02
「大人は殺されたと言っていましたね…。」
なんだろう…。
カストル司教とラブラドール司教の声が聞こえる。
体は深く眠りについているのに、脳だけが起きている感覚。
「名前ちゃんは未成年みたいだけど…子供と呼べるほどではないよね。」
「えぇ。整った顔をしていますから、恐らくどこかの変態親父にでも売り飛ばされる予定だったんでしょう。」
そうだ…。
着飾って売り飛ばせば高値で売れるだろうからと、私だけ殺されなかった。
子供に雑じって一緒に男達に捕まったんだ。
燃える村の匂いには木々だけでなく鼻を劈くような匂いまで。
今思えば、あれは人間の体が焼ける匂いだったのだろうか。
お父さん……。
「お腹空いた…。」
睡眠をたっぷりとった私は寝ぼけ眼を擦りながらベッドから起き上がった。
部屋には誰もいなくて、自分がどれくらい眠っていたのかわからない。
そうだ。
あのフラウとかいう司教はどうなったんだろうか。
残された子供は無事なのだろうか。
皆の顔が見たくて、私は部屋を出た。
しかし広い教会のこの部屋がどこにあるのかもわからない上に、子供達がどこにいるのかもわからないので探しようがなくて、どうしようかと思っていたところに。
「何やってんだ?」
あの金髪のフラウ司教がやってきた。
「子供達は?怪我は?」
「今広間で鬼ごっこしてたぞ。」
よかった…。
ホッと胸を撫で下ろし、息を吐き出した。
「……様子、見に行くか?」
「い、いいの?」
「当たり前だろ?あいつらが今も売り飛ばされずにいるのはお前のおかげだろーが。」
そんな大げさなことしたつもりはない。
ただ、子供達の手を引いて逃げただけなんだ。
フラウ司教の後をついて行くと、大きな広間に出た。
そこでは私と一緒に逃げた5人とフラウ司教が助け出してくれたであろう3人、そして教会に元々居た子だろうか、皆が笑って遊んでいた。
「…怪我はないの?」
「見りゃわかんだろ?あんだけ元気なんだからよ。」
頭にポンっと手が乗せらた。
どうしてだろう、この人の手は私の涙を誘う。
安心して、泣きたくなる。
「違う…、あなたの。」
フラウ司教を見上げて言えば、彼は口の端を片方だけ吊り上げて笑った。
「当たり前だ。」
よかった。
本当によかった。
奥歯を噛みしめて涙を堪えるも、目尻に溜まっていくばかりの涙はついにはホロリとこぼれた。
「あ!名前おねぇちゃん!」
私が来た事に気付いたルナの声に皆が反応を見せた。
一斉にこちらに向けられる視線。
「あー!フラウ!お前何名前ねーちゃん泣かしてるんだよ!」
「あぁ?どっちかっていうとお前らが無事で泣いて、」
「問答無用だバーカ!」
アルドがフラウにとび蹴りしたことで、残りの子供達がフラウに猛攻撃。
「ちょ、ちょっと!違うってば!皆聞いて!」
頬を伝った涙を手の甲で拭きながら子供達を引き剥がすが、残念ながら意味はない。
「こら!皆!アル、髪を引っ張るのはやめてあげなさい!」
やり放題のアルドの腕を取ったところで、カストル司教がやってきた。
「皆さん、お昼の時間ですよ。」
その言葉の効果は偉大だった。
フラウ司教に纏わりついていた子供達が、カストル司教に続くようにして一斉に食堂があるらしき方向へと向かっていったのだ。
残された私とフラウ司教の間には微妙な雰囲気が流れている。
床に這いつくばっているフラウ司教を見る限り、結構好き勝手やられたようだ。
子供って、強い。
「あー……えっと、ごめん、ね?」
ムクリと起き上がったフラウ司教は床に座り、頭をかいた。
「手加減ねぇーなーあのアルドってクソガキ。」
「まだ子供だから。手加減の仕方を知らないんだと思う。……ありがとう。」
私は微笑みながらフラウ司教に手を差し出した。
「子供達に付き合ってくれて。…それと、助けてくれて。本当にありがとう。」
フラウ司教は数秒間、私を眺めていたが、すぐに差し出している手を取った。
「腹減ったな。」
「私も寝てばっかりで全然食べてないからものすごくお腹減ってる。」
「だろうな。じゃ、俺達も行くか。」
「うん。」
フラウ司教は立ち上がり、私の手を掴んだまま歩き始めた。
私は一歩遅れながらもその手を振りほどこうとは思わなかったけれど、何だか気恥ずかしくて握られるだけのままでいた。
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