ギンギラギンにさりげなく
始めてみる街は万華鏡のようだと思った。
キラキラしてて、とても綺麗。
はぐれないように繋いでいる手も大きくて、すごく頼りになる。
ここには見たこともないようなものがいっぱいあって、幸せが溢れていると思った。
「ヒュウガ少佐!あのソフトクリームが食べたいです!」
「あれも食べたこと無い?」
「ありますけど、歩きながら食べてみたいんです!」
なるほどね、食べ歩きというものがしてみたいわけか。
「じゃぁ食べよっか。あそこのソフトクリーム、美味しいよ。」
そういって繋いでいる名前ちゃんの手を少し強引に引っ張れば、待ってくださいよ〜!と慌ててついてくる。
その必死がまた可愛くて、頬が緩んだ。
街に来たときは朝早かったため、まだ店もほとんど開いていなかったが、朝食を軽くとっている間に街にはいつの間にか人が多くなっていた。
名前ちゃんは何もかもが新鮮なのか、キョロキョロとしてばかりで、気を抜けばすぐにどこかへフラッと行っている。
そういうことが続いたので…いや、正直に言えば自分としても繋ぎたかったのだが、いいきっかけができたとばかりに、「はぐれるからね。」と手を繋いでみた。
そんな裏心があるとは知らない名前ちゃんは「ありがとうございます!」と笑って見せた。
「はい、どうぞ。」
「ありがとうございます。この下のパリパリしたのなんですか??」
いつも家ででてきたのはお皿だったので、と首を傾げる名前ちゃん。
「これも食べれるんだよ〜。でも先に食べちゃうとソフトクリームが溶けてきたとき悲惨なことになるからね。」
「わかりました!」
箱入りというのはいいものか悪いものか…
こうして食べ方さえわからないものがある。
知らないものがある。
それは知識を狭めるだけなのだと思う。
でも名前は一応、最低限である、お金の出し方は知っていた。(私物以外は奢っているが。)
さすがにそこから教えないといけなかったらどうしようかと思ったほどだ。
なぜ知っているのかと問えば、「友人に教えてもらいました。」との答え。
やはり、誰かが教えるまでは知らなかったらしい。
「おいしいですっ!家で食べるものより何倍もおいしいっ!」
名前ちゃんの両親はなんて損をしているのだろうと思った。
こうしてお日様の下で笑っている名前ちゃんはすごくいい笑顔をしているというのに。
そして、きっと家で食べているものの方が何倍もお高いだろうに、美味しいと言っている。
それはきっとこの雰囲気のせいだ。
家でお弁当を食べるより、外でお弁当を食べるほうがおいしいと感じてしまうものと同じことだろう。
「ヒュウガ少佐のはチョコですか??」
「うん、一口食べる??」
「そ、そんなっ、いただけません!」
でも、欲しそうな目をしている。
「じゃぁ名前ちゃんの一口ちょーだい。オレのも一口あげるから。」
「そ、それならっ!!」
納得したのか、名前ちゃんは俺のソフトクリームを一舐め。
「チョコレート味もおいしいですね。では、私のもどうぞヒュウガ少佐。」
差し出されたバニラのソフトクリームを一舐めする。
なんかこうしていると恋人みたいだとチラと思って一人でニヤニヤとしてしまった。
しかし、自分がこんな甘々なことをしているということにも少し恥ずかしくなった。
だが、これで間接チューはいただきだ。
「立ち食いってしてみたかったんです。」
とソフトクリームを舐める名前ちゃんの足取りはどこか危ない。
食べ歩きに慣れていないため、前を向いて歩いていないのだ。
このままで誰かにぶつかりかねない。
「少し座ろっか。」
ちょっとした広場のベンチを指差し、二人してそこに座った。
「ごめんなさい、気を遣わせてしまって。」
「ん〜?何のことかわっかんないなぁ〜。」
「ふふっ、ありがとうございます。」
名前ちゃんは小さく笑ってソフトクリームを舐めた。
「…名前ちゃん?」
ソフトクリームも無事食べ終わり、また手を繋いで歩いていると、急に名前ちゃんが立ち止まった。
名前ちゃんの目はショーウィンドウに飾ってある可愛いワンピースに釘付けだった。
「…着てみる?」
「い、いえっ!私、服とか自分で買ったこともなくてサイズとかわからないですし、似合うかどうかもわからないので…」
「……。んじゃ、とりあえずサイズ測ってもらいなよ。」
半ば強引に店の中に入って、店員にサイズを測ってもらって、この子にショーウィンドウに飾ってある服を試着させてほしいんだけど、とお願いして、戸惑う名前ちゃんを内心微笑ましい気持ちで見てる。
さすがに女性服の店なので居心地が悪いが、ここで自分がいなくなってしまえば名前ちゃんが困り果てるのが目に見えていたので、精神の修行とでも思って…と頑張って堪えた。
「ヒュウガ少佐、ど…どうでしょうか…??」
試着室から出てきた名前ちゃんはオドオドとしていて、オレの感想を待っているようだ。
水玉のワンピースからでている四肢に目が……コホンコホン。
水玉のワンピースを着ている名前ちゃんは、ものすごく可愛らしいから、もう少し堂々としていればいいのにと思う。
「はい、一回転してー。」
名前ちゃんは言われるがままにクルリと回って首をかしげた。
「うん、可愛いよ♪」
悩殺ものだ。
「ホントですかっ?!ではこの服買ってきますね!」
はーい。
じゃぁさすがにオレも店の外で待つとしますか。
ゆっくりと暗くなってきている街を見下ろしながら、二人で約束の夕食を取っていた。
「ヒュウガ少佐…、クマのヌイグルミまで買ってもらって…ありがとうございました。大切にしますね。」
「うん♪」
ここに来る前にちょっとしたことがあった。
服も買って小物も買って、大満足の名前ちゃんがまた店の前で立ち止まったのだ。
その店はヌイグルミの専門店で、数多くのヌイグルミが所狭しと並んでいる。
クマのヌイグルミが可愛いと呟く名前ちゃんは「さすがに買いすぎですよね!」と自重したのか、また歩き始めたのだった。
だからオレがプレゼントした。
「街に初めて来た記念ってことで☆」
「アイスにご飯にと奢ってもらった上に、今日こうして街につれてきて下さっただけでも私は嬉しかったです…。」
名前ちゃんは至極嬉しそうに微笑んだ。
「ヒュウガ少佐、今日は幸せをいっぱいありがとうございました。夜景もものすごく綺麗ですね。キラキラしていて、素敵です。」
キラキラと目を輝かせて窓の外を見る名前ちゃんについ頬が緩む。
このまま上のホテルに…とギラギラしてしまう自分がいやだ。
さりげなく誘ってみてもダメだろうな。
相手は天然名前ちゃんだし。
「名前ちゃんが楽しかったならよかった♪」
また連れてきてあげたい…なんて思うけれど、あまりしつこいと嫌われちゃうかな??
「あ、あの…ヒュウガ少佐。少佐さえよろしければ…また連れてきてくださいませんか??」
「え?」
「だ、だめですか??今日買った服を着てヒュウガ少佐とまた来たいなって…思ったのですが…。」
語尾がだんだんと小さくなっていく。
ダメでしょうか??と不安げな表情をしている名前ちゃんが可愛くて、オレは頷いた。
「うん、また二人で来よっか♪」
今日みたいな時間ハプニングもいいけれど、今度はちゃんと時間を指定しよう。
そういってやれば、名前ちゃんは嬉しそうに笑った。
一緒にいればいるほどその笑顔に魅かれていく。
もっと距離を縮めたい…。
そう思った。
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