新種の動物は君



オレが気になっている不思議な子。

今日も今日とて…不思議……





朝からずーっと彼女を眺め見る。

名前ちゃんの観察日記でも書けそうなほどだ。


「少佐、あんまり熱い視線を送っていると逆にひかれますよ?」

「ひどいコナツ!!そんなに熱い視線送ってないよ!ただ観察してるだけだよ〜。」

「…軽くストーカー並ですね。」

「……」


最近コナツが冷たいです。


「アヤナミ様、こちらの書類はどうなさいますか?」

「…あぁ、それはヒュウガのところに持っていけ。」

「はい。」


山のような書類を抱えてこちらに向かってくる名前ちゃん。
できればその書類を置いて来てほしい…


「ヒュウガ少佐、書類をお持ちしました。」

「…ありがと〜。」


なんだろう、この素直に喜べない感じ。


「お疲れですか?コンペイトウ、いります?」

「ん〜いいよ。甘いもの食べたい気分じゃないから。」

「そうですか。では、」

「ねーねー名前ちゃん、血液型は何型?」

「え?えっと、A型ですよ。」


名前ちゃんのことは何でも知りたいって急に思ったんだ。


「誕生日は?」

「name3#です。」

「んじゃ、明日の休日はどう過ごすの?」

「お部屋のお掃除して、本でも読んでゆっくりする予定です。誰かと遊びに行く予定も無くて寂しいですけど、私友人少ないんです。」


…な、なんか聞いちゃいけないこと聞いちゃった気分だよ…。


「す、少ないの?」

「はい。私、学校というものは士官学校しか行っていないので。」

「えっ?!」

「名前はすべて家庭教師だったんですよ。」


とコナツが横から口を挟んできた。


もしかして…お嬢様?

お嬢だ、絶対お嬢だこの子。


これで世間知らずなのも頷ける。
きっと外の世界が新鮮なのだろう…


「ご両親とかに反対されなかったの?」


そんなお譲だったら反対の一つや二つされるだろうに…。


「されましたよ。でも、大丈夫です。」


名前はもうこれ以上話したくないのか、コンペイトウの補充を始めた。


っていうか、引き出しの中に何入れてんだか…。


これ以上踏み込んではいけない気がして、自分も飴を取り出していると、コナツが訝しげな顔をして名前ちゃんに話しかけていた。


「本当に大丈夫なの?名前のお父さん、」

「父なら大丈夫だよ。心配してくれてありがと、コナツ兄ぃ♪」


…ちくり。


まただ。
自分には決して入り込めない空気。

コナツだから…、
昔の名前ちゃんのことも知っているコナツだから…
こうして気にせずに話せる間柄。

なんて羨ましい。


「女々しいねぇ〜オレも。」


小さく呟いた言葉はコナツたちには聞こえていなかったようで、でも何か呟いたことだけはわかったらしく、名前ちゃんがこちらを向いて首を傾げた。


「何でもないよ〜。ね、名前ちゃん。明日の休日何も予定ないなら二人で街にでも行ってご飯でも食べよっか。晩御飯。」

「わぁ!嬉しいです!!私、士官学校や軍から出たことなくて!街も車での移動だったので楽しみです!」


そういった名前ちゃんの言葉に、まるで鳥かごから出してもらえない小鳥のようだと思った。

見たことのない世界を始めてみる名前ちゃんの目には、一体世界はどんなふ色に見えるのだろうか。


「…じゃぁ早めに出て…5時に迎えに行くよ。」


微妙な時間だけれど、部屋の掃除もしたいっていっていたし、
2時間ぐらい街を見て回って19時ぐらいに晩御飯を食べよう。


「はいっ!!」


うん、一歩前進…かな。





朝、
本当に朝日が昇ったばっかりの朝方、部屋の扉がノックされた。

もぞもぞと寝返りをうって時計を見やるが、まだ6時だ。

休みの日にこんな早起きしてたまるか、と尋ねてきた人を無視して布団に潜り直す。

しかし、またノックがなった。

少し遠慮がちに叩かれるそれ。
コナツなら勝手に入ってくるし…

いいや、眠いからシカトしよ。と無視を決め込む。

が、


「あ、あの…ヒュウガ少佐??」


か細い声が聞こえてきた。

その声にバサッと布団を捲り、起き上がる。


今の声って…


「起きていらっしゃいますか?名前です。」


こんな時間にどうしたのだろうか。
あの天然っぷりはすごいが、礼儀を重んじている彼女にしては少し非常識な時間に尋ねてくることが不思議で、そして同時に何かあったのだろうかと心配になって扉を開けた。


「あ、よかった!1時間待っても来られないのでどうしたのかと思いました。」


いや、どうしたのかと思ったのはこちらなのだが…。

はて、言っている意味が全くわからない。


「1時間待ったって…、こんな朝早くから何か約束してたっけ?」

「えっ?!」


名前ちゃんはしょんぼりと眉を下げた。
果たして自分は何かいけないことでも言ってしまっただろうか。


「わ、私…楽しみにしてて…。今日、お食事を誘ってくださって……。5時に迎えに来てくださると…。」

「………」


朝っぱらから背中に嫌な汗が流れた。


「…今、何時?」

「6時5分です。」

「…約束したの何時だっけ?」

「5時です。」


…うん、そうだね、オレの言い方が悪かったね、17時って言えばよかったね、うん……。


「オレが言ったのは午後5時のことだったんだけど…」

「えっ?!そうだったんですか?!?!ご、ごめんなさいっ、私勘違いしてっ!」

「うん…それはオレも言い方が悪かったからいいんだけどね。よく迷わずここまで来れたね。」

「はい!何故かヒュウガ少佐の自室に行くときは迷子にならないんですよ。」


なんででしょう。と真剣に悩んでいる目の前の名前ちゃんがものすごく可愛くて、オレはそっと抱きしめた。


「ヒュ、ヒュウガ少佐っ?!」

「…」


いい香りがする。
男と違って柔らかくて心地よい。

ずっとこのまま抱きしめていたかったけれど、そうもいかないだろう。

腕の中でわたわたと慌てている名前ちゃんに、この体勢を何とかして誤魔化さなければ。


「…少佐??」

「ね、眠い……。」

「ご、ごめんなさい。私出直して、」

「今日は予定変更♪」

「え?」

「今から街に出かけよっか。」


2時間なんてあっという間だもんね。
どうせなら1日一緒にいるのもいいかもしれない。
むしろ、いい。


「いろんなところ案内してあげるよ。」

「ホントですかっ?!」


キラキラと眩いばかりに目を輝かせられた。


「うん、任せて♪」



食事だけのつもりが、一日デートに変更になった。

思わぬ好機が降り注いできたようだ。


「ちょっと待っててね、着替えてくるから。」

「はいっ!」


さ、これからどうやってオトそうか。



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