終
「ぁ…ん…ッ、ヒュウガ…」
荒い息遣い、軋むベッド、粘着質な水音。
それらが部屋に響き、脳を侵す。
ヒュウガに体を開かれ、繋がっている場所からは取りとめもないくらいに愛液が溢れ出している。
自分の声じゃないといいたいくらいに高く甘い声。
潤んだ視界には揺れるヒュウガの喉仏。
中に感じるヒュウガ自身に、身もだえ、体が震えた。
………というところで、目が覚めた。
連日続くヒュウガとの熱い夜のせいで、ついウトウトしていたらしい。
少し離れた場所では皆がおやつの準備をしていて、悩みの種であるヒュウガはコナツさんにちょっかいを出していた。
そんなコナツさんに怒られているヒュウガを傍目に見ながら、小さくため息。
自分はついに昨夜の情事を夢にまで見るようになってしまったのだ。
思い出すだけでは飽き足らず、夢にまで!!
「あー頭痛い。」
ついでに腰も、人様に言えない様な所も。
たまには普通に眠りにつきたいものだ。
ベッドに入り、次第に訪れる眠気に誘われてウトウトして…夢の中。
少し前まではそんな毎日だったのに、今では好き勝手ヤられて気絶or力尽きて死んだように倒れるという半強制睡眠だ。
心地よい睡魔が襲ってくることなど久しくない。
別の誰かさんなら襲ってくるけれど。
「あだ名たん、起きた??」
コナツさんに怒られているにも関わらず、ヒュウガはケロっとして私に近づいてきた。
「起きた。」
たまに事に及ばずして眠ることもあるけれど、ここ連日…、正確にはヒュウガと両思いになってからというもの、快楽に溺れる夜が続いていた。
触って、触られて、挿入なしで終わってくれることもしばしば。
少しは私の体を労わってやろうという気はあるようなのだが、それだけで終わることのほうが少ない。
というか、終わらせてくれるはずがない。
『今日は触るだけ!』『うん。』という会話を成立させて、……させるまでにも骨を折るのだが、ほぼ8割方最後まで持っていかれる。
つまり毎日同じ部屋、同じベッドで寝ているわけだが、実はこれがまた曲者で。
事に及ぼうが及ぶまいが、毎日同じ部屋同じベッドということなのだ。
「ハルセがケーキ作ってきたって♪」
「食べる!」
最近では私の部屋へは着替えを取りにいくくらいしかしておらず、ほぼ半同棲生活。
『好き』と言われ、『好き』と返し、両想いが成立してからというもの、ヒュウガが帰してくれないこの現状。
中出し外だしは常。
たまにゴムをつけてくれるけれど、それは本当にたまに。
大事にしてくれている、してくれていない云々の話ではなく、思い切って聞けば早く子供が欲しいのだそうな。
私がヒュウガを拒否してる時間があまりにも長すぎたのだろう。
ヒュウガは私が離れていってしまうのではないかと思っているんだと思う。
それは信用されていないような気がして、少し悲しくなってしまうけれど。
「あだ名たん、あーん☆」
よく皆で談話をするソファに腰をかけると、ヒュウガが私の口元にケーキを差し出した。
人前でそれができるほど、恋愛に対して慣れていない。
するのもされるのも無理だ。
多分一生無理だと思うけれど。
「自分で食べるからいいよ。」
「じゃぁ食べさせて♪?」
「自分で食べなよ。」
美味しそうなケーキを食べながら冷たい視線を送ると、ヒュウガはちぇっと舌打ちをして面白そうに笑った。
私がしたがらないこと、わかってたなこの人。
「名前ってヒュウガと付き合ってるの?」
クロユリ中佐、その質問は『ヒュウガって名前と付き合ってるの?』に変えてもらえますか??
その質問の仕方だと、私が返答する破目になるから。
「…どうなんでしょうか、ヒュウガ少佐。」
シラッとしてヒュウガに振ると、悲しそうな顔をされた。
「あーごめんなさい、付き合ってます付き合ってます。」
何だか最近、自分はヒュウガの交わし方を覚えた気がする。
「へぇ〜名前趣味悪いね。」
何気に笑顔でひどいこといいますね、中佐。
「名前の趣味ってこんなのなんだ。もっと違う人と付き合うと思ってたよ。」
「クロたんひどい!!」
「少佐にもいいところはありますよ!」
あまりのひどい言い様に、コナツさんが必死に場を取り繕うが、意味は成さない。
「たとえば?」
「……か、顔、とか…、そ、それにとても強いですし!」
全くフォローになってない。
しかし、確かに私の好みはアヤナミ様みたいな人で、罷り間違ってもヒュウガではない。
性格なんて正反対ではないか。
好みの男性が側にいるのに、別の男性を好きになった私。
ホント、恋愛どう転ぶかわからないし、ままならないものだ。
「あだ名たん、皆ひどい…」
「そうですね。自業自得ですね。ちゃんとディスクワークしたら少なくとも惚れ直すけど。」
「ホント?」
「うん。」
「今日はこれから真面目にするよ。」
ヒュウガのセリフに、コナツさんは今日こそ定時に帰れると涙ぐんでいた。
当のヒュウガは本当にやる気があるのだろうかと疑ってしまうほど、私にベッタリとくっついてきたが。
仮定として、もし私がヒュウガに一目惚れして、初めて襲われそうになった時そのまま流れに身を任せて犯されていたとしよう。
そうしたらさっきから私にくっついて離れないこの男は、私に興味を持ち、好きになってくれただろうか??
答えは明白、否だ。
全てはタイミングと運。
あとは私の性格に惹かれてくれた、多分それだけ。
私は危ない橋を知らず知らず渡っていたのだろう。
いつ縄を切られるかわからない橋を。
好かれていなかったら、きっと今の私はこうしてヒュウガにベタベタされてはいなかったはず。
ヒュウガも半ば無理矢理に事に及んでおいて、両思いになれるとは思ってもみなかったはず。
だからこそ、この間、賭けに出て中にだしたんだろうし。
普通だったら嫌っているし、強姦という立派な犯罪だ。
なのに私はヒュウガと付き合っている。
眠ったフリをして私の胸元に頭をずり下ろしているこの馬鹿と。
そうだ!
今日、このときをもって、ブラックホークの七不思議の一つにしよう。
クロユリ中佐は男の子なのか女の子なのか…、
アヤナミ様の軍帽の下はどうなっているのか…
不思議はたくさんだ。
私はヒュウガの頭を押して胸元から退けた。
重いし、変なスイッチ入られても困る。
「ねーねーせっかくの休憩なんだから効率よく使おうよ〜♪」
寝たふりをあっさり止めたヒュウガは、急にわけの分からないことを言い出した。
「ヤろ??♪」
本当にわけが分からない。
変なスイッチは当の昔に入りっぱなしで、OFFになることはないようだ。
「いつも一時間で終わんないじゃない。」
それに事に及んで、またすぐに仕事に戻るとか無理。
体力的にも、精神的にも。
アヤナミ様とか、カツラギ大佐とか…勘がいい人には気付かれそうで…。
「ということで、私は今から読みかけの小説を読みます。」
「えー!」
不満顔のヒュウガは、いつも夜は事に及び、昼はこんなふうにベタベタしてくるから、読みかけで気になっている小説を読む暇さえない。
私の休憩時間だ。
私のために有効活用させてもらおう。
持ち歩きしやすい文庫を広げようとすると、遠くに座っているアヤナミ様と目が合った。
これは無言で『コーヒーを淹れてこい』という合図だ。
私は文庫をテーブルに置き、まだ軽く痛む腰を上げた。
「淹れにいくの?」
「うん。ヒュウガもいる?」
「いらない。その代わり、オレのあだ名たんの中に挿れていい?」
「少佐!!」
度が過ぎてきたヒュウガの下ネタに、黙ってケーキを食べていたコナツさんが抗議の声を上げた。
「少しは謹んでください!」
「恋人同士の会話に入ってくるなんて野暮だよコナツ。」
「場をわきまえてください。」
もっともですな、コナツさん。
「だって〜。あだ名たんってばオレのお願い事は聞いてくれないのに、アヤたんのお願い事は聞くんだよ??」
「…何拗ねてんの。」
「やっぱアヤたんのほうが好きなんだ…」
…子供がいます。
妹か弟に大好きなお母さんをとられて拗ねてるような子供がここに。
「…コーヒー淹れてきまーす。」
ここはスルーしておこう。
私はそそくさとその場から離れ、コーヒーを淹れる。
ヒュウガは子供だ。
大きな子供。
そのくせ夜は急に男の顔をするから余計心臓に悪い。
嫌いではないけれど。
「お待たせしました。」
アヤナミ様の机にコーヒーを置き、何気なく振り向くと、ヒュウガがものすごく拗ねた目でこちらを見ていた。
まだご機嫌斜めらしい。
「あだ名たん、アヤたんと浮気しないでね。」
「しません。」
アヤナミ様がいるところでそういう話はやめて欲しいんですけど。
「誰とも浮気しないでね。」
「しないって。」
何、私ってそんなに信用ないわけ?!
何だかムカついてきた…。
「絶対だよ?」
…完璧ムカついた。
「大体、別れる気が少しでもあったら中出しなんてさせない!!」
…………
あぁ…フェードアウト……したい。
クロユリ中佐は意味を理解していないのか、別にどうも思っていないのか、ケロッとしている。
それだけならいい。
だが、コナツさんは顔を真っ赤にしていて、ハルセさんは苦笑い気味で、カツラギ大佐は軽く咳払い。
アヤナミ様は…わからない。
後ろを振り向きたくもない。
怒りに任せて言っていいセリフではなかった…。
私は羞恥心で溢れる気持ちに抗わず、その場からダッシュで退散した。
ダッシュで逃げた先は、自室でもなくヒュウガの私室だった。
なんというか…習慣って恐ろしい。
ドアを閉めてそのドアに背中を預ける。
心臓が耳で鳴っているような気がしてならない。
そのうるさいくらいの心音に耳を塞ぎたくなるが、それよりまず今のことを忘れたい。
今のこそ夢だ。
そう、夢、夢、ゆめ…
「あだ名たん、大胆だね♪」
お願いだから夢にしておいてー!!
「ぎゃっ!」
追いかけてきたらしいヒュウガに、思いっきりドアを開けられた反動で私は前につんのめり、動揺のあまりそのまま転んだ。
きっと部屋に入ってきたヒュウガが見たのは、私が転んでいる何ともまぬけな姿だっただろう。
「何してるの?」
「全部ヒュウガのせいだ。」
クスンと泣いてもさっきの言葉はもう修正がつかない。
ヒュウガは私の腕をひっぱって立ち上がらせると、そのままベッドに運んだ。
ベッドの淵に並んで座って、「赤くなってる。」とヒュウガが私の膝を撫でた。
思いっきり打った膝は血が出ているわけでも傷がついたわけでもないけれど、打撲を負っていた。
「うん、痛いもん。」
「こっちじゃなくて、あだ名たんの顔が。」
なら紛らわしい言い方しないで。
膝を撫でもしないで。
「顔、上げて??」
その赤いと言われた顔をあげろといわれても、抵抗ありまくり。
しかしヒュウガはそんな私の抵抗を物ともせず、顎に手をかけて自分の方を向かせた。
「ものすごく赤い。」
「ヒュウガのせいだ。」
「オレの?!?!」
「ヒュウガが変な嫉妬するから…」
そういうと、ヒュウガは私の唇に触れるだけのキスを落とした。
「あだ名たんがオレ以外に触れないように手錠して、オレ以外を見ないように目隠しして、オレ以外に近づかないように監禁したい。」
…………
誰か、マジで警察呼んでください。
「でもそんなことしたら、今の大好きなあだ名たんがあだ名たんでなくなっちゃうような気がするから、しない。」
ヒュウガは、私の肩口に顔を埋めた。
初めて私を襲ってきた時のヒュウガとは丸きり大違いだ。
全くの別人のように弱々しく感じる。
「あだ名たんだけなんだ。一緒にいて、たまに怖くなるの。」
声まで弱々しく感じるのは気のせいだろうか??
「でもそれ以上に安心する。でも怖くなる。」
「私が、離れて行っちゃうかもって??」
「うん。こんな気持ち…初めて。」
恋愛をすると、誰しも弱くなる。
ちょっとしたことで舞い上がり、幸せになって、ちょっとしたことで悲しくなって不安になる。
それは誰かを愛しているから。
そして、愛されていると実感しているから。
「そっか…。ありがと。」
「なんでお礼言うの??」
ヒュウガは私の肩口から顔を上げて、小さく小首をかしげた。
「だって、」
人は確かに恋愛をすると弱くなる。
でも、それと同時に強くもなる。
愛しい人を守りたいという心が強くなる。
誰かを笑顔にしてあげたいと思うことはその人の強さだ。
自分が弱々しくては、人を幸せにすることは難しい。
立ち向かっていく強さ、向き合う強さ、人に優しくする強さ。
今まで体験した事のなかった恋心というものに、ヒュウガは少なからず戸惑っているのかもしれない。
それは、今までの女性では気付かせてあげることが出来なかったということ。
そして、その気持ちに気付かせてあげることが出来たのが私だということが、とてつもなく嬉しい。
「ものすごく愛されてるんだなぁって改めて今実感したの。」
キョトンとしているヒュウガに、今度は私からキスをした。
「あだ名たんの中で、オレは何番目??」
触れるだけのキスが終わると、ヒュウガは真っ直ぐに私を見てきた。
「…私、人に順位をつけるのってあんまり好きじゃない。」
その人はその人。
あの人はあの人。
ヒュウガはヒュウガだ。
「人と人を比べる天秤なんて、私は持ち合わせてなんてない。」
私はそんなご立派な人間じゃないから。
人と人を比べることが出来るのは、きっと神様だけ。
人が人と人を比べて何になるというのだろうか。
「でもね、愛してるのはヒュウガだけだよ。」
たくさんの好きの中でも、より輝いて見えるの。
私の瞳に、貴方の存在だけが。
ヒュウガは数回瞬きを繰り返すと、私をベッドに押し倒した。
「ヒュ、ガ、ンンっ!!」
名前を最後まで呼ぶ時間さえなかった。
私の耳の横にヒュウガの腕が置かれ、唇が重なる。
思い切り舌を吸われ、クチュクチュと唾液が交じり合って口内を荒らされる。
歯列を丁寧になぞられ、キスに溺れそうになる瞬間、舌を絡め取られた。
生ぬるい感覚。
しかしそれは二人の熱い吐息で温かく、熱くなっていく。
キスを施されながら軍服の上着を剥ぎ取られ、スカートを捲りあげられるとブラウス、下着も取り掃われる。
私は抵抗を全くしなかった。
されるがままに、ヒュウガに身を委ねる。
あっさりと脱がされ、私が身に纏っているのは、腰の当たりにグシャグシャと捲り上げられているスカートだけ。
もう身に纏っているといっていいのかさえ妖しい。
ヒュウガはやっと唇を離し、息も絶え絶えになっている私の耳元に唇をくっつけた。
「オレも…今改めて実感した。」
激しい息切れのため、『何を?』と返答は返せなかったけれど、ヒュウガは言葉を紡ぎ続ける。
「愛されてるなって♪」
いつもの声だった。
いつものお馬鹿でおふざけが過ぎるヒュウガの声。
「ぁ、ン…」
ヒュウガの舌先が私の耳の輪郭をなぞる。
それと同時に胸を揉み始めてきた。
ヒュウガの大きな手で形を変えるその胸の突起を摘まれ、たまに爪で引っかかれると、甘い嬌声が上がる。
耳の輪郭をなぞっていただけの舌も、クチュ、と中に入れ込まれてすぐそこで水音が響いた。
まるで胸だけでものすごく濡れてしまったような感覚に陥る。
愛撫するヒュウガの手と舌。
体だけでなく脳までも麻痺していく感覚。
やっと耳からヒュウガの舌が離れたかと思うと、次は鎖骨を舐められた。
リップノイズをわざとたてながら口づけ、そこに赤い痕を残す。
それは次第に下へ下へと降りてきて、胸元にたくさん散りばめたあと、胸の突起を舐めあげる。
それから、腕、手の甲、腹、脇へと思う存分散りばめたかと思うと、ヒュウガは体を起こして足の指先から舐めあげてきた。
何だかくすぐったくて、私は小さく身を捩る。
いつもつけないような場所にまで痕をつけてくるなんて珍しい。
「ヒュウガ、くすぐったい。」
そのくすぐったさに余裕もあったが、足の甲に痕を残したヒュウガはあろうことか私の足を広げて持ち上げ、ふくらはぎにまで唇をくっつけてきた。
自然と秘部が曝け出され、先程まであった余裕が羞恥心で一掃された。
「ちょ、そんなとこまで、いいから…」
つけなくていいと言っているのに、ふくらはぎから太ももまで痕を散りばめられる。
内太ももの際どい部分にまで。
「つけたい気分なの♪」
ホント、嫉妬と独占欲の塊みたいな男だ。
「あだ名たんの白くて柔らかい肌にオレの紅い痕がついていくのって興奮する。」
お願いだから黙って痕をつけて欲しい。
切実な願いを心の中で呟いていると、やっと痕をつけ終わったらしいヒュウガが、私の腕を引っ張って引き起こした。
「今から首筋につけてくから、その間オレの触って?」
さ、触ってって……。
楽しそうな顔しておねだりしないでほしいけれど、たまにはいいか、と流されておく。
「久しぶりだから上手くできないかもよ?」
「いいよ。あだ名たんに触られてるってだけで興奮するから☆」
「やめれ。」
このド変態めが。
私は少し躊躇いながらも、ヒュウガのベルトを緩め取り、チャックを開けた。
この吐息しか聞こえない静寂に近い部屋にこの音は映えた。
まだまだ慣れない手つきでそこまで硬く勃ちあがっていないそれに取り出し、手を這わせる。
ゆるゆると動かし、先の方を親指の腹でグリグリと擦ってやればそれは面白いくらいに硬度を増してきた。
興奮してくれているらしいヒュウガは、たまに喉を鳴らしながら私の首筋に紅い痕を散りばめる。
与えられる快感、与える快感。
二つの快感がじんわりと私の秘部を濡らす。
「ヒュウガ、気持ちい?」
いつもなら挿入されて言われるヒュウガの言葉を、今日は私が先に言ってみた。
「うん。」
以外にもあっさり返答がきたけれど。
私は聞かないで欲しいといつも羞恥に身悶えるというのに。
ちょっと悔しくて、少し強めに握って上下に激しく動かす。
もちろん、たまに先の方を擦るのを忘れずに。
私の首筋にキスマークをつけ終わったのか、ヒュウガは顔が顔を上げてきた。
愛撫している時の顔を何だか気恥ずかしくて見られたくなくて、私はヒュウガの喉仏に齧り付いた。
舌でねっとりと舐めあげ、甘く噛む。
コリコリとする喉仏を舌先で感じると、不思議と高揚感と優越感に浸ることができた。
すでに硬く、太く張り詰めているそれ。
たまに聞こえてくるヒュウガの吐息。
気分を良くした私は、少しヒュウガから離れると、髪を耳にかけてその昂ぶりを口に含んだ。
一度喉の置くまで入れてやり、チュパと唇を離す。
それから裏筋を丁寧に舐め上げてやれば、痛そうなくらいに張り詰めたそれがまた大きさを増した。
一体どこまで大きくなるのかが不思議でたまらない。
「あだ名たん、…咥えて。」
私が手で先の方を愛撫し、舌でねっとりと舐めていると、ヒュウガが少し苦しそうに声を発した。
いつも、『今日はしたくない』と言う私の言うことなど聞かずに事に及んでしまうヒュウガ。
だから今、優位な位置にいる私が素直に言うことを聞くのは癪だったけれど、ここで言うことを聞いておかないと後が怖い。
私はいっぱいいっぱい口を広げ、素直にそれを口に含んだ。
上下に口を動かしていると、先走りの苦い味が口いっぱいに広がる。
何度しても…というか、まだ片手で数えられるほどだけれど、この味には慣れない。
必死に舌と顔を動かしていると、右の横髪が垂れて来た。
邪魔だと思っていると、ヒュウガがそれを私の耳にかけてくれる。
それは私に対する優しさなのか、それとも自分のを咥えている私をしっかりと見たいがタメなのか。
恐らく後者だとわかっていたが、精神安定のために前者だと思うことにしておいた。
少なくとも、今の私も垂れてきた横髪を邪魔だと思うくらいには興奮している。
巧み、とまではいかないのだろうけれど、私なりに必死に舌と口と手を動かして昂ぶりを絶頂へと登らせる。
顎はすでに悲鳴を上げていて、私の唾液なのかヒュウガの体液なのかわからない液体が私の手を滑りやすくしてくれている。
先の方に舌を押し込み、少し強めに吸ってやると、その昂ぶりはビクビクと震えた。
恐らく出るんだろうと思って口を離そうとすると、ヒュウガの手が私の頭を押さえつける。
どうやら飲め、といいたいらしい。
私は少しだけ抵抗をしてみせたが、すぐに大人しくそれをキツく吸った。
「ッ、…」
ヒュウガの熱い吐息と口の中に爆ぜる白濁。
噎せそうになるほどの青臭い匂いと何とも説明し難い味。
口の中から出してしまいたい衝動にかられたが、ヒュウガの手は未だに私の頭を押さえつけているまま。
数回に分けて必死に飲む込むと、ヒュウガは私を解放してくれた。
ヒュウガの萎えたそれを口から離し、上体を起こして文句の一つでも言ってやろうと思ったら、ベッドに押し倒された。
仰向けにされ、ヒュウガと名前を呼ぶことすらさせずに、ヒュウガはまた硬度を増してきているそれを一気に私の中に挿れこんだ。
「ッッぁああああぁあ!」
悲鳴にも似た嬌声が室いっぱいに響く。
ヒュウガは私の最奥まで一度入れ込むと、すぐに律動を始めた。
「ぁ、あ…、ッ、ぁ、やさ、しく…ッ、」
必死に、ヒュウガに手を伸ばすと、その手を掴まれてシーツに縫い付けられるように押さえられた。
その間も激しい律動は止まらない。
「なんで?あだ名たん、激しい方が好きでしょ??」
なんじゃそれは。
そんなこと一言も言ったことはない。
断じてない!
私はさっき素直に従ったのに、ヒュウガはいつもこれだ。
「ッ、ゃ、ぁ…」
でも、この律動が気持ちがいいのは認めざるを得ない。
両膝の裏に手を差し込まれグイッと押されれば、ヒュウガの律動の仕方が変わり、体を折り曲げられた私から秘部が見えるようになった。
生々しく、私の秘部からヒュウガのそれが出し入れしているのを不意に見てしまった私は、恥ずかしくて枕に顔を埋めた。
しかし、それもすぐに取り払われ、律動を見せ付けられる。
そうすると、中がキュッと締まった。
「ッは、喰い千切られそう。」
体中がヒュウガの愛撫を覚えている。
膣が熱い。
体全体も燃えるように。
吐き出す吐息さえも熱くて、額に珠のような汗が浮かんだ。
ヒュウガのを愛撫こそすれど、こうして押し倒されて揺さぶられれば感じることで精一杯になる。
ヒュウガの腰の動きに合わせて自分も腰を振るなんて芸当、私にはレベルもハードルも高い。
与えられる快楽で髪を振り乱し、涙と唾液を零し、淫らに溺れるだけ。
ヒュウガはそれでもいいのだと告げるように、私の目尻に浮かんだ涙も、口の端からだらしなく零れ出る唾液も、全て舐め取ってくれる。
私の勝手な思い込みかもしれないけれど、私はヒュウガの愛撫に救われているのだ。
ヒュウガの愛は粘着質だ。
ねっとりとしているけれど、別に気持ち悪くもないし不快でもない。
むしろ、心地よい。
「あだ名たん、気持ちい?」
行為の最中、ヒュウガは絶対と言っていいほど聞いてくる。
いつもなら数回頷くだけの私も、今日は違った。
「っぁ、ん…すご、く…気持ち、い…」
左手はヒュウガにシーツに押さえつけられているため、私は右手だけをヒュウガのたくましいく筋肉の張っている肩にまわして爪を立てた。
腰を打ち付けるスピードはそのままなのに、今日は絶頂が近い。
私は思い切りヒュウガの肩に爪を食い込ませながら絶頂に達した。
次いでヒュウガの熱も私の中に吐き出される。
水音が止んだ部屋に響くのは二人の荒い吐息。
繋がったまま口づけられればヒュウガのそれが奥に当たり、キュと膣が絞まった。
唇を重ねるというよりはヒュウガの唇が私の唇を食む。
「ちゃんと、キスしたい…」
「オレの飲んでるあだ名たんの口の中苦いんだもん。」
「誰のせいよ、誰の。」
一番苦い思いしたのは私のはず。
私は仕返しとばかりにヒュウガの後頭部に手を回すと、深く口づけてやった。
初めて自分から舌を差し入れ、ヒュウガの舌に己の舌を絡める。
いつもされているように歯列をなぞり、舌を軽く吸うが、イマイチ慣れないためどこがぎこちない。
されるがままだったヒュウガはツと目を細め、やっと舌を絡めてきた。
そうなってしまえば形勢逆転。
ヒュウガの口内にあった私の舌だったが、あっというまに私の口内にヒュウガの舌が入り込んで来た。
流し込まれる唾液を必死に飲み、ヒュウガの熱い舌を感じていると、秘部の中に入りっぱなしのそれが脈打つように大きくなった。
それに反応するかのように私の膣も、またキュとヒュウガのを締め付ける。
ゆっくりと唇が離れると、ヒュウガは繋がったまま器用に私の体を反転させた。
「ぁ、う…」
中を抉られるような感覚に身が震える。
ヒュウガは私の腰を上げて四つん這いにさせると、また律動を始めた。
先程の律動では当たらなかった部分を突かれ、新しい感覚に体が跳ねる。
「ぁ、この…体勢、ヤ、だ…」
「気持ちいいでしょ?」
確かにそうだけれど、何故だか素直に認めたくはなかった。
それに、ヒュウガの顔が見れないのは寂しい。
「ぁ、ン、…やぁ…」
「好き嫌いはダメだよ♪」
まるで『人参嫌い』と駄々をこねる子供に言い聞かせるかのような声色だ。
ヒュウガは私の腰を掴んでいた手を離し、打ち付けられる度に揺れていた私の胸を鷲掴みにしてもみ始めた。
大きな動きの律動はなくなったが、小刻みに揺さぶられて最奥を突かれる。
腰を打ち付けるたびに、先程中で出したヒュウガの精液と私の愛液が交じり合って、粘着質で卑猥な水音を響きだす。
私はそれだけでまた気分が昂ぶった。
私の中に入りきらず零れ落ちるそれは、ヒュウガの精液なのか自分の愛液なのかさえ区別がつかない。
交じり合った互いの体液がシーツにボタボタと落ち、染みを作る。
「毎日もっとセックスしよ☆体中でオレを覚えて。」
この男は、私を殺す気か。
「いつかあだ名たんから誘ってくるまで、たっぷり、オレを教えてあげる♪」
嬉々としているヒュウガは、「早くあだ名たんから誘ってこないかなー☆」と呟いたあと、胸の突起を指で弾いた。
体が跳ねる。
白い背中が反り返り、ヒュウガはそこと項にも紅い痕をつけた。
「オレはもう覚えたよ。あだ名たんの一番感じるトコ♪」
ヒュウガはそう言いながら私の胸から手を離し、またがっしりと腰を掴んだ。
「ココ、でしょ??♪」
小刻みに動いていたそれが急に動きを大きくし、激しく突いてくる。
体を支えていた腕は快楽に溺れ、力なく崩れると、左頬がシーツにくっついた。
体中が熱いからか、そのシーツの冷たさを敏感に感じ取る。
一番感じるところを引っ切り無しに突かれ、私はまた快楽の海に溺れる。
「っゃ、ぁ、ぁ、ぁあ、あぁぁあっ!」
絶頂という名の快楽が押し寄せ、頭が真っ白になった。
「ッ、…」
また中に注ぎ込まれるのがわかる。
どうやら中に欲を放ったようだ。
冷たかったシーツも私の熱を奪い取り、温かくなっていた。
ヒュウガは私の中から引き抜いた。
太ももを何かが伝うのがわかる。
もうその何かを考えるまでもないけれど。
妊娠してくれたらどうしてくれるんだ、と文句の一つでもと思ったけれどやめた。
どうせ「いいよ、産んでくれれば♪」と、ケロッと言うに決まっているし、それ以上に今の私にそんな体力はミジンコ足りとも残っていやしない。
呼吸は未だに落ち着かないし、太ももを伝う熱い欲に違和感を感じるしで、どう動いたらいいのかさえわからない。
このまま横になるのは躊躇われるし、かといってこのままの体勢だとまた突っ込まれても文句は言えない。
いや、言うけど。
「お風呂、入る?」
「うん。」
「一緒に。」
「一人で入ります。」
「連れないなぁ〜。お風呂場で2ラウンドとかどう♪??」
「マジで勘弁して!!」
ホントに私を壊す気ですか?!?!
ヤバイ、何か身の危険を感じる。
私は体を完全にベッドに沈めた。
うつ伏せのままシーツを剥ぎ取って体に巻きつける。
太ももを流れていたそれがベタベタと気持ち悪い。
「孕むまでしよっか♪」
「孕む前に家出してやる。」
「……」
急に黙りこんだヒュウガ。
しかも何故かじーっと見られている。
あんまり見ないで欲しいんですけど、まだ真っ裸ですし…ね。
「あ、あの…ヒュウガ??…ヒュウガさん??」
「その言い方だと、オレの部屋を家だって思ってくれてるんだ??」
無表情で私を見ていたヒュウガだったが、ニンマリと急に笑った。
「自分の部屋じゃなくて、オレの部屋をねぇ〜♪」
「聞き間違いじゃ??」
「オレ、耳だけはいいの☆」
耳『だけ』はって、自慢にもならないですね。
「このまま結婚しちゃおっか〜☆」
「ざけんな。」
「なんで??あだ名たんはオレが好き。オレもあだ名たんが好き。結婚しないで何するの??」
「まだ棺桶に片足突っ込む気にはならないの。」
「オレはいつでもあだ名たんの中に入る気満々なんだけど。」
「下ネタやめて。」
でも、まぁ…
「いつかは、ね。」
「えぇ?!セックスを『いつかは』なんて待てないよ!」
馬鹿、そっちじゃないわよ。
「あーあ、まさかヒュウガを好きになるなんてなぁー」
「体から始まる恋愛ってのもオレはアリだと思うけど?」
「……そ、そんなふしだらな子じゃなかったのに〜!!!アリかもって思っちゃったじゃんー!!」
「ってことは、」
「いや、やっぱアリだとは思わないけど……。すき。」
小さい声ながらも、しっかりとそういうと、ヒュウガはシーツを巻いている私をそのまま抱き上げた。
世の中で言うお姫様抱っこという抱え方で。
「オレも好き。だから元気になったオレの責任、ちゃんと取ってね、シーツのお姫様☆」
「は??は?…ゃ、も…無理だってばぁあぁぁぁ!!」
叫ぶ元気がまだあるなら大丈夫大丈夫♪と、ヒュウガは本当にお風呂まで私の体を隅々まで愛した。
「あり??」
手元にはグッタリとしている名前。
「さすがにヤりすぎたかな…」
シャワーの流れる音と、肩を上下したまま気を失っている名前の荒い呼吸。
そんな名前を見ていると、先程出したばかりだというのにも関わらず、ヒュウガはまた自分が昂ぶっていくのを感じた。
名前は感じることに精一杯だ。
中に挿れた時のあの快楽に溺れそうで痛がっている顔がたまらない。
名前に言ったら絶対に「ド変態!ドS!!」と言われそうなので黙っておく。
オレから言わせたらむしろその言葉は褒め言葉なのだが、名前が拗ねるのは目に見えている。
…だけど拗ねた名前の顔も可愛いので、やっぱり起きたら言ってあげよう。
ヒュウガはそう心の中の自分に誓って、自分の腕の中でグッタリとしている名前を抱えた。
軽くバスタオルで拭いてやり、裸のままベッドに寝かせ…ようとしたが、そこはシーツは剥ぎ取られているわ、枕はすっちゃかめっちゃか。
とりあえずソファに名前を置き、適当に新しいシーツを敷いて、枕も定位置へ。
それからまたそっと名前を抱き上げてベッドに寝かせる。
身じろぎはするものの、疲れきっているのか一向に目を覚ますような気配はない。
その名前の肌には紅い紅いオレの痕。
名前は抱けば抱くほどオレ色になっていく。
ヒュウガは名前に掛け布を掛けてやりながら、そっと首筋にもう一つキスマークを仕上げとばかりに残した。
真っ赤な、ヒュウガの色を。
一眠りしたら名前は起きるだろう。
仕事中だったぁあぁぁ!!と。
今はすっかり忘れているようだけれど。
でももう全て遅い。
今はまだ夕方だけれど、起きたらまだ夜中だろうか、朝だろうか。
なんて考えたけれど実際どちらでも構わない。
時間なんて関係ない。
最初からそのつもりだからシーツは適当に敷いただけ。
起きたらまた愛し合おう。
それはもう、たっぷりと。
いままでと変わらないくらい、性質の悪い粘着質な愛情と愛情表現を、君だけに。
END
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