最終話 『孤独の中の神の祝福』
私は守られていた。
私の知らないところで
ずっと守られていた。
ルミナを殺した男が処刑されたことを知ったのはつい最近。
諜報部でたまたま耳にしたのがきっかけ。
知ったときは嬉しいような悲しいような複雑な心境で、ただわかったことは男が死んでもルミナはかえってこないということ。
そして私は守られていたのだということ。
私の知らないところでアヤナミさんは私が傷つかないように守ってくれていた。
温かくて優しいキモチ。
貴方に触れると心に光が差す。
まるで、孤独の中にいた私に貴方という光が降り注ぐかのように……
***
ベッドには二つの影。
月明かりしかないその部屋は暗闇がほぼ支配していた。
「ア、ヤナミ…さん。」
すでに脱がされた白い素肌にアヤナミさんの冷たい指が触れた。
ゆるゆると胸を揉まれながら首元には紅い痕を付けていかれる。
今まで感じた事のないほどの快楽と羞恥とが入り交じり、目尻に薄っすらと涙が浮かぶ。
決してイヤなのではない。
むしろ…と私は望んでいるのだ。
ただ、慣れていないというところが余計に心臓を締め付ける。
いつもの猪突猛進な私とは違う私。
女はいくつも色んな顔を持っているというが、本当にその通りだと思う。
今の私は『女』の顔をしている……
「名前…。」
私の名前を形作った唇がそっと押し当てられ、すぐに離れたかと思うと次はまだ戸惑いを見せる私の舌を絡めるようにして口づけられる。
何度となくキスはしてきたが、すべてを求められるようなこんなキスは初めてだ。
甘くて深くて、まるで食べられてしまうかのように貪られる。
絡め取られた舌を吸い上げられると、ぞくりと快感が全身を駈け巡った。
口の端から交じり合った唾液が伝い落ちていく。
「っ、はっ、アヤ…ミさ……。」
唇がやっと離れ、内太ももを撫でられると私はアヤナミさんの軍服を掴んだ。
「…やめるか?」
そっと頬に手を添えられる。
私はその手に自分の手を重ねて首を横に振った。
「ううん。違うの。…その、……アヤナミさんも脱いでほしい。」
私ばかりが裸では不平等だと微笑む。
「そうだな。」
目の前で上着を脱がれ、白いシャツも脱ぐと、やはり軍人なのだと再確認させられた。
無駄な脂肪なんか無い引き締まった体に綺麗に筋肉が張っていて、脱いで欲しいだなんて言った自分の言葉に後悔する。
そのスタイルが視界に入っているだけで心臓が跳ね上がるのだから。
アヤナミさんは脱いだ上着をベッドの下に放り投げた。
それはバサッと私の下着の上に落ちる。
「これでいいか?」
私は全身の血が沸騰しているかのように感じているのに、アヤナミさんは至って平然な顔をしている。
「は、ずかしく…ないの?」
「名前が私の分まで恥ずかしがってくれているようだからな。」
見抜かれている。そう思った瞬間、胸の突起を舌で転がされ始めた。
それと同時に秘部にアヤナミさんの指が数本はいってくる。
「っひゃぁ!ぁん…一緒には…ヤぁ……!」
「少しでも長く慣らさないとキツイのは名前のほうだ。」
そう言ってなおも攻め立てるアヤナミさんの指と舌。
狭い私の中をアヤナミさんの指が濡らし、広げていく。
部屋中に卑猥な水音と嬌声が止まることなく響き渡る。
「やッ、なんか…ヘ、ンになりそ……っぁん。」
甘く攻めたててくる指に全身の力が抜けたかと思うと、快感が一気に押し寄せてきた。
「っぁふ、ん……あぁっ!!」
「……イッたか。」
イッた??
今のが??
初めて迎えた絶頂に少しながらもたじろぎ、消え去っていた羞恥がまた一気にあふれ出してくる。
「挿れるぞ。」
両足を開かれ、あてがわれるアヤナミさん自身に全身が凍りつく。
あんなに煮えたぎっていた血も急激に冷めたようだ。
「あっ、や…待って…ぁあ、ああぁぁあっ!」
抵抗も虚しく、ゆっくりと入ってくる。
指とは比べ物にならないくらいの質量の大きさに息がし辛い。
2人繋がっている部分からは紅い鮮血が流れ出し、シーツにシミをつくった。
一度奥まで入りきると、優しくキスをされて激しい律動が始まった。
ベッドの軋む音が否応にも耳に入ってくる。
シーツをギュッと握り締めていた手をアヤナミさんの首に回し、快楽のままに爪を立てた。
中をかき回され、理性なんて文字はすでに無い。
すべてアヤナミさんに奪い取られてしまった。
急にピッチが早くなり、確実に絶頂へ追い上げてくる。
その上一番イイところを先程から攻められているのだ。
私の喘ぎ声だけでわかってしまったのだろうか??
最初より嬌声も大きく、甲高くなっている気がする。
いつも余裕綽々なアヤナミさんも息が荒い。
微かに洩れるアヤナミさんの声が私の快楽を一層煽った。
与えられる快楽に意識が飛びそうになるのを堪え、すぐそこまできている絶頂に身構える。
この体で、この心で、アヤナミさんの全てを感じたい。
そう心の中で思った瞬間、最奥を突かれ、私はまた絶頂を迎えた。
それに続くようにしてアヤナミさんも私のなかに白濁としたものを搾り出す。
波打つアヤナミさんの熱を感じながら、私は意識を放りだした。
***
朝、カーテンの隙間から差し込む朝日が眩しくて目を覚ました。
お互いに服など着ないまま眠ってしまったらしい。
体がベタベタとしていないのはアヤナミさんが体を拭くなどして、後処理をしっかりとしてくれたからだろうか?
だが、腰の痛みと倦怠感はそれでもあるらしく、私は起きたがらない体を叱咤してベッドから起き上がった。
まだ眠っているアヤナミさんの頬へキスをして、ふと鏡を見た。
その極めてシンプルな大きめの鏡は、一晩中アヤナミさんに愛された証を全身につけている私の素肌をうつしだしていた。
紅くて、消えるのも時間がかかりそうなくらい濃い痕。
それも首筋だけではなく、胸元、太もも、腕…背中、そして足の甲にまである。
文字通り全身につけられているのだ。
びっくりした私は、恥ずかしさと悔しさで下を俯き、思いついた。
同じコトを、アヤナミさんにして返せばいいのだと…
起こしてしまわないように一箇所、首元にキスマークをつける。
それに満足した私は服を拾おうと屈んだ。
服のポケットから顔を覗かせている形見の鏡。
私はそれを取り出すと、躊躇なくザイフォンで割った。
粉々とまではいかなかったものの、もう使いようが無くなってしまうほど割れたそれを私はハンカチの上に全て拾いあげた。
もうトリップはしなくていい。
私の世界はこちらの世界だ。
未来はアヤナミさんと共にある。
だからこの鏡を割った。
だけど、それと同時にこの鏡は母の形見だから…
割ってしまっても、大切に取っておこう。
割れた鏡の破片が乗っているハンカチを机の上に置いて、仕事に遅れないためにアヤナミさんを起こすべく、肩を揺らした。
「朝ですよー。」
もそもそと起き上がるアヤナミさん。
私は起きたのを確認すると下着を拾い上げ、ブラのホックを止めた。
「…大丈夫か?」
「何がですか?」
「…体は大丈夫か。」
「ぁ…、う、ハイ。大丈夫です。」
「なら次はもっと激しくしていいということだな。」
うぇ?!
朝からなんてこというんですか!!
「別にそういう意味じゃなくて…。純粋に心配してたんじゃないんですか?!」
「していたぞ?」
「うそだぁ…」
フッと笑ってアヤナミさんも軍服を拾おうと…して動きが止まった。
さっき私がキスマークをつけたところに、アヤナミさんは手をやり、そして先程の微笑とは違う黒い微笑を浮かべる。
「この私が気づかなかったとはな…」
「う゛。だって…私ばっかり痕ついちゃって…不公平ですよ。」
「不公平?私の背中に爪痕を残したヤツのセリフではないな。」
そう言って見せられた痛々しい爪痕。
…やべ。
「あ、あは☆これで平等ってことで!!」
急いで着替えた私たちは遅刻ギリギリの時間に部屋のドアを開いた。
「名前。忘れ物だ。」
部屋を出ようとした私に投げ渡したものは母の形見である鏡。
それを見て私は止まった。
「元に、戻ってる……」
割れた部分なんか一切無い。
むしろ割った形跡すらない。
「何か言ったか??」
「…ううん。なんでもない。アヤナミさん、急ぎましょう!!」
私は鏡をポケットに入れて、慌しくアヤナミさんの部屋を出たのだった。
鏡は何故だかわからないけど、元の形に戻っていた。
確かに、ザイフォンで割ったはずなのに。
でもこの鏡が元の形に戻っているのを見た瞬間に思ったの。
私の世界と未来はここにあるけど、過去はあちらにあるのだと。
悲しいだけの過去ばかりじゃない。
たまには…遊びにいってあげても…いいかな。って……
アヤナミさん、皆、今度お墓参りについて来てくださいませんか?
私、両親に紹介したいです。
大好きな皆だから。
愛してる貴方だから。
***
あぁ…生温かい目で見られているのは気のせいではないだろう。
ヒュウガ、その視線を書類に移してほしいんですけど。
「…何?」
「いやいや♪」
なんでもないよ、とばかりに笑うヒュウガ。
「…じゃぁこっち見ないで。」
「いやいや。」
ダメだ、会話になんねー。
「急に女の顔になったねぇ、あだ名たん♪」
「黙れセクハラ。」
もういやだ。
絶対バレてる。
うぅ、ただの男と女の営みをしただけじゃないかよ。
別に何かのプレイをしたわけでもないのにさー。
なんだよその目はよー。
「アーヤたん♪どうだった?どうだった??やっぱりあだ名たん処女だった??」
ビシィィィィィィィィ!!
…おバカねぇ…
「名前さん、こちらの書類任せてもいいですか?」
「おうよ!このミラクル名前ちゃんにお任せあれ!」
コナツはあくまで普通……に接してくれようとしているようだ。
おいおーい。
右手と右足が一緒に出てますよー。
何て古典的ギャグだよ。
ハルセとカツラギ大佐は大人だからいつも通りなのにさ。
え?
クロユリは、って??
うん、そこで寝てる☆
すぴょーって…可愛い……!!
「いーなーあだ名たんたちは幸せそうでー。」
「ヒュウガは幸せじゃないの??」
「幸せだよ、あだ名たんがいるから♪人の物っていうのもいいよねぇ…。」
え、略奪愛狙ってますか??
「アヤたんに飽きたらオレのところに…」
「いきません。ありえません。」
「じゃぁオレと浮気…」
「アヤナミさんに殺される覚悟があるのなら。」
「…ないでーす。」
はい、素直でよろしい。
「幸せの形は人それぞれだけど…今が楽しければそれでいいじゃん♪」
「だね♪」
「私ここが好き。この世界が、皆の側が。だから、私…この世界で生きる事にする。」
え?と皆の視線が集まる。
「それって…」
「もう決めたの。ダメ、かな?」
「ダメなわけないじゃんっ!」
寝ていたはずのクロユリが抱きついてくる。
「そうですよ。アナタが私たちの側を選んでくれたこと、すごく嬉しいです。」
「うぅ、カツラギ大佐ぁ…」
そう言っていただけると、すごく嬉しいです!
「ボクたちも、名前さんのことが好きですよ。ね、少佐。」
「もちろん♪浮気したいくらいに☆」
「ありがとコナツ…。一応、ヒュウガも……」
どうして、こんなにも心が温かくなれるんだろう。
「また楽しい日々が一緒に迎えられるのが嬉しいです。」
「私もです!ハルセさん。」
…そうか。
私がこの人たちを好きだからだ……
「アヤナミさん、これからも私をここに置いてくれますか?」
「名前にしては愚かな質問だな。」
「言葉にしてもらわなくてはわかるものもわかりませんから。」
「逃げたくなっても帰りたくなっても、二度と離さぬ。ブラックホークの一員としても、私の恋人としても。いいな?」
「はいっ!!」
私はこの世界で幸せを手に入れた。
ずっと皆に守られながら手に入れた。
私がこの世界にいることは。
皆の側に居られるということは。
アヤナミさんに愛されることは。
私にとって『孤独の中の神の祝福』そのものなのだ。
END
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