03




私は目の前の光景に絶句した。


「私の、部屋が、ない!?」


え、第3話目にしてやっと回想みたいなのが終わって今から本編始まると思っていたのに、…げふんげふん、じゃなくて、シキと入れ替わりでやっと睡眠が取れると自室に帰ってきてみたら部屋の前に軍人が2人立っていて「申し訳ありませんが参謀長官の命により誰も入れることはできません」なんて冗談にもならないことを言われたのだ。

体はヘトヘト、脳みそだって眠たくて働いていなかったのに、この出来事で気持ち悪いくらいハッキリとしてきたじゃないか。


「イヤイヤ、私の部屋がないってどういうことよ。」

「ですから、先程も申し上げましたように、参謀長官の命で名前様の部屋はありません。」

「いや、あるよ!目の前に!」

「ですから!もうこのお部屋は名前様のお部屋ではないということです。」


…いや、ちょっと待ってよ。
じゃぁ私の部屋はどこにあるってのさ。

研究室で寝泊り?!?!
冗談じゃない。

確かにあそこには仮眠室もあるし、ついた薬剤を流すためにシャワー室だってある。
けど、何が悲しくてあんな狭汚い仮眠室で寝ないといけないのか。
休まるものも休まるわけがない。


なのに見張りは「詳しくは参謀までお尋ねください。」と言うだけで話は一向に進まない。


「投げやりだな!」


こうなったらアヤナミ参謀に直訴してやる!と意気込んだのがいいものの、通路の窓から朝日が入り込んできて私は眩暈さえ感じた。
徹夜明けの朝日は殺傷能力が高すぎる。

ずかずかと大股で参謀長官の自室へと歩みを進める。
まだ朝ということは参謀も起きたばかりだろうが、構うものか。

ドンドンドンドン!!と嫌味を込めて扉を精一杯叩く。
近隣住民にも朝から迷惑極まりない行為だが、私だって迷惑を今絶賛被っているのだからお互い様だ。


「名前です!至急お話ししたいことが!」


というか、文句を言いたい事が!と内心思いながら尚も叩くと、ガチャリと扉が開いた。


「ぅぁ…」


バスローブをお召しの参謀長官の胸元が肌蹴ている。
朝だというのになんだこの色気は!
ケッ、美形は得だな!!

ついつい照れとビックリしたので、内心では悪態をつきながらも一歩引いてしまった。


「なんだ。」


くはー!!
朝特有の低い声が妙に色っぽい!

寝不足にも関わらず朝から美形アンテナが立ってるよ私!

収まれー収まれ私のアンテナ〜。
収まりたまえ〜。


「あ、あのっ、貴方の命令で私の部屋がないって言われたんですけど。」

「あぁ、そうだったな。入れ。」


ドアを更に開けられて中へと促された。
話をするつもりなのだろう、と勝手に解釈して入る。


「一番奥の部屋が空いている。そこを適当に使え。シャワーもリビングもキッチンも、私の寝室以外なら好きに使っていい。それから食事は各自、」

「待て。」


何だこの会話。
動揺しすぎてついついタメ口で呟いてしまったじゃないか。

参謀長官様様にタメ口なんて恐れ多いことはわかっているけれど、私のこの動揺を知って、どうかお怒りはご配慮願いたい。


「あの…その言葉だと、私がここに住むみたいな…」

「そうだが?」

「あ、やっぱりですか?ですよねー。」


あはは、ははは…………
はは、…
は、は………


「部屋、返してください。」

「却下だ。」


なんでじゃぁあぁぁぁ!!


「私の部屋がなくなった理由をお聞かせください。でないと納得いかないったらないですよ!」

「貴様が本当にジュード=マーカスと繋がりがないかわからないからな。仕事の時以外、しばらくは私が監視することになっている。外出は禁止、以上だ。」


話は終わったとばかりに踵を返したアヤナミ参謀。

寝不足の頭では理解するのに時間がかかっているのか、それともあまりにも嫌な現実から目を逸らしたいのか、頭が働かないにも関わらず、気がつけば彼のバスローブを掴んでいた。


「冗談じゃないんですけど。」


出てきた言葉はそれだけだった。

アヤナミ参謀は歩みを止めたあげく、目を細めて見下ろしてくる。
半端なく怖いが私の自由のためだ、我慢するしかない。


「冗談ではないが?」

「どうして貴方の部屋なんですか?外出禁止にさせるくらいなら、私の自室に軍人を2人ほど監視につけるくらいでいいじゃないですか。何なら盗聴器でも発信機でも付けられてかまいませんよ。私は隠れもしませんし逃げもしません。疚しいことは何一つない。」


キッパリと言い切ると、アヤナミ参謀はしばらく黙った後に、ゆっくりとため息を吐いた。


「そうだろうな。お前は疚しいことなどしていないだろう。それはお前の性格を知っていれば誰だってわかることだ。」

「その言い方、私の性格を知ってるって感じに聞こえますよ。」

「あぁ、知っている。」


するり、と頬にアヤナミ参謀の手が触れた。
ピシ、と石化したように固まる私は、また美形に弄ばれているのだろうか。


「お前のことは前から気にして見ていたからな。上層部にはお前がジュードのスパイだと思っている人間もいる。ならば私がお前を側に置いて監視しておいたほうが、お前的にも都合がいいのではないか?」

「貴方の…メリットは?」


震える唇で言うと、アヤナミ参謀は喉の奥で怪しく笑った。


「側に置いておけばじっくりとお前を口説けるというものだ。」


モテ期か?!?!
何だモテ期か?!?!?

アヤナミ参謀から??

いやいや、それこそ弄ばれているに違いない。

傷心中だからって、もうコロッといったりしないんだから。
もう美形なんて好きにならないって決めたんだから。

こんな美形の代表みたいな美形、冗談じゃない!


なのに、何も返事を返す事ができなかった私って一体…。



もぞり、と用意されていた奥の部屋のベッドで寝返りを打つ。

部屋には私の部屋にあった家具や小物がきちんと置いてあって、この部屋だけ見ると私の部屋に戻ってきたのだと錯覚するほどだ。
この部屋だけ見ると、だけど。

アヤナミ参謀はあれからすぐに仕事だからと何気ない顔で部屋を出て行った。

あれは世に言う告白に近いものではないのか??
なのに平然とした顔で…ぅあ、くそ、何か悔しいぞ。

収まれ私の美形アンテナ!


『お前のことは気にして見ていたからな。』って何だ、とんだストーカー発言だよっ!
なのに何トキめいてんだ私!
口説かれて絆されてどうするってんだよ!

眠れない!
眠れない!
全然眠れない!!

触れられた頬にまだあのアヤナミ参謀の手の感触がしていて、緊張とかわけわからない感情がゴチャゴチャとしていて、眠たいのに眠れない。


そうだ、羊を数えて…って、


「眠れるかー!!!」


何なんだあの男は!

傷心中の女弄んで楽しいのか?!?!
もういい、知らん。
考えるだけ無駄だ。

だって私はもう美形を好きにはならないって決めたんだから。
見た目だけに騙されたりしないんだから。


私はヘッドボードに置いていたミネラルウォータと、引き出しに入れていた睡眠導入剤を飲んで布団の中に潜り込んだ。

私は今こんな感情に振り回されている暇なんてない。
そうだ!目が覚めたら美形アンテナが折れていることを願おうじゃないか。


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