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ずっと隠し通せるわけがないことなど最初から分かっていた。

自分のしていることを恥じている訳でも、後ろめたさを感じている訳でもない。
だが、名前にだけは言えなかった。

そこらへんにたくさんいる普通の一般人で、軍とは縁のなさそうな朗らかな笑みの少女。

その笑顔を壊さないためなら、世界の美点だけを見せることさえ厭わない。


手を引かれながらこちらを振り向き手を伸ばす名前。
だが、その手を掴むことなどできなかった。


『あの人、ブラックホークの参謀なんだから!』


全てを知ってしまったのなら、普通の一般人であるお前は私を怖がるだろう。


「名前…」


小さく呟いた名前は誰の耳に届くこともなく、静寂の中に溶けて消えた。





「…やっぱり今日も来ない……」


ディンブラでアイスティーを淹れながらアヤナミさんを待つ。
が、待ち人来ず。


「誰待ってるのよ。」


カウンターに座っているシキがアイスティーはまだかまだかとこちらを覗いてきた。


「……」


私が言いにくそうに目を逸らすと、シキは長年の友人としての感を働かせたのか、「参謀長官のことか…。」とため息を吐いた。


「この店で会ったの?」


シキの質問に小さく頷く。


「…もしかしなくても、この前話に出てきたキスした相手って参謀長官?」


勘の鋭いシキだ。
全てお見通しと言ったところか。


「…そうだけど…。」

「付き合ってるの…よね?抱きしめられてたんだし。」


私はまた小さく頷いた。


「…シキは、どうしてアヤナミさんのこと知ってるの?」

「前にも言ったと思うけど、私、父親の伝で軍に潜り込んだりしてるから。でも父親に『あのブラックホークにだけは近づくな』って口を酸っぱくして言われてるの。だから気になって顔を見たことがあるって訳。私の記憶力最高ね。」

「…自画自賛……」

「落ち込みながらツッコまれても嬉しくないんだけど。」


だって…。
明日来てくれるって約束したのに…。
その約束はどこに行ったの?

急に仕事が入ったからなんて言い訳はできないですよ?

だってこうして貴方を待ち続けて、もう一週間が経つんですから。


「名前さぁ、いつも言ってるよね?暗い気持ちで淹れたらせっかく美味しい紅茶も美味しくなくなるって。笑顔で淹れてくれる??」

「……そうだけど……」


私はグラスにたくさんの氷を入れて、その上からいつもより濃い目に入れた紅茶を流し込んだ。

いつものように作っているのに……
そのアイスティーは濁った。

まるで、私の心の中を現すかのように。





なんだか疲れてしまって、昼間なのにゴロリとベッドに仰向けになる。
見慣れた天井が見え、私は小さくため息を吐いた。

この部屋で初めてアヤナミさんとキスをした日を思い出す。

甘いミルクティの味。

こんなにも甘かったっけ…と思ったりもして。

どれもまだ最近のことなのに、遠い日々のことのように感じる。


今瞳を閉じたらアヤナミさんの夢が見られるのだろうか…。

会いたいのに会えない。
触れたいのに触れられない。

もどかしい気持ち。


会いたい。
会いたい。

今すぐ会いたい。


でも貴方は会いに来てくれない。


「それなら……私から会いに行くまでですよ、アヤナミさん。」


私はベッドから飛び起きた。


勢い良く部屋を飛び出して家を走り出る。

その音で赤い屋根でお昼寝中の猫が起きて鳴いた。

目の前の角を曲がって、さらに右へ。

すると見慣れたシキの家が見えた。

門をくぐり、チャイムを鳴らす。

すると中からさっき帰って行ったばかりのシキが出てきた。


「名前?さっきぶりじゃない。どうしたの。」

「シキ、おねが、」

「え、何?」


走ってきて乱れている呼吸を必死に整える。


「お願いがあるの!」


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