その瞳、独占



「お仕事お疲れ様ですヒュウガ少佐!」


1にヒュウガ、2にヒュウガ。
3.4もヒュウガで5にヒュウガ。
そんな表情を浮かべたあだ名たんは、執務室にやってくるなりオレにクッキーを手渡した。
半ば無理矢理だ。


「ヒュウガ少佐のことを想って作って来たんです!食べてみてください!」


オレのことを好きだとアピールしてくれるのは嬉しいけれど、正直な話、オレの気持ちはあまり彼女には向いていない。
かといって好きな子もいないから別に放っているけれど。


「…ありがとー。」


今食べて!今食べて!といった表情をしているため、その場でリボンを解いて一枚クッキーを口に放り込んだ。
このピンクのリボンが色々と重く感じるのは、やはりオレが彼女を恋愛の対象として見ていないからなのだろう。


「まぁ、味は相変わらず普通だね。」

「何事も普通が一番ですよね!」

「そうだね……。あだ名たん、オレ飲み物欲しいな…。」

「あっ!そうですよね!今淹れてきます!!」


そういって給湯室に入っていた彼女の後姿を見送り、ため息を一つ溢していると、隣に座っていたコナツが「女性が作って来たものを普通というのは感心しませんが。」とジト目で睨んできた。
そんな目で見られてもこればっかりは仕方がない。


「いや、だって名前ちゃんが作ったお菓子結構味は独創的だよ!?!?なんでただのクッキーをあそこまで不味く作れるのか不思議なくらいだよ?!それを普通って言ってるんだから褒めてくれてもいいと思うけどなぁ。」

「名前さんがお菓子作り苦手なの知ってますけど…、それでも、」

「コーヒー淹れてきましたヒュウガ少佐!!」


会話の途中だが、渦中の人物が戻って来ては止めざるを得ない。
あだ名たんからコーヒーを受け取りながら、毎日飽きもせずにニコニコニコニコしている彼女を眺め見る。
目が合うとそれだけで嬉しそうにはにかむものだから可愛いとは思うけれど、やっぱり別にときめかない。
オレのトキメキどこ行った。


「オレ、お淑やかでついつい苛めたくなるような子が好みなんだよねぇ。」

「そうなんですか?!?!だったら!私お淑やかになります!なってみせます!」


拳を握りしめて力説するあだ名たんのこういうところはやはり可愛いと思う。
しかしなぁ。
何かが足りない。


「あのさ、キミ、自分をしっかり持ちなよ。」

「持ってますよ!ヒュウガ少佐が好きって!私はヒュウガ少佐が好きなんです。」

「はいはいありがと〜。」


毎度の如くあだ名たんの告白をサラリと流し、コーヒーを嚥下するとカオスな状態だった口の中がさっぱりとした。
このコーヒーも少し苦いけれど。


「では私はそろそろお仕事に戻りますね!」


まだ今日の分の書類が終わっていないのだと告げたあだ名たんと、丁度別の部署に用事があったため一緒に執務室を出て行ったコナツの後姿を見送ってから背もたれにより体重を預ける。
別にあだ名たんがオレのところに遊びにくるのを待っていたわけではないし、彼女が仕事に戻ろうと別にどうでもいいんだけれど…。
訪れるシンとした空気に面白くなさを感じて、どこかへサボりにでも出かけようと飲みかけのコーヒーを流し込んで腰をあげた。

今ならすぐにでもあの二人に追いつけるかもしれない。
それならあだ名たんを茶化して、コナツで遊んでからサボりに行こう。
そう考えていると、「名前さん、あまり気を落とさないでくださいね…。」というコナツの声が聞こえた。
角を曲がるとあだ名たんのペースに合わせて歩いているコナツがいて、会話に入ることを何故か躊躇ってしまった。
曲がったばかりの角に隠れたのだって別に深い意味はない。


「お気遣いありがとうございます。私も懲りればいいんですけどね…。私がヒュウガ少佐のタイプじゃないのはわかってますし、だからって性格変えますって言っても自分をしっかり持ちなよって言われてしまっては、私にはどうすることもできませんし…。」


困ったような、悲しいようなそんな気持ちを誤魔化すように笑っているあだ名たんのその表情はオレの前に居る時は見せないもので、執務室が面白くないから出てきたのに更に面白くない気持ちになる。
コナツが誰にでも優しいのは知っているし、あだ名たんの気持ちがオレに向いているのだって知っているのに。


「名前さんは、ありのままで十分素敵だと思いますよ。」

「ありがとう。優しいね、コナツくん。」


照れたように笑うあだ名たんの丸くパッチリとした瞳には今、コナツしか映っていない。
それが無性に腹立たしかった。


「じゃぁ、僕はここで。」

「うん、また明日執務室に遊びに行くね。」


手を振って分かれたあだ名たんの背後から近寄り、華奢な腕を掴めば、案の定彼女は何気ない様子で振り向いた。
そんなあだ名たんの唇にキスを落とせば、彼女は何が起こっているのかわかっていないようで驚いたように一歩後ろに下がったが、腰に腕を回して引き寄せる。
そうするとようやくこの状況が飲みこめてきたのか次第に顔を赤くしてゆくあだ名たんに満足して唇を離せば、彼女は唇をわなわなと震わせ挙動不審にわたわたと慌てた。

今、この瞳に映っているのはオレなんだ。
そう実感すると、先ほどまでつまらないと思っていた気持ちなんてどこかに行ってしまった。


「も、もう唇洗えません!!」

「いや、洗いなよ。」


そんな握手じゃないんだから。
あだ名たんの頭に手を乗せてくしゃりと髪を指に絡めると、彼女はオレのその手を掴んで感極まったように叫んだ。


「ヒュウガ少佐っ!もしかしてやっと私の事好きになってくれたんですか?!?!」


嬉しさを前面に出している彼女を見下ろし、考えるように宙を眺め、そしてまた彼女を見下ろすなり耳にキスを一つ落として囁いた。


「さぁね、どうだろ♪」


その瞳、独占

(ねぇねぇコナツ聞いてよ。オレ気付いたんだけどさ、押せ押せなあだ名たんより、陰で憂いてるあだ名たんの表情が好きかも☆もう少し焦らそうかなぁ♪)

(最低ですね、少佐。)

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