猫の元へ…、つまり、ヒュウガ少佐の部屋へ通うようになってちょうど5日が経った。

ヒュウガ少佐に朝は寝たいからと言われ、私はできるだけ昼間に訪ねるようになった。


しかし、今日は仕事が押してしまってすでに21時だ。





私はバタバタと通路を走る。

ヒュウガ少佐の自室のある階でブラックホークの参謀長官とすれ違った。

威圧感がすごいのなんの。


しかしそんなことには構っていられない。
ヒュウガ少佐も猫も待たせているのだ。


「名前=水乃。」

「は、はい!」


すれ違ったばかりのアヤナミ参謀に声をかけられた。


「通路は走るな。」

「……、はい。」


なんだか先生みたいで小さく笑ってしまった。


私は小さく頭を下げると、やっぱり走った。


ヒュウガ少佐の扉の前で大きく深呼吸をして扉をノックすると、その扉はすぐに開かれた。


「あだ名たん、女の子が夜に男の部屋に来たらダメ!」


「だって、」

「でも入って。」


約束だし…。と言おうとしたら、あっさりと中へ入れてくれた。

なんだか、言葉と行動が一致しない人だ。


しかし、ヒュウガ少佐にもネコにも会いたかったので良かった。


「あだ名たん、今までお仕事?」

「はい。」


コーヒーを淹れてもらって、私は膝に猫を乗せて撫でながらそれを一口飲んだ。


「ヒュウガ少佐は?」

「今日はずっとここにいたよ♪」

「お休みだったんですか?」

「ううん♪ずっと休憩なだけ☆」


……


「ずっと休憩ってもうそれはむしろ休憩といいませんよ。サボりです、サボり。」

「あだ名たんだってサボってるでしょ?昼間来てる時は。」

「私は一生懸命働いて時間を空けてるんです。」

「給料泥棒だー♪」

「どっちがですか。」


私は苦笑して、ネコを撫でた。


「あ、あだ名たん。今さらなんだけど、この猫の名前、決めてないよね??」


今日の昼間に気付いたんだよね〜と笑うヒュウガ少佐に、私は首を傾げた。


「え?猫はネコですよ?」

「ん??」


意味がわからないとばかりに首を傾げるヒュウガ少佐。


「猫はネコなんです。」

「……え、もしかして『ネコ』って名前??」

「そうですよ。ホントに今更ですねーヒュウガ少佐ってば。」

「あだ名たんがわかりにくいんだよ…。」


ヒュウガ少佐はうな垂れながら苦笑した


「それにしてもあだ名たんってば警戒心ないの?」

「なんですか急に。」

「だって今、夜だよ?男の部屋に女が訪ねてくるなんて。」

「私恋人いないので大丈夫です。」


『恋人いないから大丈夫=襲っても大丈夫』という変換を脳内で行ったヒュウガ少佐のことなど私は知らずに淡々と会話を進める。


「『浮気!』とかっていう人はいませんから。」

「…そっちね。」

「それとも、ヒュウガ少佐はマズイですか?」

「オレもいないから大丈夫。でも一つだけ約束してくれる?」

「はい?」

「オレ以外の男の部屋に夜、入らないこと。」

「…何故です?」

「何故って…わからない?」

「はい。」


私が首を傾げると、ヒュウガ少佐がソファに座っている私に覆いかぶさってきた。


顔がとてつもなく近い。


「夜は特にこういう気分になっちゃうから。」


私の頬をヒュウガ少佐の唇が掠めて、耳に触れたと思ったら、低い声でそう囁かれた。


「ッ…、」


やっと理解できた私は顔を赤くして何度も頷くと、ヒュウガ少佐は「なんてね☆」と笑いながら私の膝の上に乗っているネコを抱き上げると、真向かいのソファに座った。


ヤバイくらいにドキドキした。
いや、今もしている。


「あだ名たんの言葉はわかりにくいけど、行動や顔はわかりやすいね♪」


ヒュウガ少佐は小さくそう呟くと、ネコを撫でた。

それはそれは大きな手で。



猫を撫でる貴方の手があまりにも優しいから、
私は猫になりたいと思った。


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