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女ってわかんない。


これはあだ名たんを見ての正直な感想だ。


オレのこと嫌いなのかと思っていたら案外あっさりと部屋に招かれて。
誘っているのかと思ったら誘っている風を装っている感じなだけで。

どうして抱かれたのかと疑問を口にすると「匂いが嫌いじゃないから」というまた不思議な答え。

女ってわかんない。

彼女はどことなくアンバランスな感じがする。

言っていることと行動がバラバラで、真意がイマイチ掴めない。

情事中、オレのに手を伸ばして来た時はさすがに驚いたけれど、あだ名たんにそれをさせる気にもなれなくてそれとなく腕を取ってやんわりとそれを制した。

快感を与えて与えられる関係だったらそれは体だけの関係だ。
だから与えるだけにしたかった。

体だけの関係なら面倒臭くもなく後腐れもないというのに、それだけは嫌だった。

ふと何でだろう。と考えてみる。


隣ですやすやと無防備にも眠っているあだ名たんは確かに美人でも不細工でもない。
しかし可愛げのない口調に憎たらしい話術までもがプラスされている。

自分の中でのあだ名たんはマイナスのイメージだったはずだ。
部屋に泊まっていいと言ったのでさえ、握っているというアヤたんの弱みをじっくり聞きだそうと思っていただけなのに聞き出すことは愚か体を重ねた挙句、なんで自分は腕枕なんぞしてあげているのだろうか。

これではまるで恋人同士みたいで首を傾げたくなる。

女は美人で胸があって口答えしなくて面倒臭くないに限る。
ついでに、少し微笑んでやるだけでコロッと騙されて絆される頭の悪い女だったら扱いやすいから尚更良い。

まぁ、また抱いて欲しいだなんて言って縋ってくるほどの馬鹿は面倒臭いけれど。

オレの好きな時に抱かせてくれる、そんな女がいいのに。


どっからどうみてもあだ名たんはオレの言う『面倒臭い』部類の女だ。

だって正反対ではないか。

はっきりいってとびきり美人というわけでもないし、胸は普通だし口答えどころか憎たらしいほどに弁が立つ。

会話を生業としていのだから当たり前なのだろうけれど、少し雄弁すぎやしないだろうか。
令嬢に人気というのがイマイチ納得がいかない。

セックスをしたのだってあだ名たんが誘ったからだ。
確かに途中からは性欲の捌け口にもなるしいいかなとノったオレもいる。
最近仕事が忙しくて女を抱いていなかったし手っ取り早かったというのもある。

正直、悪くはなかった。

オレの下で喘ぐ表情も高い声も悪くはなかった。

たまに相手をする女の金切り声にも似た嬌声がうるさくて、機嫌を損ねない程度に唇を重ねて塞いだりもしたけれど、もっと聞きたいと思ったことだけは認めよう。


たくさんの女をいくら抱いても、回数を重ねてもホント女って理解できない。
今回そんな理解できないあだ名たんを抱いて満足しているオレも理解不能だ。





「いざ出陣よ!」


執務室を出てホークザイルのある外まで出ている時に、右腕を上げて張り切っているあだ名たんを視線だけで見る。
昨日の今日で少しくらい恥らうかと思いきやそうでもない様子。

むしろ朝起きたら「おはよう、コーヒー淹れたんだけど飲む?」だなんて、まるで昨晩の出来事なんてなかったかのような風貌だった。

あだ名たんは昨日はしていなかった化粧を薄く施しており、髪も後ろで一つに纏め上げてパールビーズが施してあるスリーピンでしっかりと留めてある。

昨日は黒のパンツに半袖のシフォンのアンティークブラウスとカジュアルな感じだったのに、今日は花柄ワンピースの上から淡い緑色のカーディガンという極力露出は抑えているようで、清楚な印象さえもたせるような服装だ。


「名前、戦いにいくわけではない。」

「わかってるわよー。ちょっと気合入れようって思っただけじゃない。」


昨日とは一風変わった雰囲気を見せているものの、中身はどうやら同じらしい。


スカートの裾を翻して振り向いたあだ名たんはアヤたんを肘で突いた。


「ちゃんと守ってよね。」

「あぁ、令嬢は守る。」

「私だよ私!」

「気が向いたらな。今日の担当の護衛はヒュウガとコナツだ。そっちに言え。」


アヤたんに構っていたあだ名たんはオレとコナツに視線を向けた後、「ふぅん」と呟いた。
文句があるならぜひ口に出して欲しい。

出して欲しくない時に口に出すくせに、何で出して欲しい時には黙るのか。


「アヤは?」

「私は執務だ。」

「アヤも挨拶だけじゃなくて今日ずっと居たらいいじゃん。」

「聞こえなかったのか?執務だ。」

「えーつまんなーい。」

「お前だって仕事に行くんだろうが。仕事を全うしろ。」

「うん、ちゃんとするよ。でもさ、せっかく久しぶりに会ったんだからアヤで遊びたかった。」


アヤたん『で』遊びたいとは中々に恐ろしい女だ。

ジト目で睨まれているあだ名たんは相変わらずにこーっとしているだけで、アヤたんの睨みさえスルー。
とにかくスルースキルが半端無い女だ。

そんな2人をさっきから3歩後ろから見ているが、昨日といい仲が良いんだなぁなんて思った。

アヤたんもあだ名たんに弱みを握られているからなのか、それとも気にしていないのか、結構心を許している感じさえする。

一体2人はいつどこで出会ってどこまでの仲なのだろうか。
アヤたんに正直に聞いても答えてはくれないだろう。
あだ名たんもあの性格だから答えてくれるか甚だ疑問だ。


「少佐、名前さんって昨日とは随分雰囲気が違うんですね。服装のせいだからでしょうか?」


コナツの純粋な瞳が逆に怖い。
これで『名前さん、素敵ですね』だなんて言われたらどうしようか。


「……でも中身は昨日ままだよ?」

「みたいですね。でもアヤナミ様と対等に会話ができるなんてすごいですよね。」


これは好意だろうか。
それもとただの尊敬なのだろうか。

彼女のどこに一体好意を抱いたらいいのか尊敬の念を抱いたらいいのか、オレには全くわからないけれど、純粋培養のコナツからすると魅力的らしい。

目は口ほどにものを言うってこういうことを言うんだな。


「話術だけは長けてるみたいだからね。」

「……少佐、もしかしなくても名前さんがお嫌いなんですか?」


前の2人に聞こえない程度に声を更に小さくして聞いてきたコナツに首を傾げる。

問われているということはそういう風に見えたということなのだろうが、嫌いか好きかと言われたら『別に悪くない』という答えしか持ち合わせていない。

黙って笑っていれば2割り増しで可愛いだろう。
黙っていれば。


「なんで?」

「先程から否定しかされていないので。」

「う〜ん……嫌いっていうか、…いけ好かない。」


あ、これって昨日あだ名たんに面と向かって言われたセリフだ。
思い出したら何だか笑えて、コナツの肩を叩いた。


「アヤたんも言ってたけど、あだ名たんだけは止めといた方がいいよ。」


今ならアヤたんが言っていた言葉の意味が少しだけ分かる気がする。

コナツにも一応伝えておいてあげようと思って言ったけれど、言われたコナツはキョトンとして「何をですか?」なんて聞いてきたから純粋培養なコナツの肩をもう一度無言で2回叩いておいた。


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