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おい、お前がトロトロしてるから軍人に嗅ぎ付けられたじゃねぇか。


小声だったけれど、確かにそう聞こえた。
コナツさんは特に反応もせず、しっかりと前だけを見据えている。

ここは軍じゃないから不審者と間違われて捕縛されないからと安心していたけれど、確かにここはそういった面では安心だか何より安全じゃなかった。
こんなことならコナツさんが勧めてくれた通り、家で大人しくしているんだったと後悔しても今更遅い。


「ここ最近、昼間から堂々と金品を盗んでるのって君達?」


コナツさんの声が静かな路地裏に響く。
表通りからは喧騒が聞こえてくるのに、まるでこの一角だけ切り取られたような感覚がする。


「ニュクスの首飾り、持ってるよね?」

「さぁ、知らねぇな。」


3人の強盗の内のリーダー格のような男が不敵に笑うと、背後に控えていた小太りの男がコナツさんの前に立ちはだかった。
そして小太りの男がナイフを取り出したのとほぼ同時に、もう一人控えていた女が銃器を取り出す。

怖いという恐怖と、気持ち悪いくらいの汗が背中を伝ったような気がして、私は無意識のうちに一歩下がった。


「名前、僕が良いって言うまで動かないで。」


構えている刀を握りなおしたコナツさんは私をより背後へと隠すと、目を瞑ることを要求した。
目瞑ってて、耳も塞いでてよ。と言う彼は私に今から起こるであろうことを見せたくないようだったけれど、私はその親切に首を横に振った。

ここで目を瞑るのも、耳を塞ぐのも簡単だ。
目の前の出来事から目を逸らすことだって。
でも、恋人である彼がしているお仕事に目を塞ぐのはひどく憚られたのだ。
だって彼は、何一つ悪い事などしていないのだから。

彼の思いやりはしっかりと心で受け止めて、私はまっすぐに彼を見つめた。


女の威嚇射撃で3発の発砲音が響き、それと同時にリーダー格の男が出てきた家から奪ったであろう金品を抱えて走り出した。
表通りに逃げ込まれ、あの人ごみの中に紛れてしまえば見つけるのは指南の業だろう。

逃走ルートが確保してあり、メンバーの役割がハッキリとしている。
その上こんな昼間から堂々と手馴れた手つきで盗みを働くところを見ると、相当な手練だということが伺えた。
コナツさん1人で2人もの相手をするのは大丈夫だろうか、私も走って誰かを呼びにいったほうがいいのではないだろうか。

そう思っている内にコナツさんはまず襲い掛かってくる小太りの男を峰打ちし、女の銃身をたたき切ると柄頭を鳩尾に入れて気絶させた。
次いで走って逃げているリーダー格の男の背中に、刀から文字のような攻撃を出し、直撃した男はうつ伏せに倒れた。

鮮やかに無駄のない手つきに、私は圧倒的なコナツさんの強さにぽかんと口を開け目を丸くした。
可愛い顔してなんて強い人なんだろうか。


「名前、もう目開けて…、って、何で目開けてるの?!?!」


背後からずっと見ていた私に気付いていなかったコナツさんは、先ほどまでの真剣な表情を崩してあわあわと慌て出す。


「大丈夫、殺してないからね!ニュクスの首飾りの在り処聞き出さないといけないし!」


殺すとかいう以前の問題で、この現場に血が1滴も滴っていないことに安堵した。
やはり私はつくづく一般人で、彼とは違うのだと思い知らされる。
でも違うからこそ、惹かれあうものなのかもしれないとも思うのだ。


「怪我はない?」


心配してくれる彼に小さな笑みが零れた。
戦った自分の心配よりも、彼の背後という安全な場所に居た私を心配してくれる彼がひどく愛おしくてたまらなくなる。


「ないですよ。コナツさんが守ってくれたから。」


文字を使う攻撃を見るのは2回目だ。
1回目は男に襲われそうになった時。
私はいつも彼に守られているのだと実感する。


「恋人を守るのは当たり前だよ。」


彼の手が私の頬に触れて、キスするような雰囲気になる。
私は近づいてくる彼の顔を眺めながらそっと目を閉じた。

唇に朝と同じ体温が触れ、そして離れる。
外でするのは恥ずかしくて、私は唇を押さえて赤いであろう顔を隠すように俯いた。

その時、倒れている女の懐からキラリとしたものが視界に入った。
とても高貴な輝きを放っているそれに自然と目が行き、「コナツさん、あれってニュクスの首飾りじゃないですか?」とそちらを指差す。

前に一度新聞で見たことがあるニュクスの首飾りより、やはり直に見るニュクスの首飾りの方が数十倍もの神秘さを感じ取れる。


「ホントだ。どっか闇ルートで売りさばく気だったのかな。とにかく在り処吐き出させる手間が省けて助かったや。」


地面に落ちているニュクスの首飾りを拾い上げた彼はどこか上機嫌で、私の首にそれをつけた。


「え、っ、あのっ、」

「少しくらい、いいと思うんだよね。」

「いや、でもっ、」


確かニュクスの首飾りは国宝級ではなかっただろうか。
私は少なくともそう記憶している。

その国宝級の首飾りが私の首に……


「この首飾りの価値が落ちそうなんですが…。」

「僕は名前の首に飾られてた方が輝いてるような気がするよ。」


国宝級の首飾りにしては控えめで、宝石も少ないこの首飾り。
なのにまるで星々を散りばめたような控えめながらも目をやってしまう煌びやかさがある。
夜を司る神、ニュクスに相応しい一品。
まるで夜空に散らばる儚い星々のようだった。


「私、あんまりネックレスとか身につけないので慣れないです。」

「嫌いなの?」

「優柔不断で迷っちゃって、結局買わないんですよ。」


苦笑しながらニュクスの首飾りを外し、彼の手に乗せる。
まさか国宝級のネックレスを身につけられる日が来るとは思ってもいなくて、貴重なひと時だったなと息を吐き出した。


「じゃぁ今度僕が名前に似合う、」

「コナツみーっけ☆あ、名前ちゃんも一緒だ♪」


気絶している3人には目もくれず、コナツさんの言葉を遮って登場したのは紛うこと無きヒュウガさんで、私は「こんにちは」と挨拶してから、何か言いかけていたコナツさんに「何か言いかけませんでしたか」と聞いたけれど、何でもないと彼は首を横に振った。


ネックレスが彼から贈られるのはこの日から3日後の話し。


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