END




懐かしい夢を見た。

私が軍に入るきっかけとなった憧れの人と初めて出会ったときの夢。


あの日も今日みたいに不思議と目覚まし時計よりも早く起きれた日で、清清しい朝だったんだ。
その日は朝から良いことばかりが続いていて、珍しくお小遣いを多めに貰ったからその日は街へ遊びに来てきたのだ。
まだお小遣いを貰うような年齢で12.3歳だった私が、そのお小遣いで買ったお菓子を片手に家へと帰ろうとしていた時だ。

強盗をした男達数人が、軍と警官から追われているところにたまたま居合わせてしまったのだ。


逃げ惑う住民に置いてけぼりにされた私は、案の定男達に人質として捕らえられた。

わけのわからない子供の頭でも、自分が殺されそうになっていることくらいは何となく理解できた。
怖くて、ただただ震えて、


「ただ泣いてばかりの私の目の前に、彼が現れたのよ。」

「へー。」

「ふぅん。」


「その彼は圧倒的な強さで一瞬で私を助けてくれてね、もうまるでヒーローなの。」

「へー。」

「ふぅん。」

「まるでじゃないわ、もう私の中ではヒーロー。ヒーローそのものなのよ。」

「へー。」

「ふぅん。」

「…ちょっと、さっきからその適当な返事やめてくれる?」


士官学校時代からの友人である同期2人に「もう耳だこ」「その話何回目だと思ってるわけ?」と冷たくあしらわれた。


「で、その名前のヒーロー様が2週間の遠征からお帰りみたいよ?」

「嘘ッ!どこどこどこ?!?!」


下っ端というほどでもなくなったけれど、部署の違う私がそうそう参謀長官のお顔を拝見する機会もないので、こういった機会にしかヒーローことアヤナミ参謀のお顔を見るしかないのだ。

窓へと走り、食いつくように見下ろす。
私なんかが見下ろしていいような人ではないのだけれど、あぁ、いつみても神々しい。


少し疲れた顔でリビドザイルから一人降りてきているアヤナミ様にうっとりだ。


「かっこい〜…」

「そんなに好きだったら告白しちゃえば?」

「そういう好きじゃないもん。憧れなの、憧れ。命の恩人だしね。」


大体私彼氏いるし、とつい口から出そうになったけれど、この2人の事だ、言ったら最後『会わせろ!会わせろ!』と言うに違いない。

そしたらヒュウガに私が普通のOLじゃないとバレるじゃないか。
この2人に嘘をついてもらうわけにもいかないし。


「じゃぁ、私今日はもう上がるね。」


もう定時だしね、と時計を指差して窓から離れた。


「今日3人で飲みに行かない?」

「用事あるからパス〜。」

「あ、名前。他のブラックホークの皆もリビドザイルから降りてきたよ?」

「アヤナミ様以外に興味なーい。お疲れー。」

「「…彼氏によろしくー。」」

「はーい。………あ。」

「「やっぱり彼氏いるのねー!!」」


あーバレてしまった、と笑いながら私は一目散にその場を後にした。

私室に戻り、軍服から私服に着替えて軍を出る。
その頃にはもう陽が沈んでいた。


これから仕事帰りのヒュウガと外食の約束をしている。
ついスキップしてしまいそうになるのを我慢しながら待ち合わせの場所へと歩く。

アヤナミ様も一目見れたし、ヒュウガとも久しぶりに会えるし今日は良いコトづくめだ。


「いやぁー幸せすぎてこわーい♪」

「妹がニマニマしててこわーい♪」

「ぬわっ!!お姉ぇ!」


独り言のつもりだったのに、急に姉が出てくるものだから心の底から驚いた。


「おデート?ねぇ、おデート?いやぁねぇもう若いっていいわねぇ。」

「何でおばさんモード入ってるのよ。しかもお姉ぇが外出って…引き篭もりのくせにどうしたの。」

「ふっふっふ〜気分転換ぜよ!」

「何で土佐弁?」

「なんとなくアル。」

「お姉ぇ、ちょっと久しぶりに外出したから頭可笑しくなったんじゃないの?」

「失礼ねーもう。フルーツタルトが食べたくなったから買いに来たのよ。」


そういって姉は私にケーキの箱を軽く持ち上げて見せた。


「でも久しぶりに外に出るとあれねー。死にそうだわ。」


お姉ぇ人酔い半端ないもんね…。

言われて見たら顔色がひどい。


「送ろうか?」

「いいわよ。おデートなんでしょ?時間は間に合うの?」

「間に合わない。もう行かなきゃギリギリ。」

「よし、行って来い!」


姉にお尻を叩かれて急かされるままに歩き出した。


待ち合わせ場所であるマンション近くの広場に到着すると、約束していた時刻まであと5分だった。
5分前行動を心掛けている自分としては満足する時間だ。

ヒュウガも仕事が原因以外は基本的にはあまり遅れてくることはない。
もう居るかなぁと、周りをキョロキョロと見回していると、急に後ろから両目を手で塞がれた。


「だーれだ♪」


気配が!
気配がなかったよ!

そういえば姉もなかったっけ。
私どれだけ舞い上がってたんだ。


「ベタだねーヒュウガさん。」

「そういうの好きじゃない?」

「んー嫌いじゃないかな。」


小さく笑えば、ヒュウガも私の目を塞ぐのを止めて「素直じゃないの」と笑っていた。

久しぶりにスーツ姿を見たような気がする。
やっぱりスーツにサングラスというアンバランスさがなんとも。
いやしかし、スーツの趣味はいい。

ただでさえ長い足もスラリと余計長く見えるから羨ましい。


「主張お疲れさま、ヒュウガ。」

「ん♪」


彼が出張に行っていたから、こうして顔を合わせるのは2週間ぶりだ。


「ミニスカート、可愛いね。似合ってる。」

「ありがと。」


付き合い始めの頃のように変わらず褒めてくれるヒュウガが好き。
でもやっぱりどこかくすぐったくて、照れたように笑えばヒュウガは私の手を取って歩き始めた。


「どこ食べ行くの??」

「予定変更。マンション帰ろ。」

「え?ご飯は?!」

「名前食べた後で。」


この男、帰ってする気だ。
絶対事に及ぶ気だ。

私は最初こそジト目で睨んだけれど、まぁこのヒュウガが2週間も我慢したんだから今日くらいいいかな、なんて思ってしまった辺り私はヒュウガに甘いと思う。



「っ、ん…、は、ぁ…」


マンションの扉を開けて入れば、靴も脱いでいないのにキスされた。
壁に押し付けられて、喰らうような性急なキスだ。

ヒュウガはそんなキスを施しながら鍵を閉め、服の中に手を入れてくる。


「っ、ん、待って、せめてベッド行こう?」

「その時間も惜しいから嫌。早く抱きたい。」


電気さえつけていない部屋と玄関先。
その暗闇が一層ヒュウガを煽る。

しゅるり、とヒュウガはネクタイを引っ張って取ると床に放った。
その様が何とも色っぽくて心臓が高鳴る。

ヒュウガはそんなことに気にも留めずに、いつになく性急に私の服を剥ぎ取り、胸に愛撫を施していく。
出張の後は結構こういうことが多い。

会えなかったという時間と、会いたかったという気持ちを一身にぶつけられる感覚。

別にこういう抱かれ方が嫌いというわけでもなかったが、ヒュウガに『嫌じゃない』と言うと調子にのって焦らしてきたり言葉攻めにしてきたりするので余計なことは言わずに行為を受け入れる。


「寂しくなかった?」


秘部に指を這わせ、出したり入れたりしながら問いかけるヒュウガは意地悪だと思う。
そんなことされている時に聞かれたら上手く答えられないのに。
知っていて問うヒュウガは出会った時とは大違いで意地悪だ。


「っぁ、ん、さみ、っ、か、った、ぁ、ッ」

「ん?聞こえない。」


聞こえないって言うくせになんだその笑顔は。


「さみし、っ、ぁああっ、!」


足を広げられたと思ったらヒュウガ自身が中に入ってきた。

壁に背を預けた状態で左足を広げられたまま腰を掴まれて揺さぶられる。
突き上げられた時には、唯一床にくっついていた右足もつま先さえつかないほど突き上げられる。

不安定な体位なのにも関わらずヒュウガは軽々と私を支えるものだから、最近のサラリーマンは体を鍛えてるものなのかと甘く痺れる頭で思った。


「寂しい思いさせてごめんね。」


ヒュウガの声が耳元に届いて、私は喘ぎながらも首を横に振った。


私も主張と言う名の遠征で会えない時もあるし。お互い様だ。
でも確かに2週間も会えなかったのは大きかった。


「っぁ、ン、ッ、さみし、かった、けど、っ、いま、ぁっ、ぁ、しあわ、せ、だから、へいき。」


そう言いながらヒュウガの首に腕を巻きつけてギュウと抱きつくと、私の中で彼のものがドクリと脈打って大きくなったのがわかった。


「好きだよ、名前。好きだ、好き、すき。」


熱に浮かされたように囁いてくれるヒュウガに「私も好き」と返して絶頂を迎えた。

この先、私達の道が一時的にでも別れることになるなんて、今の私達には想像もつかなかった。
今はただ穏やかに進む時間に身を任せて、幸せや、喜びや、悲しみを分かち合いながらずっと側に居た。



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