07




馬鹿ップル。ってやっぱりどこにでもいるんだなぁと、しみじみ思ってしまった。


たまたまヒュウガ少佐の自室の前を通りかかったらナイスタイミングでシキが出てきた。…と思ったら『歩けないなら抱っこして送ってあげよっか?』『いらんですっ!!!』という2人の会話。


「いいわねぇ、朝から元気で。」


扉を閉めたシキの背後から若干ニマニマとしながら声をかけると、シキは驚いて振り向き、すぐに顔を赤くした。

今の会話を聞かれたことが恥ずかしかったようだ。
うんうん、かわいいなぁ。


「えっと、…その、今からお休みですか??」


窓の外を見ながらいかにも『朝ですよ??』と言いたげなシキに頷いて、前髪をかきあげた。
何か動いていないと今にでも眠ってしまいそうだ。


「そうよ。……シキ、貴女あまり寝てないって顔してる。」

「えっ。」

「若いっていいわねぇ。」


睡眠よりも情事に励むなんて若い時にしかできないったら。
今のうちにたっぷりやっておきなさい、とまでは無粋なので言わないけれど心の中で呟いておく。


「名前さんも全然お若いですよ。」

「ダメ。私はもうダメ。寝ないとやってらんない。じゃ、今日は後よろしく。寝る。」

「わかりました。って、名前さんの部屋そっちじゃないですよ?!?!」

「んーん。こっちで合ってるの。今アヤナミさんのとこに住み着いててね…。」

「…はい?え?どうしてです…??」

「まだ私が犯人と繋がってないかハッキリしてないからハッキリするまで監視下に置くってさ。」


だからってなんで私が遠い部屋に行かないといけないのよ。とブツブツ文句を呟きながらシキと分かれてアヤナミさんの自室へ向かう。

あまり気にしていなかったけれど、寝不足でフラフラの足腰や脳には正直堪える。


「ただいま…です。」


部屋の扉を開けて入るなりソファに寝転がった。
いつもならここでビールの1缶や2缶は空けるけれど今日はそんな元気もない。

それに後少しで新薬が出来上がるのだ。
きっと私が寝て起きた頃にはシキが終わらせてくれていると思うから、祝杯はそれからでも遅くはないだろう。


「そんなところで寝ると風邪ひくぞ。」


同じソファでコーヒーを飲んでいるアヤナミさんに前髪を指で梳かれる。


「んー、そーですね。」


今ならコーヒーを10杯飲もうと100杯飲もうと一瞬にして寝れる自信がある。


「風呂に入れ。」

「あーそれは研究室のとこで入ってきました。ここに帰ってきたら入る前に死ぬと思って。」


電気の光と朝日が眩しくて右腕を両目の上に乗せると、その腕を掴まれて覗き込まれた。
うぁ…アヤナミさんの髪が光ってて綺麗だけど眩しい。


「ここで寝る体制になるなと言っているだろうが。」

「んー…。」


返事をしつつも呼吸が深くなってきている私に気付いたのか、アヤナミさんは小さくため息を吐いて私を抱え上げた。

横抱きにされて少し驚いたけれど、すぐにアヤナミさんの首に腕を回して、その首筋に顔を埋めると彼の香りがしてすごく落ち着いた。

っていうかこの人男の人なのになんで汗臭くないんだろう…。
そりゃぁアヤナミさんが汗臭いとか全く想像すらできないけど、ちょっといい香りすぎやしないだろうか。


「私も香水つけよっかな…」

「やけに大きな寝言だな。」

「まだ寝てないですもん。」


自分のベッドに下ろされながら掠めるように彼の頬にキスをした。
それに応えるかのように、今度は彼から私の唇にキスが落とされる。

寝不足で疲れている体には啄ばむようなキスでさえもすぐに息が切れた。
心は癒されていく感じがするけれど…なんて、恥ずかしくて言えやしない。


「香水などつけずとも良いだろう?そんなものつけたら私の香りがつきにくくなる。」

「すっごい独占欲。」


小さく笑えば、今度は頬にキスが落ちた。


「名前相手に余裕などないのでな。」

「…余裕、欲しいですか?」


上半身だけ起こし、彼の手を取って頬に当てる。
するとじんわりと体温を感じた。


「くれるというのなら。」

「たくさんあげますよ。実は溢れそうなんです。アヤナミさんのこと好きって気持ち…。」


私ってば疲れてるな…。
何だか恥ずかしい言葉もスラスラと言えてしまう。
感覚が麻痺してるみたい。

だけど決して嘘ではなく、私は今、素直な気持ちを口にしている。


「好きですよ、アヤナミさん。」

「顔だけでなく?」

「はい。」


気だるい体に鞭を打って必死に上半身を起こしたばかりだというのに、押し倒されてキツク抱きしめられた。

アヤナミさんは何も言わない。
私も何も言わない。

この静寂がアヤナミさんの気持ちのようにも感じ取れた。

切なくて、穏やかで、だけど重なっている胸からは高鳴っている心臓が伝わってくる。
うるさいくらいの私の心音も彼に伝わっているのだろうか。
伝わっているといいけれど。


「まさかこのタイミングで急に言われるとは思ってもいなかったな。」

「あら、それが急ではないんですよ、私の中では。」


アヤナミ参謀からアヤナミさんへと呼び名を変えたその日から、私の中で気持ちの整理はできていた。
ただ、今更なんていったらいいのかわからなかっただけで。

でも新薬の研究を一人でしていて思ったんだ。
シキはいつも前に進もうとして、この新薬作りに一生懸命になっている。

感化されたといったら恐らくそうなのかもしれない。
だけど私も少し前に進んでみようと思ったんだ。

シキはアリスや新薬のために進んでいて進む道はちがうけれど、私は私自身のために、そして想い人のために進もうと思った。

もちろん、研究の方も負けるつもりは全くないけれど。
今頃は研究室で私の研究の進み具合にビックリしている頃かしら。


「今回やっと学んだんですよ、私。人間って第一印象が優しくて気さくな人でも、側にいればいるほど素が見えてきたり見たくない部分が見えたりして、がっかりしたり、好きじゃなくなったりするんですよね。」


よく考えてみたら付き合う前は優しかったのに、付き合ってからは暴力を振るうとか、よく聞く話じゃないか。


「逆に第一印象が悪くても実は優しかったりする人だって存在するわけで。どちらが真実なのかはやっぱり側にいてみなくちゃわからない…。なのに私はアヤナミさんのこと好みだったのに苦手だと逃げてばかりで何も始まってはいなくて。アヤナミさん、少し強引でしたけど、結果オーライってことで。」

「随分と待ったがな。しかし強引なのは仕方がないことだろう??恋と愛は違うものだと私は思っているからな。言ってしまえば恋は一方的なものだが、愛はお互いに与え合うものだ。色んなところを知って、受け入れて、それでこそ愛だと思うがな。暴力などはまた別の話だが。」

「…参謀長官も恋愛の話とかするんですね。」

「貴様が話を振るからだろうが。」


いやぁ意外だったわ。
でも…うん、いいね。
知って、受け入れて、与え合うのが愛、か。


「って、何してんですか。」


服の裾からアヤナミさんの手が入ってきている。
それはツッコミを入れても止まることなくブラの上から胸を揉みしだく。


「仮である恋人同士の時はキスまでと言われていたが今は違うだろう??」

「いや、あのですね、確かにいいましたし、今までよくアヤナミさん我慢したなーって思いますけど、いきなりすぎやしませんか?!」


疑問符を投げかけておきながら、私は必死にアヤナミさんの腕を掴んで止めるが一向に愛撫は止まらない。

首筋を舐められると、その部分がひやりと空気が冷たく感じた。


「恋人を求めて何が悪い。」

「そりゃそうですけど、っ、ン…」


なんだかんだと流されている自分がいる。


もしかしたら、最初からアヤナミさんのこと好きだったのかもしれない。
自分の気持ちに嘘をついていただけで。


秘部にそっと彼の指が触れて、じっくりと中も愛撫される。
水音が響き始めると、私はハッとしたように行為に夢中になっているアヤナミさんの肩を叩いた。


「アヤナミさん、仕事!仕事はっ、ぁ、ッ、ん!」


『夜に出る事になっている』と秘部のところで返事をされて息がかかり、吐息がもれた。


「そこで、しゃべら、な、で…」

「わかったから大人しくしていろ。」

「っ、んん…だから、話さないで、って…」


ただでさえ上手いんだから、とまでは言わなかった。

初めてというわけでもなかったけれど久しぶりなわけで、アヤナミさん自身が入ってくることには耐え切れずに涙が零れた。

その時にはすでに2人とも生まれたときと同じように素肌を晒していた。
服は床に脱ぎ散らかしている。


「っ、ん、ぁ、あっ、ぁ、」


ゆっくりとした律動は的確に私のいいところを探し当て、そこばかりをついてくる。
私の体力が底をつきかけているのをわかっているのか、あまり激しくはしてこない。
だが激しくしなくても十分に快感に溺れることができて、私はアヤナミさんの背中に腕を回して爪を立てた。


「ずっと、名前と繋がってみたかった。」


耳元で囁くように吐息交じりに言われた言葉が嬉しくて、私は余裕がないにも関わらず薄く微笑んでみせた。


「っ、ん、感想は?」

「これほどまでに穏やかな気持ちになれたことはない。なのに…何かがくすぶっているような激しい感覚さえ感じる。矛盾だな。」

「ん、でも、だいじょ…ぶ、私も、だからっ、同じ、ぁっ、ッ。」

「本当にお前を愛しいと思うよ、名前。」


切実に囁かれた言葉が聞こえたかと思った途端、律動が早まってお互いに絶頂を迎えた。

体力が底をついた私は達した瞬間、気を失うように眠ったけれど。



なんだこれは、十分私達もバカップルじゃないか。


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