飴玉




お風呂にもちゃんと入った。

髪だってしっかり梳かした。

服装だって縒れてない。


でもカットバンは昨日貰ったのをまだ貼っている。





「こんにちは。」


ヒュウガ少佐の自室をノックする。


「こーんにちは。」


ノックをするが扉は開かれない。

どうしようか、出直そうか、と迷っていると、その扉は開かれた。


「…あだ名たん、まだ朝。朝だよ。」

「あ、すみません。おはようございますでした。」


中から出てきたのは寝ぼけ頭で上半身裸のヒュウガ少佐。

下は辛うじて穿いているが、どうせなら上着もちゃんと着て欲しかった。


「すごい筋肉ですね。触っていいですか?」

「お金取るよ?」

「冗談です。」

「オレも冗談だよ。」


……


話が噛み合わない。


「お邪魔してもいいですか?中で女の人が寝ているようならまた出直しますが。」

「そんなのいないからどうぞ。」


ヒュウガ少佐はあくびをしながら私を部屋の中へ招き入れてくれた。


内心ドキドキだ。
女の人が本当にいたらショックだっただろう。

今はホッと胸を撫で下ろしている。



しかしこれは何事だ。
ヒュウガ少佐一人部屋のこの部屋は、3人部屋の私の部屋より大きい…。

ずるい。


「ソファある。テレビ大きい。ベッドも大きい…」


失礼ながらも、羨ましくて部屋をキョロキョロと眺めていると、ヒュウガ少佐はコンと私の頭を軽く手の甲で叩いて苦笑した。


「エッチ♪」


意味がわかりません。


「あ、猫。」


ベッドのど真ん中で眠っている猫を発見した。


「この猫、あだ名たんと一緒でいい度胸してるよ〜。ベッドの真ん中に寝たがるからね。」


ん?
上着を羽織っているヒュウガ少佐から聞き逃してはいけない言葉が…。


「まだ猫も寝てるよ。オレたちも一緒に寝なおそっか♪」

「朝早く迷惑でしたか?」

「…え、スルー?」

「はい?」

「なんでもない…。迷惑じゃないけど…なんで朝?昼とか…」

「だって昼間はお仕事じゃないですか。」

「……真面目なんだね、あだ名たん。」


??
ごく普通のことでしょう??


首を傾げていると、猫がピクリと起きた。


「あ、起きた。」


猫は起きるなり私の足に擦り寄ってきた。


「よしよし、おはよう。」


一先ず撫でてやり、持ち上げるとソファに座って昨日の傷口を見る。


「やっぱり傷口ひどいね…。そう思って作ってきたよ。」


私はポケットから昨日出来上がったばかりのクスリを塗ってやった。
が、沁みるのか、傷口を服にこすり付けてくる。


「あだ名たんが作ったの?」

「はい。」


確かに効き目は抜群なのだが、これでは意味がない。
改良が必要のようだ。


「ということは、西の棟の開発部?」

「そうです。」

「頭いいんだねぇ。」

「そうでもないです。」


私が猫にまた包帯を巻いてあげていると、ヒュウガ少佐が床に猫の餌をミルクと一緒に置いた。

猫は一目散に朝食に飛びつく。


「そういえば、昨日思ったんです。餌代とかお金結構かかりますよね?だから私少しでもお支払い、」

「いらないよ♪」

「でも、私がお願いしたことですし。」

「そういうのもひっくるめて猫引き取ったんだからいいの。」

「ヒュウガ少佐って優しいんですね。」

「…………それ、人生で初めて言われたよ。」


まぁ、ブラックホークは恐れられていますしね。


「おいしそうに食べてますね。」

「餌付け成功だよ☆あだ名たんも、はい♪」


私の手のひらに飴玉が乗せられた。


「…餌付け、ですか??」

「ん♪」


あ、頷いちゃうんですね。

まぁ…でも、


「…ありがとう、ございます。」


私は飴玉を口に放り込んだ。


ん、おいしい。



貴方といるこの時間は飴玉のように甘くて…。

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