翻訳こんにゃく婚約





「おいしいっ!」


甘ったるい香りのする執務室に名前の声が響いた。





「名前ー。この青空ソースかけたらもっと美味しくなるよ??」

「クロたんそれはヤメテあげて!名前ちゃん殺す気?!?!」


名前ちゃんのケーキに青空ソースをかけようとしたクロユリを止める。

午後3時のティータイム。
ハルセがケーキを焼いてきたらしく、みんなでお茶をすることとなった。

ハルセのケーキを食べている名前は「すごい!」と感歎の声をあげてばかりだ。

今日はコナツが有給でお休みだ。
朝早くからどこかへ出かけて行ったらしい。


「本当に美味しいです!」


だから、


「オレの生クリームも美味しいと思うよ??今晩試してみる?」


だなんてことを言ってもツッコむ人間がいない。
コナツがいたら即レッドカードが出されていただろう。


「わぁ、ぜひ!」


甘いものには、目がないとばかりに喜ぶ名前ちゃんはオレにはとても眩しい。
純粋培養の名前ちゃんには全く伝わっていないようだ。

これだからツッコミのいない時は困る。


「でもちょっと苦いかも☆」

「名前に何言ってるんですかっ少佐ぁぁっ!!」


横から思い切りドロップキックをかまされた。


「コナツ兄ぃ!!今日はお休みだったんじゃ…」


痛いけど…ツッコミが戻ってきてくれて嬉しいよ、コナツ。
うん。痛いけど…。


「コ、コナツ…ナイスタイミング…」


床に這いつくばり、悶えながらも親指を立てる。


「死にかけなのに何言ってるんですか。名前にそういうことを言うのはやめて下さい!」


「ハイ。」


クロたんとハルセに冷たい目で見られていたから、どうやって収集つけようか迷ってたんだよ…。
コナツがいない時に言うのはやめるね☆


「で、何でコナツがここにいるの??」


クロたんが訪ねると、コナツは何か不愉快そうに眉を顰め、名前ちゃんを見た。


「今さっき名前の両親と会ったよ。」

「父と母に?!」


何故かコナツは怒っているようだ。


「婚約したってどういうこと??」


…へ?
コナツ、今…何て??


「…こんにゃく?」

「婚約です、少佐。」

「翻訳?」

「少佐、いい加減空気読んでください。」


名前ちゃんは下を向いて気まずそうにしている。



婚約?
誰と??

あ、オレ??


「ちょ、コナツ、オレじゃないよ!まだ何も!まだ何もしてないよ!」

「少佐じゃないことくらいわかってます。まだって二回も強調させないでください。何かする気ですか。」


あ、コナツひどい。


「名前、どういうこと??昔はあんなに知らない人と婚約するの拒否してたのに。」

「…交換条件なの……。士官学校に入りたいならシュリ=オークと婚約しろって…父が。」


シュリ=オーク??

あぁ、確かオーク家のきっての馬鹿息子とか…。


「年下の方だけれど、シュリ様も数年後には士官学校に入るらしいし、家柄もいいからと…」


今時、政略結婚なんて流行らないことするね〜。


「だからって婚約者なんて…」


「遅かれ早かれ、どうせ知りもしない人と結婚させられるのは目に見えていたから、それならば我が侭いって士官学校に行くことにしたの。コナツ兄ぃにも会いたかったし。」

「破棄できないの?」


オレが横から口を挟むと、名前ちゃんは複雑そうに首を横に振った。


「父を説得できる人なんていませんから。」


(オレの←ここ重要)名前ちゃんが婚約…。
いずれは結婚…。

誰がこんなシナリオ望んだっていうんだろうね。


「名前ちゃんのお父さんって怖いの?」

「そうですね…、頑固というより自分のルールが全て正しいと思っているような方ですね。」


わぁ、それは息苦しいね。


名前ちゃんが「軍を探索してきます!」と休憩に入ったのをいいことにオレはコナツから話を聞きだしていた。

さすがの名前ちゃんもここに研修に来てそろそろ2週間が経とうとしているから、もう道に迷うことはないようだ。


「この研修期間終えて無事に士官学校卒業したらお嫁にいっちゃうってこと?」

「まぁ…そうでしょうね。」


そうなる前に手を打たなければ…。


「ね、コナツ♪」


「な、なんですか…?」

「名前ちゃんにお嫁になんていって欲しくないよね?」

「…そりゃぁ……でも、一番いって欲しくないのは少佐ではないんですか?」


そうだね…
いって欲しくないね。
どうせいくならオレのとこにきてくれればいいのに。


「付き合ってもないのに止めれないでしょ?」

「…そうですね。」

「だから、コナツが反対してよ。」

「無茶言わないで下さい!!無理に決まってるじゃないですか!ボクにだってそんな権利ないですよ!」

「幼なじみのよしみってやつでさ☆」

「……少佐らしくないですね。いつもの少佐だったら誰にも頼らずに自分ですべて丸く治めてしまいそうなのに。」

「……」

「動揺、してるんですか?」

「……コナツ、生意気だぞ〜。」


ムギューと両頬を引っ張ってやると、すみません、と素直に謝られてしまった。

どうやらコナツも本調子ではないようだ。
いつもだったら「本当のことです!」とか何とかいってくるのだから。


オレは痒くもないのに、頭をガシガシとかいて机に肘を置いた。


やっぱ、こうなったら本気でオとすしかないか…。


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