーえっと……振袖って結構脱がしにくいと思うし…」

「それって、脱がせて欲しいってことだよね。」


はぅ!
しまった。
墓穴掘ったぁ!!


「…そうか。」


え?!
急にアヤナミさん何?!
何で立ってんの?!

一歩後ずさる私。


「何故逃げる。」

「アヤナミさんこそなんで近寄ってくるんですか!」

「脱がせて欲しいのだろう?」


っ…


「は、恥ずかしくて液体化しそうなのでやっぱり遠慮しておきますぅぅぅぅぅうぅぅぅうぅぅぅぅうっぅ……」


私はバサバサと裾を翻しながら、執務室から遁走した。


「液体化かぁ…ちょっと見てみたいかもね。」

「したらびっくりですよ、少佐。さてと、今日の執務も終わりましたし、あがりましょうか。」

「さんせーい!」




***




バタン。と勢いよくドアを閉める。
まったく、どこまで本気かわかったもんじゃない。
こっちの心臓持たないってーの!!

落ち着け心臓、落ち着け心臓…


「名前、私だ。開けろ。」


止まれ心臓!!


「…あの…お仕事は……?」

「終わらせてある。」


その言葉を聞いてから私は諦めてドアを開けた。


「先ほどは何を考えていた。」


二人用のソファに座りながらアヤナミさんが静かにそう言った。

やっぱりこの人も勘がいい。
きっと見逃してはくれないだろう。


「…私の、世界はどっちなのかと思って。」


アヤナミさんの横に座り、頭をコテンとアヤナミさんの肩に預けた。


「『ただいま。』というべきなのは…どっちの世界なんでしょう?」

「それはお前が決めることだ。」


はい。
そうですよね。


「だが…お前が我々に『ただいま』というのなら、我々もそれに応えよう。」


誰も「おかえり」と言ってくれない場所で「ただいま」と言うより、「おかえり」とたくさんの人が言ってくれる場所で、私は「ただいま」と言いたい。

過去はあちらの世界に。
未来はこちらの世界で。


「はい、ありがとうございます。」


そして…


「ただいま、アヤナミさん。」

「……おかえり、名前……」


優しく撫でられる頭。
私が求めている温かさ。


「アヤナミさん、キス、したいです。」


ソファと軍服が擦れる音がして、アヤナミさんの唇が私の唇に触れた。
だがその口づけは触れるだけという、この前したのとは比べ物にならないほど稚拙で、すぐに離れてしまった。
物足りなさにアヤナミさんを見ると、アヤナミさんはソファから立ち上がり私に向かって手を差し出す。


「私の部屋に来るか?」


真剣な面持ち。
透き通る声。
それらはいつもとは違う。


「それなりの覚悟ができているのなら…。」


その言葉が何を意味しているのか、わからないはずもなく…


「…はい。」


私はその手に自分の手を重ねた……

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