嫉妬心がしっとりと
珍しく定時に仕事も終わり、ヒュウガ少佐に感謝しつつコナツが自室へ帰ろうと腰をあげた時だった。
「コナツ兄!今から遊びに行っていい??」
疲れているはずの名前の声が執務室に響く。
「いいよ。」
その瞬間
「オレも行く!」
子供じみたことに、ヒュウガも負けじとコナツの自室にいくことにしたのだった…
「コナツ、夜に名前ちゃんと2人っきりっていうのはどうかと思うなぁ…」
「少佐も来てるじゃないですか。」
「それはオレも行くって言ったからでしょ?オレが言い出さなかったら2人っきりだったくせに。」
とりあえずシャワーを浴びてからコナツの部屋に集合ということになり、女はやはり長風呂なのか先にオレとコナツの部屋に来ていた。
「何を考えてるんですかあなたは。」
「べーつーにぃー?」
「だいたい遊びに来ると言い出したのは名前の方ですからね。」
「わかってるって♪」
だから余計に不満なんだけどねー。
名前ちゃん、意識してないにも程がある。
確かに小さい頃から遊んでくれてる兄だとしても、昔と今では違う。
男と女。
いつどんな間違いが起こるか…
「あー早く名前ちゃん来ないかなぁ〜。」
男と2人きりなんてつまんない。
早く華が欲しい。
「お風呂上りの名前ちゃんかぁ♪」
「…何想像してるんですか!」
「え〜想像はタダだよ?」
「お金取られそうな想像はやめてください!」
「じゃ、妄想を…」
「もっとダメです!!」
ケチでマジメなコナツで遊ぶのも楽しいけど、そろそろ本気で来て欲しい。
そう思った頃…
「お邪魔します。」
ドアを叩く音がし、入ってきたのは待ちに待った名前ちゃん。
半渇きの髪がいつもより艶めいていて、微かにシャンプーの匂いが漂う。
「お待たせしました。」
その上この笑顔だ。
化粧や着飾ったりするよりも可愛さに磨きがかかったように感じた。
「名前、コーヒーでいい?」
「うん。」
丸くなっているテーブルに3つのイス。
名前はヒュウガの右横のイスに座った。
「ヒュウガ少佐、早かったんですね。」
「男の風呂なんてそんなもんだからね。まだ髪濡れてるよ?」
「ちょっとバタバタしてきちゃって…。短いのですぐ乾きます。」
「ショートカットだもんね。伸ばしたりしないの?」
「はい。戦場では邪魔ですから。」
こういう心構えはやはり軍人になる者だと思う。
「…伸ばした方がいいですか?」
「どっちも似合うと思うけど、長い髪の名前ちゃんも見てみたいかなぁ。」
「少佐がそうおっしゃるなら伸ばしてみますね。」
脈ありげな言葉にオレは薄く笑いテーブルに両肘をついた。
「コナツが短い方がいいって言ったらどうする?」
「え…っと…どうしましょう??中間とって、肩ぐらいにしておきます??」
「…冗談だよ。コナツはそんなこと言ってないから、伸ばしてみてよ。」
「はい。」
話しが一段落した頃、コナツが3人分のコーヒーを持って戻ってきた。
「はい、少佐。」
「ありがとーコナツ。」
「名前は砂糖とミルク3杯ずつだったよね。」
「うんっ♪」
楽しそうに頷いてポケットから取りだした小瓶に入っているコンペイトウを、コロンとコーヒーに入れた。
「ホント変わってないね。甘くない?」
「コナツ兄のコーヒーいつもおいしいよ。私好みだから♪」
あぁ、なんか思っていたよりも酷だなぁ…
昔のコナツや名前ちゃんなんて知らないからちょっとだけ……疎外感??
全く、オレももう子供じゃないんだから…
「名前ちゃん、仕事どう?アヤたんにこき使われてるみたいだけど。」
さり気なさを装って話題を変えてみる。
「楽しいです!アヤナミ様もすごい方ですよね。あれだけの仕事の量を難なくこなして…。私、ディスクワーク苦手なので尊敬します。」
「ディスクワーク苦手なの?オレも苦手なんだ一緒だね♪」
「……少佐、そんなところで喜びを感じないでください。それに少佐は必要最低限の書類しか処理やりませんけど、名前は苦手だけど全部の書類頑張って処理しようとしてるんです。一緒じゃありませんよ。」
「コナツぅ〜。人の喜び打ち砕かないでくれる?」
「間違いを正しただけです。」
こんな時でもマジメだなぁ、コナツは。
いいんだか悪いんだか…
上司としては嬉しいけど、個人としてはもう少し肩の力を抜いていいと思うんだよね。
疲れない?
「名前ちゃんはどう思う?オレ不真面目だと思う?」
「はい!」
速攻デスか…
「でも、全くお仕事されていないわけではないですよね。ただコナツ兄が一人で何でも背負い込み過ぎなんだと思います。何事も適度に。でないと疲れますよね、少佐。」
いーなー、やっぱ名前ちゃんとは気が合うかも。
「そうだねー。オレくらい肩の力抜いて…」
「少佐は抜きすぎです!」
「少佐と、コナツ兄を足して2で割れば丁度いいんじゃないですか??」
「え〜仕事しないといけなくなるのはイヤだから、このままでイイや☆」
笑い声がコナツの部屋に響く。
遊ぶ、といっても話をするだけ。
だけど、妙に心地がいい気がしてたまらない。
この雰囲気が、
この空気が好きだ。
そんな風に感じていたオレの横で、急に青ざめた名前ちゃんは思いっきりコナツに抱きついた。
「ランニングチョコレートが!!」
…は?
ランニングチョコレート……??
走るチョコレート??
「何、ソレ??」
「ヒュウガ少佐の足下に!!」
言われた通り足下を見ると、カサカサと動き回るゴキ○リ。
…なるほど、これがランニングチョコレート。
ていうかさぁ、
何抱きつかれてんの、コナツ。
名前ちゃんもオレに抱きついてくれればいいのに!!
恨みの念を籠めながらそれを見ると、ランニングチョコレートはコナツのベッドの下に潜り込んだ。
「仕留め損ねちゃった。」
「うぅ…(泣)コナツ兄、バル○ン焚いてね!!」
「はぁ…バルサ○って…。名前のゴキブ○苦手なところ、克服できてないんだ…」
「だって!虫はムリ!!特にランニングチョコレートなんてもっとムリ!!」
わー可愛いなぁ、名前ちゃん。
虫の一匹で涙目だなんて。
でもさ…
いい加減離れようか??
「名前ちゃん、そろそろイスに座ったら?いつ床にいるかわかんないでしょ?」
「はっ!そうですね!!」
そう言ってイスに座った名前は、両足をイスの上で折り曲げ、軽く体操座りをしてみせた。
「…何してるの?」
「いつランニングチョコレートがくるかわからないのに足を床につけて置けません!!登られたら最後です!」
もうさ、…抱きしめていいかな、コナツ??
「今ので一気に疲れちゃいましたね。コンペイトウ、食べます??」
糖分は取っておくべきですよ。と青と白しかないコンペイトウを差し出される。
「ありがと。」
「ふぅ、落ちつきますね。」
え、コンペイトウで??
トロンと目がしている名前ちゃん。
「名前、眠たいなら部屋戻ったら?」
「うー、まだ大丈夫。」
ゴシゴシと目を擦って頑張って起きていようとしているが、全く効果はなかったようだ。
ホントコナツってば名前ちゃんのことに良く気づくなぁ…
嫉妬…かぁ、やだねぇ、いい大人が。
「明日も仕事なんだから無理しちゃダメだよ?オレが部屋まで送ってあげるから、戻ろっか?」
「…少佐、くれぐれも送り狼にはならないでくださいね。」
「……」
「返事がないのは何故ですか。」
「…はぁ〜い。」
渋々返事して名前ちゃんの腰に手を回し、コナツの部屋を後にする。
「いいですか、少佐。くれぐれも」
「わかってるーって。まだそんなことしないから安心して♪」
「……その「まだ」っていうのが気になりますけど……いつかはする気ですか?」
「ノーコメント☆じゃね、オヤスミコナツ。」
「おやすみなさい、コナツ兄。」
「…おやすみなさい。」
パタリと閉まったドア。
とりあえず名前ちゃんを部屋まで送り届けるために、オレは理性という文字を何度も何度も頭の中で繰り返したのだった…
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