みちから はぐれて
遠くの噴水で兄様がブルピャとラゼットが遊んでいる光景を一人眺めていた。
「名前?」
「え?…あ、ハクレンさん。」
「てっきりテイトと一緒にいると思えばこんなところに…」
「えぇ。水をかけられてしまいそうで。」
微笑んでみせれば、ハクレンさんも同感です。と苦笑いしてくれた。
「兄さま、幸せそうです。…司教様たちから聞きました。ハクレンさんが兄さまを助けてくれなかったらミカエルの瞳ごときっと帝国軍に捕まっていたかもしれないって…」
「いえ、俺は特になにも…。ただ、ピンクの髪の子供と男性に連れて行かれそうになっていたのを止めただけで…」
「ピンクの髪??……クロユリ中佐だわ。…男性って誠実そうな方じゃありませんでした?」
ハクレンさんは静かに頷いた。
「ではハルセさんですね。」
「…その……急にすまない。名前は…軍人と聞いただが…もしかしてブラックホークの…」
「えぇ、そうです。アヤナミ様のベクライターです。」
いえ、『でした』のほうが正しいのかしら。
「その二人とは仲が…よかったり……?」
「?えぇ、普通にお話はいたしますよ。クロユリ中佐は眠たくなったりするとハルセさんに抱えられて眠ったり…とにかく絆が深いんです、あの二人。とても和みます。」
「…そう、ですか…」
ふいにハクレンさんの表情が曇った。
「どうかなさったんですか?」
「…その…ハルセという方は無事だったか?」
「戦いになられたのですか?」
そういえば監禁されているとき、暇だろうと話しにきてくれた皆の中にハルセさんがいなかった。
「…敵に心配は無用ですよ。」
あの時、クロユリ中佐は寂しそうな顔をしていたけれど悲しそうな顔はしていなかったし…死んではいないと思う。
大丈夫だ。きっと。
そう、思いたい。
「簡単に死ぬような人たちではありません。」
「…見えないな。名前がブラックホークの中の一人だなんて…」
「でも、そうなんですよ。」
「オレより強いな、側にいるだけでわかる。」
「ふふ。確かに貴方よりも強い自信はあります。でも、貴方が私より強くなるという可能性もあります。」
きっと、殺しておいたほうが後々楽だろう。
でも…やめておきます。
兄さまが悲しむ顔は見たくありません。
「おーい!ハクレン!!名前!!こっちこいよ!」
兄さまが思いっきりこちらに手を振っている。
「見ているの、バレちゃいましたね。行きましょうか」
「……あぁ。」
今は、今は…この日常を楽しみたい。
「兄さま!明日が司教試験なのにこんなところで遊んでいていいんですか?!」
「遊んでないからな!」
いえ、十分遊んでいるように見えました。
「息抜きは程ほどにです!」
「テイト、軽く手合わせしないか?」
「あぁ。」
噴水の淵に座ってまた兄さまを眺め見る。
今度は兄さま『たち』だが。
バクロスやザイフォンを使って攻撃をしたり、防御をしたり…
まだまだだ。
まだ、成長途中。
アヤナミ様の足元にも及ばない。
黙って眺め見ながら心の中で呟いた。
でも、さっきハクレンさんに言ったとおり、可能性はある。
帝国軍に入るはずだった兄様。
未来は…
「変わってしまったのね……。」
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