ピーターパンと大魔王
りんごが好き。
サンふじ、ジョナゴールド、王林、つがる、陸奥。
たくさんの品種があるリンゴだけれど、私は特にサンふじが好き。
人間もホントは好き。
優しい人、怖い人、悪い人、楽しい人、
いろんな人、いろんな性格。
でも好きになっちゃいけない。
私は魔法使いだから。
私は彼らを恨まなくちゃいけないの。
でなければ、人間に殺された魔法使いの死を悲しんであげられる人がいなくなってしまうから。
***
「貴様にはこの書類を重要度別に仕分けしてもらう。」
ドサーッと山のように目の前に置かれた書類を見て私は首を傾げた。
「これ、別に私じゃなくてもできるんじゃ…?」
「今は人手が足りないからな。それが終わったら上層部の会議に透明になって出向き、情報を盗んで来い。」
「わぉ☆素敵なお仕事ね♪……っていうとでも思ったかー!!」
私はバサーッとアヤナミに書類の束を投げつけた。
「魔法は悪いことに使うためにあるんじゃありません!」
「言い方を変える。情報を聞いてこい。そして私に逐一伝えろ。」
「なんにもかわらんわー!!」
「ただいまー☆わっ!」
サボりから帰ってきたヒュウガを、私は魔法で浮き上がらせるとそのままアヤナミに向かって投げつけた。
もちろんのことサラリと避けられてしまったが。
「ぐはっ!オ、オレ…武器じゃない…よ、」
壁に叩きつけられたヒュウガはそのままノックダウン。
「私、そういうの絶対いやだからね!」
フンッと鼻を鳴らし、ここは巻き添えをくらったヒュウガに免じて攻撃するのを止めた。
床に散らばった書類を魔法でまた一つにまとめ、机に置く。
アヤナミはもう私に構うのをやめたのか、すでに書類と向き合っていた。
私も書類と向き合うために、ふわりと浮いて椅子に座る。
「名前ってピーターパンみたいだよね。」
クロユリが楽しそうに近寄ってきた。
「魔法使いです。」
「ふわーって浮いてさ!」
聞いてねぇな。
「飛んでみたい?」
「うん!」
私はクロユリをゆっくりと浮かせると私の膝の上に下ろした。
「はい、おしまい。」
「もっと!」
「書類しなきゃ。」
「じゃぁ後で今度は空飛びたいな、ボク。」
「いいよ。」
かわいーなークロユリ。
………ん?ボク????
「クロユリって女の子なのに自分のことボクっていうの?」
「ボクは男だよ?」
……
「えぇっ!!」
この私の膝の上にちょこんと可愛く乗ってるクロユリが男の子?!?!
「そ、そんな…女の子だと思ったのに…。妹みたいで可愛いなって思ったのに……」
「妹さんがいるんですか?」
ハルセが首を傾げた。
「いないですよ。姉なら…いました。」
「いた?」
「はい、私が生まれる3日前に死んだんです。だから私はこうして生きていられるんですよ。」
「意味がわかりませんが…」
次に首を傾げたのはコナツだった。
「私の一族は魔法を使えますが、それは女だけなんです。男は誰一人使えず、無能なんです。女だけが引き継ぐその力は生まれたときから備わっているんですが、本家で一人、女の子が生まれたら次に生まれる女の子は生まれたらすぐに殺されるんです。男なら別ですけど。何せ無能なので。」
「何故二人目は殺されるんですか?」
「二人目だけじゃない。3人目、4人目、女の子が生まれるたびに殺されるの。本家だけね。」
「なぜ…」
答えは至ってシンプル。
「争いが起こるから。」
ただ、それだけ。
「一番の権力を持つ本家で女が二人いたら勢力派閥ができちゃうでしょ?姉派と妹派とかね。だから争いが起きないように、一人目以降の女は殺すの。私が生きているのは奇跡みたいなもの。でもね、それくらい…私達一族や種族は争いごとが嫌いなのよ。」
そんな意味の分からないしきたりを今も守っているくらいに。
「そうなんですか…。」
「…ひいた?」
「……少し。ひいたというよりは怖い習わしだと思いました。」
「コナツってば素直でよろしい♪」
「本家の方が魔力は一番強いんですか?」
カツラギは私に麦茶と、今日のおやつであろうリンゴを渡してくれた。
「うん。だから本家には誰も逆らわない。争い嫌いだしね。」
「名前さんはザイフォンは使えないんですか?」
「うん。使えないですよ。」
魔法あるのにザイフォンは必要ないもの。
「皆は私が魔法使いだってこと、気持ち悪いと思わないの?」
素朴な質問に、アヤナミを除く皆が頷いた。
ヒュウガも復活したようだ。
「…そっか。ザイフォンが使えるか魔法が使えるかってだけだもんね。つまり、サンふじが好きか、ジョナゴールドが好きかってことよ。」
「いや、なんか違うよ…それ。」
「違わないよ。ちなみに私はサンふじが好き。」
「聞いてないから!」
復活したと思ったらやけに元気だね、ヒュウガ。
「名前、書類が終わったのならそろそろ行け。上層部の会議まで時間がない。」
「今の会話聞いてたよね?!争いごとは嫌いだって!」
「争いごとではない。仕事に関する情報を手に入れて来いと言っている。」
「あーいえばこーいう人ね!!」
「その言葉、そのままそっくり返してやる。」
「……わかったわよ!行ってきたらいいんでしょ!バーカバーカ。」
バサッッ。
名前が仕分けした書類が床に散らばった。
…アヤナミの手によって。
「な、ななな」
「手が滑った。」
「なにぉう?!?!」
「会議から戻ったらもう一度やり直せ。」
「はぁ?!」
鬼?
極悪非道の大魔王の間違いでしょ。
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