05



「じゃぁ行ってくるね♪」

「いってらっしゃい、ヒュウガさん。」


にっこりと笑ったあだ名たんが何だか新妻に見えた。
そしてほぼ同時にこの会話がまるで夫婦のように思えて、少しばかりくすぐったかった。

けれどこういうのもいいなぁなんて思ってしまって、「やっぱり行きたくないなぁ」なんて心の声がもれてしまったオレに、あだ名たんは苦笑して「頑張ってきてください」と見上げてきたから、あだ名たんの頭を撫でながらもう一度「いってきます」と呟いた。


離れたくはなかったけれど、やっとの思いであだ名たんをお留守番させて久しぶりに出仕すると、アヤたんが鋭い視線を向けてきた。

せっかく封を開けたばかりの林檎飴も、何だか煩わしそうに見られたけれど知ったことではないので気にせず食べる。

そんなに見つめられると知っていたなら、アヤたんにも林檎飴をあげたのだが、残念ながらもう手持ちがない。

どうせ「いる?」と言っても無言で『いらない』を主張されるのだろうけれど。


「あれ?リーたんは?」

「あれはまだ寝ている。」


リーたんの姿を見つけることができなくて、ふと訪ねるとまるで旦那が妻を親しげに呼んでいるような感じがして、ついニマニマとしてしまう。

しかもそうか、遠征から帰ってきて事後処理と報告に追われて、きっとリーたんを抱けたのはやっと昨日だったのだろう。

そう考えに至ると更に口角が上がる。


「2週間ぶりだったもんねぇ☆」


次の瞬間、手に持っていた林檎飴が粉々になった。
言う間でもなく、アヤたんのザイフォンによって。


「オレの林檎飴ー!」


オレの林檎飴が…。
もう手持ちないのに…。


打ちひしがれているオレを他所に、アヤたんたちがリーたんとメルモットたちについて話し始めた。

オレが聞き出した情報をカツラギさんが自分が得た情報と混ぜて話し始める。

リーたんが暗殺者だったこと。
暗示のこと。

色んな話が飛び交っているのを何となく傍から見ていると、急にアヤたんに名前を呼ばれた。


「ヒュウガ、メルモットを連れて来い。」


今の会話の流れからして、今日、今から、ここで、メルモットを処理するということになりそうだ。


「りょーかい♪」


オレ的にも早くこの件が終わってくれるとありがたい。

毎晩暗殺者に来られて寝不足なのはあだ名たんだけではないのだから。
寝たふりを続けてはいるけれどオレだって起きないわけじゃないし、あだ名たんがピンチだったら横槍だって入れるつもりだ。

だけど昼間眠たそうにしているあだ名たんを見るのは少しばかり辛いものがある。

メルモットを処理しさえすれば、リーたんだけではなくあだ名たんにも安息の日が訪れるのだ。


踵を返して扉に手をかけようとしていると、リーたんが半ば急いだようにして執務室に入ってきた。


「おはようございます。」


1時間の遅刻だが、昨晩散々抱かれたのであろうによく1時間の寝坊で済んだものだと内心ほくそ笑む。

ここで顔にだしてしまったら、きっともう命はないような気がする。
林檎飴じゃないものが粉々にされそうだ。


「おはよ、リーたん☆」

「おはようございます、ヒュウガ様。お久しぶりですね。サボりは楽しかったですか?」

「うん♪」


うわぁ、相変わらずの毒舌嫌味だなぁ♪と思いながらにっこり笑顔を返すと、リーたんは一瞬だけ、ほんの微かに目を細めた。

何だか最近、リーたんがアヤたんに似てきてる気がする……。
元よりかけ離れたような二人ではなかったけれど、より似てきているような気がするのはオレだけだろうか。


内心苦笑しながら、メルモットを呼ぶために扉に手をかけて執務室を出た。





事はとんとん拍子に進んだ。

メルモットを連れて来いと言ったり、連れて行けといったり。
アヤたんのオレ使いがひどくはあったけれど、今となれば文句はない。

メルモットを執務室につれて来たとき、リーたんは身を翻したかのようにアヤたんにナイフを突きつけたけれど、ブラックホークのメンバーは誰一人として警戒しなかった。

それはリーたんがアヤたんを殺すはずがない。という確証のない思い込みだったけれど、それは現実となった。


アヤたんが好き。
でもメルモットも昔の恩があるからと死んで欲しくはないと言うリーたん。

そしてリーたんに実はかなり甘いアヤたんのおかげで、リーたんの望みどおりにメルモットは第3区に左遷になっただけ。
もちろんしばらく監視下には置くつもりではあるけれど。

これでリーたんとあだ名たんの心の不安は取り除けたわけだ。


「ねぇアヤたん、捕らえた暗殺者の女の子なんだけど、オレが貰って良い?」


アヤたんとリーたんがいちゃつき終わってから執務室に入る。
悪いけれどリーたんには席を外してもらった。


「ダメだといっても貰うつもりなのだろう?」

「ん♪」

「なら好きにしろ。それよりヒュウガ。お前はいつから女のような字を書くようになった。」


アヤたんが目線を書類にやったのに対し、オレは苦笑をアヤたんに向けた。
絶対来ると思っていたけれどこのタイミングかぁ。


「お節介な子がお節介焼いたの☆」

「書き直すか?」

「別に問題はないでしょ??そのままで♪」


オレに書き直す気が全くないのを悟ったのか、アヤたんは嘆息して立ち上がった。


「その女をどうするつもりだ?」

「さぁ♪」


ただ始めて出会ったとき、女がてらのその強さに惹かれたんだ。
だけどそれ以上に、洗脳されているにも関わらずあまりにも純粋な瞳をしていたから、オレも純粋に側に置いてみたいと思っただけだよ。

それが恋なのだとハッキリ自覚したのは、あだ名たんが一人で暗殺者を殺しているところを見てからだけど。


言葉にはせず、そっと心の中で呟いた。


世間一般、多分あぁいうのを一目惚れっていうんだと思う。
でなければとっくに殺してる。


二人で過ごしていて。
暗殺者に命を狙われていてそれを返り討ちにしているのを見て。

助けて。と、もっと頼って欲しいと思うようになった。
頼られたいと思った。

あだ名たんは弱くないけれど、すぐ側に自分のことを「好き」だと言っている男がいるのだから、少しくらい頼ってくれてもいいんじゃないかと思う。

中身は何気に子供なのに、無理矢理大人になっているからそれが弱みだとでも思っているのだろうか??
それとも迷惑になるからと遠慮しているのだろうか??

まぁ、恐らく後者なのだろうけれど。
あだ名たんは確かに中身子供だけれど、物分りの悪いガキではない。


さぁ、これでわだかまりもなくなったことだし、あだ名たんをオとす準備は整った。

まずどこから攻めようかな♪


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