星に 雪に 記憶に
監禁されてから数日が経った。
毎日毎日アヤナミ様が尋ねてくる。
もちろん問われるのは『テイト=クライン』について。
でも私は何一つ…しゃべっていない。
このままではアヤナミ様のべグライダーでいられなくなることはもちろん、軍人としてもいられなくなる。
アヤナミ様は兄様のことを私に聞いてくるけれど、私の質問には一切答えてくれない。
兄様が心配で、私は…
深夜、星の光と共に部屋を抜け出して教会へと急いだ。
「っ、は…はぁ…」
軍人一人を締め上げてやっと聞き出した『テイト=クラインは教会にいる』という言葉だけを頼りに、第7区へとホークザイルを飛ばしていた。
脱走したことがバレ、無事に抜け出すことはできたものの、途中で追ってきた軍人の攻撃によって左肩を負傷してしまった。
もともと左肩はずっと昔に兄さまを庇って怪我をしたのがきっかけで不自由になっていたから大して気になりはしていない。
でも出血が激しくて少しだけ眩暈がする。
真夜中に抜け出したというのに、もう朝が来ようとしている。
私は落ちてゆくように教会の入り口の前にホークザイルを乗り捨て、教会の扉を叩いた。
「兄…さま…」
久しぶりでもわかる。
その後ろ姿。
少し、背が伸びているような気がする。
「兄さまっ!!」
私の呼び声に気づいたのか、後ろを振り向いた兄さまに思い切り抱きつけば、二人して一緒に倒れてしまった。
「ッ……、何…」
「兄さま!兄さま!!」
「?!名前かっ?!」
思い切り抱きつけば、兄さまは眼を大きく開いて私を抱きしめた。
「なんで…ここに…」
「それは私の台詞です!どうして帝国軍に入らなかったのですか!!」
私の叫び声に人が集まってくる。
「名前…」
「ても無事でよかった…」
「テイトくん、彼女は??」
ふんわりとした雰囲気をもつ司教服を着た男性と目があった。
「あ、ラブラドールさん…えっと、名前はオレの…」
「妹の名前です。」
「そう、ボクはラブラドール。名前ちゃん、左腕手当てしようか?」
一室、部屋を頂いてしまった。
そこで左腕の手当てと共に聞かされた事実。
「…そう、アヤナミ様がミカゲさんを……」
瞳を閉じて自分の頭の中で整理してみる。
「……兄さまはこれからどうするの?」
「オレはとりあえず司教試験を受ける明後日なんだ。司教試験。」
「司教試験を??」
「名前は?」
私は…
「……ごめんなさい、考える時間を欲しいの。」
兄さまのことも大事だけれど…
アヤナミ様も……
「はい。」
真っ青な顔で俯いていた私に差し出された花の浮いている温かい飲み物。
「ありがとうございます。」
ラブラドールと名乗った彼からそれを受け取り、一口飲むと不思議と心が落ち着いた気がした。
「美味しいです。」
「それはよかった。」
私達の周りにはラブラドールさん、カストルさん、フラウさんが居て、どこか私に警戒しているようにも見れた。
…軍服のせい、かしらね。
「あの、すみません…服を貸していただけませんか?」
「それは構わないですけれど…。」
「この服のままだと警戒されすぎますし…。」
ラブラドールさんとカストルさんは驚いたように目を開き、フラウさんは口の端を吊り上げた。
「勘のいいお譲ちゃんだ。」
ガシガシと頭を撫でられてしまった。
なぜか…懐かしい。
頭を撫でられるなんて何年ぶりだろうか…
「頭を撫でられるとファーザーを思い出します…。フラウさんよりもっと優しく撫でてくれましたけれどね。」
「ファーザーを覚えてるのか名前?!」
「え?えぇ…でも、私も幼くて少ししか覚えていないけれど…。兄さまは覚えていないの?」
「…あぁ。」
ため息を吐く兄さまの手をそっと握った。
「きっと、思い出せます。」
「そうだな。」
にっこり微笑みあう兄妹が久しぶりにそこにはいた…
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