05




「あーすごくいい天気。」


んー!と目一杯背伸びをして清清しい朝の空気を肺いっぱい入れ込む。

そうすると、何だか昨日までの沈んだ気分が嘘のようだった。

焼けた村は言葉では言い表せないくらいとても悲しかったけれど、私達は今をこうして生きている。

なら前を向いて歩いていくしかないじゃないか。


「名前ねーちゃん!」


背後からアルドが私にとび蹴りをしてきた。


「ぐぇっ!」


前のめりどころか地面に這いつくばった私に向かって、アルドは悪戯が成功したことに笑った。

一体誰だ、子供にこんなコトを教えたのは。
後ろから飛び蹴りだなんて卑怯にも程がある。


「見てくれたか?!俺のジャンピングキック!」


何だその横文字。
聞き覚えがあるぞ。


「やっぱりとび蹴りっていうより、ジャンピングキックって言った方がかっこいいよな!」


…なんだろう。
ものすごくデジャブだ。
まぁ、今回は被害者側だが。


「後ろからされたのに見えるわけないでしょー!」

「名前ねーちゃんには後ろにも目があると、」

「誰に聞いたよ、それ。」

「俺が勝手に思ってる!」

「よーし。アル、歯食いしばってね。」


ひとしきりアルドの頬を餅のように引っ張って遊んだ後、私はその小さな頭を撫でた。


「もう女の子にそんなことしたらダメだからね。」

「なんで?」

「女の子は男の子より弱いから。だから男の子はその力で守ってあげなくちゃダメなの。」

「……ふぅん。でも名前ねーちゃんは強いよ。それに女の子ってほど若くない。」


若ぇよ!
まだ十代だよ!

そりゃまだ十代前半のアルドにしたらおばさんかもだけど、若くないって言われても否定させて。
50歳過ぎたら頷いてあげるよ。


「今はまだアルドが小さいからでしょ。これから成長期なのよ?どんどん大きくなっていって、いつの間にか私の背だって追い越しちゃって、私より強くなっちゃうんだから。」

「…俺が名前ねーちゃんよりも?」

「そうよ。」


いくらアルドが大きくなっても、大人になって偉い人になっても、私はアルドが悪いコトしたら叱るけどね。


「じゃぁ俺が守ってやる。」

「あら。」


たまにはかわいーこと言ってくれるじゃない。


「ホントだからな!」

「はいはい。頼りにしてるわ。」

「信じてないだろ。」

「信じてるって。」


ニマニマしながらアルドの頭を撫で回すと、アルドはふて腐れた。


「アルドー一緒にあそぼー?」


ルナが皆と一緒にこちらへやってきた。

小さな歩幅で走ってくるその様はとても可愛らしい。


「名前お姉ちゃん、昨日フラウ司教と出かけてたでしょ?どこ行ってたの?」


ルナがつれて来た友達の一人が私の足に纏わりつく。

この子はアルドとあまり歳も変わらないのに随分とおませさんで困る。


「あいびきってやつでしょ?」

「いや、そういう関係じゃないんで。」


いやーもう、恐ろしい子だわ。
ルナの教育に悪いじゃない。


「あいびきってなに?」

「ルナはねーまだ知らなくていいのよー。」

「ちゅーした?ちゅー。」


ちょ、だまらっしゃい!


「名前お姉ちゃん、フラウ司教とらぶらぶだものね。」


………は?

らぶらぶ?

え?

ラブラブ?

何?

LABULABU??

…?

LOVE LOVE??


「ご、誤解でござんす。」

「あやしいわ〜。」


私は一歩後ずさり、その場から脱出した。
正確に言うと、逃げだした。










大人の皆様方。
最近の子供は少しマセすぎではないでしょうか??
そうは思いませんか?

ちゅーって、ちゅーって…!!


するわけないだろー!!


息も絶え絶えになりながらとりあえず人影のないところに逃げ…、


「ぎゃ!」

「ぐぇ!」



誰かの足に躓いた、と思ったら、そのまま体勢を戻しきれずにその人の上に倒れこんでしまった。


「お、お前なぁ…」


倒れ込む時に運悪く肘が鳩尾に入ったらしく、寝転がっていたフラウは起き上がるなり悶えた。


「ごめんフラウ!わざとじゃない!」

「わざとだったら殴ってる。」

「ごめんー!」


フラウの腕に手を置いて、心配で顔を覗き込んだところで私は動きを止めた。


『ちゅーした?ちゅー。』


おませな言葉が頭の中でリフレインする。


「ぎゃー!」


私はそのままフラウを突き飛ばした。


「ぎゃー!ゴメン!今手が勝手に!」

「今のはわざとだろ、おい。」


だって、だって!


うぉぉぉぉぅ!
ダメだ、意識してしまう!


「フラウ、ごめん!じゃ!」


訳がわからないと首を傾げているフラウから、私はその場から遁走した。


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