04
名前が会いに来なくなって2週間がたった…。
「コナツ、」
よほど忙しいのだろうか、もう2週間だ。
最初こそはどうせひょっこりやってくるだろうと思っていたけれど、2週間は思っていたより、自分にとってとても大きいものだった。
これは絶対毒されている…。
会えないだけで寂しいと思うなんて…。
マズイ。
彼女の罠にハマッていっているようでならない。
そんな暇、自分にはないというのに…。
今だって、今だって少佐と執務中だというのに…
「コナツ、コナツってば。」
目の前にヒュウガの顔がズイッと迫ってきた。
「は、はいっ!」
「もー大丈夫??」
ニマニマと笑って、全く心配している顔ではないくせに、言葉だけは一応かけてくれる少佐。
「名前ちゃんがコナツ切れ!って来る前に、コナツの方が名前ちゃん切れになっちゃったみたいだねー。」
電池か何かですか。
「べ、別にそういうんじゃありません!少佐だってユリアさんの派遣期間が延びたからって内心荒れて、」
「ん?」
「…すみません、調子乗りました。」
首を傾げた少佐の目が全く笑っておらず、とても怖かった。
これではユリアさんを少佐が迎えに行くのも時間の問題だと思う。
僕もピリピリ、少佐もピリピリ。
市場を仕事に持ち込まない、と少し前の自分だったら固く誓っていたのに、どうしてこうなってしまったのか…。
そしてどうして脳裏から名前が離れてくれないのか。
寂しいというより何より、会いたいと思う。
どうやら自分は完璧名前の毒に犯されてしまったようだ。
今すぐにあの笑顔がみたいと思ってしまっている辺り重症だ、これは。
だってテレビなんてほとんど見ていなかった自分が、部屋に帰るとまずテレビをつけるのだから。
歌番組があるなら歌番組を見ている自分。
重症の上、末期決定。
恋の病とはなんて恐ろしいものだ。
それにしても昨晩の名前の新曲は甘く切ない恋の歌だった。
まるで自分と名前の恋愛のようで胸が切なくなったものだ。
そんな昨晩のことを思い出していると、少佐に「コナツ」と名前を呼ばれた。
「はい?」
「名前ちゃんに会えなくて寂しい?」
何ですか、急に。
「はぁ…まぁ、そうですね。」
「嬉しいっ!!私もコナツに会いたかったよー!!!」
前につんのめるくらい後ろから抱きしめられた。
「んじゃ、オレはユリたん迎えに行ってくるね♪ごゆっくり、名前ちゃん☆」
「ありがとーヒュウガ。」
知った香り、
知った声に、小さくため息を吐いた。
もう今まで思い悩んでいた自分がバカらしく思えてくるほどのお気楽な声だ。
「お久しぶりです。」
「うん、久しぶりコナツ!」
振り向くと、名前が変わらない笑みを浮かべていた。
「コーヒーでも淹れますから、座っていて下さい。」
何だか名前に甘い自分がいて、コーヒーを淹れながら苦笑した。
「はい、どうぞ。」
カチャ、とコーヒーを差し出せば、「ありがとう」と名前から笑顔が零れた。
「この近くで収録があったから帰りに寄ってみたんだー。」
と、久しぶりに会って、他愛もない話をする。
この前は仕事でこんなことがあったとか、今日はこんなコトがあったとか、名前の話が尽きることはない。
「でね、忙しすぎて私もコナツに会いたいって思ってたから……、もーどうしよー!!寂しかったってコナツが言ってくれたなんて夢みたい!!嬉しすぎて溶けちゃいそー!!!」
…相変わらずハイテンションだ。
その上、とてつもなく嬉しかったらしく、いつもよりうるさ……元気だ。
「はいはい。」
「信じてないの?」
「…そういうわけでは…」
「私の愛も伝わってなさそう…」
いえ、それはイヤというほど伝わって…
苦笑すると、名前は何を思ったのか、自分の唇を僕の唇に重ねた。
呆然としている時、ちょうど執務室の扉が開いて、一ヶ月ぶりにユリアさんが帰ってきたようだったが、今はそれどころではない。
柔らかい唇が重なっているのだ。
何だか甘い…。と、不意に思ってしまった自分が恥ずかしい。
「な、何するんですかっ///!」
唇を離し、一歩名前から距離を取る。
まさか女のこの方からキスされるなんて思ってもみなかった。
「私の愛、伝わった?」
伝わったも何も、キ、キスっ!!
キスするなんて!!
当の本人は大して気にしていないのか、「あ、ヒュウガおかえり〜」と少佐に手を振っていた。
呆然としている僕を放って、目の前の三人は何やら話をしている。
「えっと…どういうご関係?」
ユリアさん、できれば聞いて欲しくなかったです。
その質問に名前は嬉々として
「運命の相手です!」
だなんて目を輝かせて言っていた。
クラリと眩暈がした。
「違います!2ヶ月前に名前さんが襲われているところを僕が助けただけで、」
「コナツってば名乗りもせずに去るんですよ!だから探すのに1ヶ月もかかっちゃいました。」
1ヶ月見つからなかったんなら諦めてくれたらよかったのに…。
そうしたら会えないからと寂しくなって、仕事が手につかないということもなかっただろう。
机の上の書類は山のように積み重なっている。
とりあえず、今日はゆっくりと休みたいというユリアさんは部屋へと戻っていった。
「綺麗な人だねー。」
「そうですね。」
「…浮気はダメよ、ダーリン♪」
「まだ付き合ってもいませんから。」
何がダーリンですか、何が。
というか、ユリアさんは仕事仲間でそういうのではなく…。
どちらかというと名前の方が好み……
って何を思っているんだ自分は!!
「…はぁ。」
もしかしたら自分は押しに弱いのかもしれない、と女の子に迫られて始めて気がついたのだった。
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