アリスと鬼



「ここ、誰の部屋?」

「私の部屋だ。」

「へぇ〜…………で?」


なんで私まで連れて来られてるわけ?


「アヤナミの私室に用なんてないんだけど。」

「ほう。貴様は廊下で寝たいらしいな。」

「なんでそうなるわけ?!」

「これからここがお前の部屋にもなるというわけだ。」


………


「帰る!!!」


踵を返してドアノブに手をかけようとしたが、後ろから猫のように首を持たれて部屋の中心へと引きずられた。


「男の人と二人きりなんて無理!ダメ!」

「貴様相手にヘンな気など起こさぬ。」

「なぬっ?!それもそれでムカつくな!」

「どっちだ。出してほしいなら出してやらぬこともない。」

「やっぱ帰るー!!」


人間って、人間って、ヘン!!


「そんなにバラされたいのか?」

「う…ぅ……」


部屋の隅に丸くなって縮まると、盛大にため息を吐かれた。


「なんでアヤナミがため息吐くわけっ?!私が吐きたい!むしろ泣きたい!」


これだから人間は!!


「そんなところにいると風邪をひくぞ。」

「ひかないもんっ。」

「なるほど、馬鹿なのだな。」

「違うよっ!!」


何この人!
口で勝てないんだけど!!

私は渋々立ち上がり、ふわりと浮くとソファの上に座った。


「お茶も出さんのかこの部屋の主はー!!」

「私は貴様の主でもあるのだ。ふざけるな。飲みたいのなら自分で淹れろ。」

「私お茶なんか淹れられないし!」


指をパチンと鳴らし、魔法でコーヒーを一つ目の前に出した。
うん、良い香り。


「魔法ばかりに頼っているようでは脳も退化するわけだな。」

「どういう意味だコラ。」


人間なんかに言われたくない!


「もう…なんでこんなことに…。」


おばあちゃんのお見舞いに行く途中だったのにさ。


「空から落ちて、まるで別世界に来たみたいだよ。」


知らない人間たちに知らない建物…。
怖い。


「アリスか。」

「ホント、アリスになったみたい。」

「魔法使いではなかったのか?」

「そうだよ!魔法使いだけど気分はアリスだよ!」


別にウサギさん追いかけたわけじゃないんだけど。
むしろ交通事故にあったんだけど。
ブツブツ文句を言っていると、飲みかけのコーヒーを奪われた上に飲み干された。


「あぁ!私のコーヒー!」

「味は普通だな。」

「人の飲んでそれかっ!」


人間って失礼だ!


「これだから人間は!」

「名前の年齢は?」

「話変えるな急に!これだから人間は。」

「何歳まで生きられるんだ?」

「普通に人間と一緒!魔法使いだからって何百年も生きられるわけないし!人間ってこれだからヤだ。ヘンな先入観っていうの?これだから人間は。」

「それは口癖か?」

「何が?」

「…無意識か。」


フッと鼻で笑われた。
ムカつく!これだから人間は!


「これだから人間は!」

「それだ。」


小さく首を傾げる。
もしかして、『これだから人間は』のことを言っているのだろうか。
確かに良く言うけど…、それが?


「その言葉は人を蔑んで自分が上だと、自分に再確認させて安心している言葉だな。」

「…ひどい言われようなんだけど。」

「何をそんなに恐れている。」

「…人間のくせに!」


私は横にあったクッションを思い切りアヤナミに投げつけた。


「人間は…、自分達にない力を持っているやつを怖がる!その怖さを隠すために争いを起こして私達を殺そうとする。怖いから殺して、安心して、殺された魔法使いが可愛そうだ!」


確かに私達は魔法が使える。
だから何??
確かに魔法使いにも悪い人はいる。
でも、そんなの人間にもいるじゃない。
いい人も悪い人もいるじゃない。


「魔法使いは何百年も前に絶えたと文献で読んだが…、」

「人間が勝手に起こした争いでね。」


私達種族は強いけど争い事は嫌いなのに。


「おかげで少ししか生き残ってない。」

「…そうか。」





「それだけ?」


私あれだけ熱く語ったのにアヤナミはそれだけ??


「他に何の言葉が欲しい。」

「…別に欲しいわけじゃないけど。」

「過去のことを今更どうこう言うのは好きではない。もう変わらぬ過去だ。あとは退化し、美化するためだけにある。」

「美化…」

「もし変わるというのなら、貴様のその考えだけだな。」

「私の…?」


そんなの…、変わるわけない。


「もう夜も遅い。寝るぞ。」

「私ベッド。アヤナミソファね。」

「ふざけるな貴様。主にソファで寝ろとは図々しいにもほどがある。」


アヤナミは一人、先にベッドに入り込んだ。


「人間のくせに生意気!人間はソファで十分よ!」

「貴様がソファで寝ろ。それが嫌なら黙って来い。」


アヤナミは掛け布を捲り、私に横で眠るように催促した。


「じょ、冗談にゃじゃい!」


ぎゃ、噛んだ!


「ならソファで寝るんだな。何なら床も許可してやろう。」

「そんな許可いらない!」


アヤナミは電気を消すと、私を残して一人眠る体勢に入りやがった。


「……アヤナミ。」

「…。」

「………アヤナミ。まだ寝てないでしょ、無視しないで。」

「……」

「アヤナミってば。」

「…」

「アヤナミ……」


屈辱!
なんで私がソファで寝ないといけないわけ?
そんなの絶対嫌!

私はふわりと浮いてそっとベッドに潜り込んだ。

この人間、鬼よ!
ムカつく!
内心悪態つきながら、私はゆっくりと目を閉じた。
アヤナミが小さく笑ったことなど知りもせずに。



猛獣使い?
いえ、この男はただの鬼畜な鬼でございます。


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