03




「開放的だわー!!」


明らかにシングルサイズではないベッドにごろりと横になって大の字になった。

ヒュウガさんの匂いがする。
イマイチいけ好かない男だけれども、この匂いだけは好きかもしれない。


「先に部屋でゆっくりしていても良かったのに。」


私が第5区から長旅で疲れているというのに、皆の勤務が終わるまで執務室に居座って自己紹介などをしていたことを言っているのだろう。


「いいの。大勢で話すの好きなのよ。」


仕事柄、令嬢と私の2人だから何だか新鮮だしね。


「ハルセさん、あの人感じのいい人ね。言葉を選んで口に出しているみたいだから嫌味じゃないというか、コンパニオンに向いてるわ。」


ゴロリとうつ伏せになって肘を付き、その手のひらに顎を乗せてヒュウガさんの方を見やると、彼は私の荷物を部屋の隅っこに置いて軍服の上着をソファの背もたれにかけたところだった。


「でもあれね、一番向いてるのは貴方ね。」

「オレ?」

「だって貴方は人に合わせて会話の内容を変えることができるじゃない。」

「そ♪?」

「自覚ないの?」

「少しある♪」

「でしょうね。」


コンパニオンに必要なのは人の話をしっかりと最後まで聞けること。
これはヒュウガさんはできていないけれど。

それにその質問やら会話に的確な返答、つまりは令嬢が望む答えを出してあげることができること。
会話をそれと無く変えることができること。
飽きないように話のネタがあること。
令嬢を見てこの話をしてあげたら喜ぶかも知れないという判断ができること。


まだまだたくさんあるけれど、私は何より話す時は目を見て話すことが大切だと思う。

目は口ほどにものを言うという言葉は、普通あまりいい感じには捉えられないけれど、逆に言葉だけでは伝えきれないものもしっかりと伝わるような気がするのだ。


「先にシャワーいーよ。」

「ベッドを譲ってくれたんだもの、ヒュウガさんこそ先にいいわ。」

「……あだ名たんってさ、傍若無人に見えてそうじゃないよね。」

「何が言いたいの?」

「意外と可愛いところがあるよねってコト♪」

「口説いてるの?シャワーも浴びる前から?」


ゆっくりと体を起こしてベッドの淵に座り、わざと扇情的に微笑んでみせる。


「口説かれたい?」

「あら、口説きたくないの?」


質問に質問を投げかけ、会話は一向に進まない。

互いに口説く気も口説かれる気もないことが雰囲気からして見て取れるが、中々に収集がつかない。


「あ、そうか。私普通の顔だから口説かれる対象にはならないわね。」

「根に持ってるの?」

「いーえ。」


言葉とは裏腹ににーっこりと微笑んでやる。

女の恨みはネチネチしてるんだからこれを期に学ぶといいんだわ。


「あだ名たんは十分魅力的だよ。」

「そう。それは良かったわ。」

「…あだ名たん、誘ってるの?」

「そう見える?」

「見えるね。」


私の目の前まで歩いてきたヒュウガさんが私を上から見下ろしてくる。

背が高いせいで結構見上げなくちゃいけない。


「首が痛いわ。」

「仰向けになればいいと思うよ。」

「そんなことしたら自意識過剰な誰かさんから誘ってるって思われちゃうもの。」

「へぇ、それって誰のことか教えてくれる?」


スルリとヒュウガさんの手が左頬に添えられた。


「男らしく認めちゃったらどうかしら、ヒュウガさん?」

「…ヒュウガ。ヒュウガって呼んで。」

「ヒュウガ?」

「そう…。」


ゆっくりと唇が重なり、それからは一言もお互いに言葉を発することもなくベッドに縺れ込んだ。


自ら服を脱いで下着も取り去る。
そうするとヒュウガは露になった胸に手で触れた。

彼の手が動くたびに形を変える胸の先端を舐められると、夜の空気がひんやりとした。

私も彼のに手を伸ばそうとしたのに、彼はその手を片手で封じるとシーツに縫い付けるように押さえつけ、唇を首筋や胸元に這わせてきたのだ。

別に恋人同士ならそれでもいいだろう。
だが、今私達がしているのはお互いに快楽を求めての行為だ。
快楽を与えあって成り立つ関係であるのに。

なのに何もしなくていいのだろうか。と思うものの、彼だってさっき私がしようとしたことに気付いていたはずだ。
それでも止めたということはしなくていいということなのだろう。

私は『まぁ、あんまりフェラは好きじゃないしいいか。』と甘い熱に浮かされていく頭で一人勝手に納得した。


秘部を這う長い指に中を解されると、水音が部屋に響き始める。

それと同時に言葉にはならない嬌声が小さく漏れ始めた。
それに気分を良くしたのか、彼は指を引き抜くとそのまま彼自身を挿れてきた。

圧迫感に息が詰まり、内臓がせり上がってくる様な感覚に陥る。
久しぶりだったから中も狭いだろう。

彼は少しだけ辛そうに顔を歪めて律動を始めた。


私の白い肌に彼の肌がぶつかる音を聞きながら、シーツをキツく握って与えられる快感に耐える。


欲求不満かといわれたらそうでないとハッキリいうことができる。
なのに何となくだけど『いいかな』と思ったのだ。


「っ、ぁ…ッッ」


四肢が震えて絶頂に達すると、彼も数回打ち付けた後に私の腹部に欲を放った。





「オレのこと嫌いじゃなかったの?」


情事後、2人で大きすぎるベッドに横になっていると、ふと今まで黙っていたヒュウガが静寂を切り裂いた。


「そうねぇ…嫌いというより、いけ好かないかしら。」

「どこらへんが?」

「胡散臭いサングラスと軽いノリと口調。」

「あっさり答えるね。」


ヒュウガは苦笑交じりだが、何だか面白そうに私の話しを聞き入っている。


「じゃぁどうしてオレに抱かれたの?」

「嫌いじゃないと思ったから。貴方の匂いが。」

「匂い?」

「そう。包まれてもいいと思ったからしたまでね。」


それ以上でもそれ以下でもない。


「もう寝ましょ。明日は早いわ。」


今宵はただの気まぐれに過ぎないのだから、甘い後戯なんていらないわ。


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