05
「いたたた…」
「どうしたんですか?少佐。背中に怪我でも?」
目の前で繰り広げられている光景に私は目を覆いたくなった。
「ちょっと猫に引っかかれちゃって。」
「…猫、ですか。」
「うん。すっごく可愛い猫で、」
バンッと私が机を叩くと会話がピタリと止んだ。
「…名前さん?」
コナツさんが訝しげな目でこちらを見てくるので、私はニッコリと微笑んだ。
「ちょっと机に蝿がいたみたいで。しつこくて目障りな蝿だったんですけど…殺りそこねてしまいました。お騒がせしました。」
ヒュウガは一人でニマニマと笑っている。
それが悔しくて悔しくて。
ホント、目障りな蝿だこと。
私は気を取り直して書類と向き合った。
しかし、ふと気を緩めると思い浮かぶのは昨晩の情事。
自分のものとは思えないくらいの甘く甲高い声に、ヒュウガの愛撫。
私は微かに重く痛む下腹部に手を添えた。
最後までしてしまったのだ。
付き合ってもいないのに…。
そこに愛なんてない。
大人の駆け引きさえ存在しない。
でも、結果的に私は流されてしまったのだ。
座っているのも億劫なほど痛む腰がそれを物語っている。
しかし、『初めて』を捧げたのだ、これでもう目障りな蝿、いや、ヒュウガは私に関わってくるまい。
シーツに鮮やかに残っていた赤を思い出してため息。
せっかく洗って干したばっかりなのに…。
この重たい体で今朝から洗って干すのにはとても体力が要った。
情事が終わった後、ヒュウガはぐったりとしている私の体を清めると、ご馳走様♪と私の横で眠った。
てっきり自室に戻るものだと思っていたから拍子抜けだ。
追い出す気力さえ残っていない私は、そのまま眠ってしまったのだが…。
今晩はゆっくりと寝よう。
もう眠たい。
落ちてゆく瞼。
落ちてゆく頭。
あ…寝る…。
そう思った瞬間、アヤナミ様に呼び起こされた。
「名前、書類を増やしてほしいのなら言えば増やしてやる。」
「いえ!ケッコウデス!!」
これ以上増えたら今日ゆっくり眠れなくなってしまう。
睡眠時間が削られるのだけは勘弁だ。
しかし次の瞬間には私は夢の中で、起きて気がつけば大量の書類が机に乗っていた。
「ふぁ…」
服を脱ぎながら大きな欠伸をする。
結局あの膨大の書類を処理し、提出したらこんな夜中になってしまった。
たった5分の睡眠が3時間残業に化けたのだからもう体力はない。
さっさとシャワーを浴びて寝よう。と最後の残りカスにも近い体力をかき集めて、浴室の扉を開けた。
キュと蛇口を捻って温いお湯を浴槽に溜め始める。
浸からないと体の疲れは落ちないものだ。
その間に髪の毛を洗い、次に体を洗っていると浴室の扉が開いた。
「…」
もう2度目は驚かない。
かなり驚いているけれど、表情には出さない。
だってそれは彼を喜ばせるものの一つにしかならないのだから。
「何、してるわけ。」
「洗って?♪」
意味の分からないことを言うヒュウガに向かって、私はシャワーから冷水を出した。
「わっ!あだ名たん冷たい!」
「頭冷えたら出て行って。」
温めに温度を切り替えて、次は私の体を流す。
「出て行かないのなら私が出て行きます。朝までごゆっくり。」
「出て行ったらこの場で犯す、よ☆」
なんって脅しだ。
「もう『初めて』はあげたでしょ。約束は無効。それとも処女以外にも興味あるわけ?」
私はてっきり、処女奪いたがってる変態だと思ってた。
「別に処女に興味があったわけじゃないよ??あだ名たんに興味があっただけ♪」
「とんだ変わり者ね。」
「あだ名たんだって相当だよ?だっておなか空いたって言うオレにアメくれたのあだ名たんが始めてなんだから。いつも皆最初は嫌がるけどあとは悦んでくれるのに。」
最後まで抵抗したのは君だけ☆と浴室に入ってくるヒュウガ。
「あだ名たんといるとすごく面白い。アヤたんと仲良しなのはムカつくけど。」
「…褒めてんの、貶してんの?」
どうやら本当に洗ってほしいらしく、椅子にちんまりと座ったヒュウガ。
腰にタオルを巻いてくれてはいるけれど、目のやり場に困る。
「どっちでもないよ。ただあだ名たんのこと好きだよって言ってるの。」
……
「ごめん、無理。」
「えぇ?!」
「当たり前でしょ?!普通こんな変態で女たらし、彼氏にしないし!!」
「もう他の女の子にフラフラしない!これからはあだ名たんだけに変態になるから!」
「何も根本的に変わってないよ?!」
アホだ!
こいつアホだ!!
「…好きになってくれるのはありがたいけど、好みじゃないし。」
私は仕方なしにその髪の毛を濡らすと、シャンプーで髪の毛を洗い始めた。
「好みはアヤたんみたいな人?」
「まぁ。」
「じゃぁオレ今度からアヤたんみたいな男になるよ。」
「無理だろ。絶対無理だろ。」
バカだ!
こいつバカだ!!
「ヒュウガはヒュウガのままでいいから。」
今更変わったら逆に気持ち悪いから。
「…やっぱりあだ名たん好き。」
「あーハイハイ。痒いところは?」
どうしよう、ヘンなのに懐かれてしまった。
「あ、もうちょっと右。んで耳の裏もしっかりと洗ってね。」
注文が多いヤツ…。
「流すから目、瞑って。」
シャワーを出して、彼の髪を流し始めた。
よし、これを流し終わったら逃げよう。
ここから即効逃げよう。
「はい、終わり。体は自分でしてね。じゃ。」
シャワーを止めて浴室の扉に手をかけた途端、腕を引っ張られた。
遅かったか、と振り向くと、ツルンとヒュウガの上にこけた。
「いった…。ごめん、だいじょ、」
「いやん、あだ名たんのエッチ☆」
なんて最悪最低なハプニングだ。
私はヒュウガに跨る形で乗っていたが、その状態に気付くと即座に退けた。
「そのまま押し倒してくれてもいいのに♪」
「絶対ヤダ!私眠いの。体だってダルイし…。」
「無理させすぎちゃった?ゆっくり浸かって体休めたほうがいいよ!」
急に抱き上げられて浴槽に入れられた。
次いでヒュウガもこの中に入ってくる。
ザバッとお湯が溢れた。
「ちょっと…狭いんだけど。近寄んないで」
足でヒュウガの足を押す。
この距離は無理だ。
平然とした顔をしているけれど内心はそうじゃない。
心の中の小人が顔を赤くしてわぁわぁと騒いでいる。
とりあえず後ろを向く。
何故恋人でもない二人がこうして同じ浴槽に入っているのかが不思議だ。
「あだ名たん、お湯ぬるい。」
「勝手に入ってきておいて文句いわないで!」
「…まいっか♪これくらいのほうがのぼせないで済むよね。」
スルリとわき腹をヒュウガの腕が撫でた。
「…こ、ここでするとか言わないでよね?もうしないからね?」
「でもオレはシたい気分だから。」
なんで私がヒュウガの気分に合わせないといけないのよ?!
ヒュウガは私の腰を引き寄せて、後ろから抱きしめた。
腰あたりにあたっているものが、元よりそんなに高くはなかった私のテンションをさらにガタ落ちさせる。
「なんでもう、勃ってんのよ…。」
「あだ名たんの裸みたら欲情しちゃって☆あだ名たんだってしてるでしょ?」
「してない!」
ヒュウガは私の首筋を舐めながら前に手を回し、左手は胸を、右手は秘部を弄びはじめた。
「も、ダメだって!付き合ってもないのに、こんなこと出来ないからっ、」
暴れればバシャバシャとお湯が跳ねる。
しかし秘部の中でヒュウガの指が動き回っているせいで、足に力が入らず立ち上がれない。
「ほら、あだ名たんも欲情してるよ?すごく濡れてる。」
「お湯でしょ!!」
中をかき回されればお湯が中に入ってくる。
何ともいえないそれに、私は自分の吐息が少しずつ熱くなっていくのを感じた。
流されちゃダメだ…。
ダメだ…。
でも、流されてしまっている自分がいる。
ヒュウガは秘部から指を引き抜くと、私の腰を持ち上げた。
お湯のおかげで、ほとんど力を使わずに軽がると持ち上げられてしまった。
「ま、待ってヒュウガ!」
「大丈夫、お湯が滑りは助けてくれるよ♪」
そういうことじゃなくって!!
話の噛み合わない二人。
私が手を離してもらおうと、私の腰を掴んでいるヒュウガの手に触れると、それは急に下へと下ろされた。
「っぁ!ン…っは…」
昨晩とは違って、一気に奥まで挿れられた。
まだ一度しか受け入れたことのないそこだけれど、お湯が滑りを良くしてくれているのか、それほど痛みは感じなかったが、痛いものは痛い。
しかし、最初から甘い感覚も確かに感じていた。
まるで昨夜のヒュウガの愛撫を体が覚えているかのように。
腰を持ち上げられては下ろされ、そしてたまに抉るように中をかき回される。
「気持ちよさそうだね。」
「っは、ッ、そ、んなこと…な…ぁ、あっ、」
首を振り、そんなことないと言ってみせるが体は正直だ。
中は蠢き、ヒュウガのそれを締め付ける。
ふと下腹部に手を当てると、確かに中で動くヒュウガを肉壁一枚越しに感じた。
「あーヤバイ、そろそろ出そう…。」
このままの体勢だと中に出してしまいそうだと、ヒュウガは一人ごちて、私の腰に腕を回すなり立ち上がった。
中にはまだヒュウガ自身が入ったままなのでその振動さえも快楽の一つとなる。
何をするのかと思えば、ヒュウガは私の両手を浴槽の淵につかせると、立ったまま後ろから突きはじめた。
「ひゃ、ぁ!ぁ、ッ、ぁあ、ッ、」
膝がガクガクと震えるが、腰をしっかりと掴まれているため、崩れ落ちることはない。
最奥まで突けるこの体勢で、肌のぶつかる音と秘部から卑猥な水音が、よく響くこの浴室に木霊する。
本当に私達が出している音なのかと、耳を疑いたくなるほどの際どい水音だ。
ヒュウガもそろそろ限界なのか、肌を打ち付けるスピードを速めて私を貫く。
「ッ、は…ァ…ぁ、ン…ん、ぁ、あ、ァ…ぁ、ああっ!!」
絶頂を迎え一際甲高い嬌声が響くと中からヒュウガ自身が引き抜かれ、崩れ落ちながらも白く撓っている私の背中にその欲を出した。
「っは…ッ…」
荒い息を整えていると、ヒュウガの人差し指が私の内太ももに触れた。
「見て、あだ名たん。」
何?としゃべることも億劫で、視線だけをそちらに向けると白濁としたものが私の内太ももを伝っていた。
「気持ちよくないとかいいながらいっぱい溢れてきてるよ?」
ヒュウガの欲はすべて私の背中へと出されたようだ。
つまり、この太ももを伝っている欲はすべて私の愛液ということになる。
すべてを見透かされたような気分になった私は、顔を真っ赤にして、愛液を洗い流すためにシャワーの蛇口に手をかけたが、その前にヒュウガの舌がその太ももの愛液を舐め取った。
舌を這わせている馬鹿の頭を冷やすために、ありえない!と、蛇口を捻って冷水をかけてやった。
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