8時だよ全員集合!
見事なほどに夜空に散らばるお星様。
あれはコンペイトウ。
この手の中にあるコンペイトウのように
あの夜空にあるコンペイトウも甘いのかしら?
本当のことを言えば少し前から気になっていた。
あの、名前ちゃんのコンペイトウ好き。
普通に食べてると思えば、コーヒーに入れていたり、人にあげていたりもしている。
でも、人にあげているときは何故かアオ色かシロ色のコンペイトウだけ。
ピンクもあるのに…。
別に観察力が鋭いから気づいたわけではない。
きっと誰もが気づいている。
「ね、名前ちゃん。」
書類整理も一段落したらしい名前ちゃんに話しかけてみた。
狙いはもちろんコンペイトウ。
「コンペイトウ持ってる?甘いもの欲しいなぁ〜と思って。」
「持ってますよ。」
小瓶をポケットから取り出し、右手を差し出したオレの掌にいくつかコンペイトウが転がり出された。
シロ、アオ…
ピンク…
「あっ。」
反応した名前ちゃん。
「どうしたの?」
「い、いえ…」
何やら急に悲しそうな顔をする。
ピンクのコンペイトウを一つ摘まんで口元に持っていこうとすると、まるで『食べちゃうの?』と悲しそうな子猫のような表情をする名前ちゃんが視界に入った。
すっごい食べづらい…
「…名前ちゃん、あーん。」
「?あーんっ。」
開いた名前ちゃんの口にピンクのコンペイトウを入れてあげた。
柔らかい唇がオレの指に触れしばらく手を洗いたくない衝動に駆られる。が、汚いのは嫌われそうなので止めておこうかな。
「おいしぃっ。」
いや、どっちかというと今の名前ちゃんのほうがおいしそう…
「どうしてくれたんですか?」
「ん?食べたそうにしてたから。違った?」
「…えへへ。私、ピンクのコンペイトウが一番好きなんですよ。でもピンクってシロのコンペイトウからしたら入ってる数、少ないでしょう?」
「ピンク好きなの?」
「いえ、そういうわけではないんですけど。イチゴ味なので!」
……
コンペイトウに味はないよ、名前ちゃん。
着色されてるだけだよ?
ここまで純粋な笑顔で「イチゴ味なので!」だなんていわれたら、つっこめるものもつっこめないではないか。
「…そ、そう…」
「少佐、知ってますか?小さな小瓶にコンペイトウを入れて月夜の晩に月明かりがあたるように窓辺に置いておくと、コンペイトウにお月様の魔法がかかるんですよ?」
「…で、それどうするの?」
「食べます。そしたら願い事が叶うんです。」
ピュアじゃ。
この子はピュアじゃ。
「か、叶った事は?」
「あります!コナツ兄様にまた会えました!!」
うっわ、面白くない!
コナツのために願ったの?
「じゃ、次は彼氏ができますように。とかは?」
「でも…軍人の私に恋人なんて…」
「?」
「もし死んだりしちゃったら悲しませることになっちゃいます。好きな人に悲しい顔はして欲しくないです。」
「ん〜…じゃぁ、名前ちゃんよりも強い軍人と付き合ったら?守ってもらえるしいいんじゃない?」
オレとかオレとか!!
「…死なれて悲しい思いするのも…ヤです。」
手強いなぁ…
「じゃぁさ、名前ちゃんがものすごく強くなって、その彼氏もすっごく強い人を選ぶとか!」
自分ナイスアイディア☆
「そうですね。それはいいかも知れませんね。強い軍人…例えば………アヤナミ様みたいな方とか?」
なんでそこでアヤたん?!?!
うん、確かに強いケド!!ケド!!
今、オレが目の前にいるじゃん!!
「…少佐、下心みえみえな会話はどうかと思いますけど。」
「お黙りシスコン!」
「少佐が黙ってください!書類全く手つけてないじゃないですか!!」
「え〜。まだ名前ちゃんとおしゃべりしてたいからまだしない♪」
「少佐!!」
怒るコナツを尻目に、オレはまた名前ちゃんに話しかけた。
さすがにさっきの会話に話は戻せないが…
アヤたんを意識させてもマズイし。
「コンペイトウ、無くなったことないよね。」
「あ、はい。買いだめしてますから。でも、コンペイトウって夜空にあるのに、どうしてタダで手にはいらないんでしょう……??」
は?
今なんて言った??
見てよもう、執務室の皆の手が止まってるじゃん!!
名前ちゃん、気づこう??
「さ、さぁ…」
「お空は誰かの所有地なんですか??」
それをオレに聞かれても!!
「み、皆のものじゃ…?」
「コンペイトウって夜空から降ってくるんですよね、きっと。あ、そっか。だからお月様の魔法にもかかりやすいんだ!」
え、何急に一人で納得してるの?!
「夜空から降ってくるって…見た事は?」
「ないんです。きっと、コンペイトウを売る人にしか降ってこないのかも…」
「そうかもね…。」
本当に夜空からコンペイトウが降ってきたら痛いよ!
痛い。で済めばいいけど…勢い良すぎて窓とか割れると思うよ?!
むしろ凶器だよ、それ。
「見てみたいなぁ…」
「…そこに行けば見れるかもね。」
あくまで、「かも。」だよ?
「ヒュウガ少佐、今度連れて行ってくださいませんか?私一人じゃ迷子になって帰って来れないとおもうので。」
うん、その前にそこに着くことも出来ないと思うけどね?
「…」
「ダメ、ですか?」
「……う、ん…探しとく、よ……」
……ダメだ、自分情けな…(泣)
皆もさ、憐れな目線向けるぐらいなら助けてよ。
「あ、私そろそろ仕事に戻りますね。書類を提出しに行かないと。では。」
ガチャ、
パタン。
…
……
………
「アヤたーん!!!!!!!!!コンペイトウが降るところってドコかある?!」
「バカか貴様は。」
それ、名前ちゃんの前では言わなかったくせに、なんでオレに言うのっ!!??
「聞いてたでしょ、今の話!!」
「くだらん。貴様が引き受けたことだ。貴様でどうにかしろ。」
ムリだよ〜。
アヤたんのべグライター見習い、ある意味最強。
「ねぇヒュウガ。コンペイトウを夜空から降らせればいいんでしょ?それくらいならできるよ?」
クロユリ中佐がニッコリと笑顔をこちらに向けていた。
「本当ですかっ?!」
夜、仕事も終わり自室へ帰ろうとした名前ちゃんを引き止めて一言。
『今日の8時、ホーブルグ要塞の中庭にコンペイトウが降るらしいよ。』
「うん、本当。怪奇現象っていってた。」
はい、丸っきり嘘ですが、
それがなにか??
コンペイトウが降る怪奇現象なんてヤだよ。
「見れるんですか?」
「そうだよ♪見に行こうか?」
「はいっ!!」
名前ちゃんには内緒で中庭は今晩のみ立ち入り禁止にしている。
アヤたんが誰も入ってこないように見張っている。というか、居座ってもらってるだけだけど、あそこにアヤたんが座ってれば誰も入ってこないことは間違いないだろう。
そして残りのブラックホークのメンバーは…
コンペイトウがキロ単位で入っている袋を抱えて屋上で待機している。
8時にきっちり集合できているなんて優秀だ。
コツン。
足下にコンペイトウが数個落ちた。
コンッ、コンッ、コロンっ。
夜空から落ちてくるコンペイトウがコンクリートの中庭に落ちる。
「すごいっ!すごいです!!少佐っ!」
感極まったのか、名前はオレの腕に手を回して楽しそうにはしゃいでいる。
名前ちゃんの掌に落ちるコンペイトウ。
それを食べれば、やはり甘かった。
そして気づいたことが一つ。
コツンと頭にあたるコンペイトウが…地味に痛い。
抱きつかれていた腕をゆっくりと離し、名前ちゃんを後ろから抱きしめた。
極力、名前ちゃんにコンペイトウが落ちないように。でも、よくコンペイトウが見えるように。
すっぽりとオレの腕の中に収まってしまう名前ちゃんは、少し顔を赤くしていた。
「ありがとう、ございます///ちょっと、痛いんですね。」
「始めて知った。」
「私もです。」
多分こんな体験したのはこの世でオレと名前ちゃんくらいだと思う。
鼻腔を擽る名前ちゃんの甘い香りに、唇にキスしたい衝動を駆り立てられながら、オレはその衝動を抑えながら、これくらいなら…と気づかれないように優しく髪にキスをした。
すると思いっきり投げつけられたかのように勢いのあるコンペイトウが落ちてきた。
…痛い。
「…これくらいいいじゃん、コナツ…」
「?何かいいました?」
「なーんも♪」
パラパラと振っていたコンペイトウもあっという間に止んでしまった。
「もう、終わっちゃいましたね。」
「そうだね。名前ちゃん、そろそろ部屋に戻ろっか。」
「はい。」
「でもオレ、ちょっと用事があるから先に戻ってて。」
そう言って中庭に一人になったオレ。
「アーヤたんっ♪終わったよ☆」
入り口付近のイスに腰掛けていたアヤたんに声をかければ、薄く微笑んでいた。
「そうか。」
そういって戻ろうとするアヤたん。だが、何かを思い出したのか、急に立ち止まりオレの方を振り向いた。
「ヒュウガ。」
「何?」
「中庭のコンペイトウ、一粒残らず片付けておけ。」
……
マジか……
次の日の朝。
「ふぁ〜。」
大きなあくびが出て仕方がない。
「おはようございます。あれ?少佐寝不足ですか?」
「おはよー名前ちゃん。そうなんだぁ、寝不足で…」
「昨日は素敵な夜でしたからね。私もあれからすぐ寝つけなくて…。また見たいですね♪」
……(汗)
「名前ちゃん、次の休みには…工場に行こっか。」
「工場??どこのですか?」
コンペイトウのです。
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