起きま宣言!!




ブラックホーク所属であるコナツ=ウォーレンには大きな頭痛の種があった。
仕事をしないだけではなく、朝も寝坊を繰り返す直属の上司であるヒュウガだ。
恐らく、帝国一サボる男として軍内で周知されているであろう事実に日々悩まされているコナツは稀に転職を考えたくなる時がある。
それでもそうしないのは偏にヒュウガのことを軍人として尊敬しているからなのだろうとコナツは考えている。

しかしだ。
仕事をしないヒュウガのせいでコナツは日々仕事に追われているというのに、今日も今日とて出仕時間を30分は過ぎているのに起きてこないのはこれ如何なものか。
これも下っ端の宿命なのかと諦めることもできるが、そうしないのがコナツ=ウォーレンだった。
毎日毎日懲りもせず上司を起こしに行く日々に加え、もう一人…。
ヒュウガと同じくらいの頭痛の種がもう一人いることにコナツはため息を吐きだした。
朝からため息を吐かないといけないなんて、今日一日はたかが知れているような気がしてくる。
変わらない毎日に喜ぶべきか、はたまた嘆くべきか。
ヒュウガの隣の部屋へ合鍵を使って入りながら、コナツはもう一つため息を吐いた。
遮光カーテンを開けながら、こんもりと膨らんでいるベッドに向かって声を掛ける。


「名前、朝だよ。」


ヒュウガの妹にしてアヤナミのベグライターでもある名前も朝起きれない一人であった。
ヒュウガと違う点をあげるとすると、一度起きてしまえば仕事をしっかりと熟す点だろうか。


「んーやだー。」


布団の中でもぞりと名前は動くが、起きる気はないらしい。
窓から差し込む朝日をひどく嫌そうに眉を顰めながら布団の中に潜り込む名前。
それからはいつも通り微動だにしなかった。

自分の上司でも直属の部下でもないのだから放っておけばいいとコナツは思いこそすれ、そう行動に移せないのがコナツだ。
不幸体質というか、貧乏くじ体質というか、どちらにせよ良い体質とは思えない。
名前の同期であるという性もあるのだろう。
朝、名前を起こすのはコナツの日課で、コナツは呆れながらも毎日欠かすことなく名前を起こしに行く。
何の運命か、士官学校時代からコナツと名前の関係は良くも悪くも変わらない。


「やだじゃない。ほら、起きて。」

「ん〜、お兄ちゃんは?」

「今から起こしに行くけど?」

「じゃぁお兄ちゃん起こしてからまた起こしに来て。」


冗談は止してくれ。
コナツは眩暈を覚えた。
実はつい数分前、ヒュウガの方を先に起こしに行ったのだ。
その時のセリフといえば、『名前は?名前起こしてからまた起こしに来てよ。』ときた。

何だこの兄妹は。
この似たものダメダメ兄妹め。

コナツの心の中の小言など知ったことではない名前は、布団の中で猫のように丸くなって再度眠りにつこうとしたが、コナツはそれを許さなかった。
問答無用で布団を捲り、「うぅ〜」と枕に顔を押し付けて尚も抵抗する名前を叩き起こす。


「名前さ、もう少し女性らしくしたら?」


少なくとも美形兄妹なのだから引く手数多だろうに、とコナツは思う。
同時に、中身と外見が釣り合っていないとも。

名前はその言葉にしばらく考え込むように無言だったが、3秒後にゆっくり口を開いた。
太陽の光で開かない目を擦りながら言うその様はひどく億劫そうだ。


「十分女らしいと思うけど。」

「…あのさ、普通女性は朝早く起きてお化粧したり髪を整えたりするものじゃないの?なのに名前ってばいつもすっぴんだし、よく後ろ髪跳ねてるし。」


その跳ねてる髪が可愛いとコナツは言わない。
名前のことだ。絶対調子に乗るのがわかっている。


「これが私の『普通』だからいいよ。コナツだって慣れてるでしょ?」


剥いだばかりの布団を手繰り寄せてまた潜り込む名前。
今日はいつもより駄々を捏ねる時間が長い。


「そうだけどさ。たまには早起きもいいよ?三文の徳っていうし。」

「三文って『少し』って意味なんでしょ?少しいいことがあるくらいなら私的には睡眠時間は三文よりも価値があると思うのよね。たくさん眠れてすっごく幸せー!=すごくいいこと、なわけよ。」

「兄妹なのは知ってるけど、そういうとこ、少佐に似ない方がいいと思うよ。」


説得力があるのかないのか、こういうところも兄妹そっくりだ。
名前の方が少しばかり下手ではあるが。
口が回るのはどうやら兄であるヒュウガの方だが、それでも朝からそういう説得の仕方は面倒くさい。
因みに少佐にも先ほど、『三文の徳っていうじゃないですか』と同じことを言ったのだが、帰って来た答えはたった一言。
『今の時代、三文あったって何も買えやしないよ、コナツ』だ。
名前より言葉が少ないはずなのに、妙に納得がいく上に何故か腹が立つ。


「血って怖いよね。自分でも思うもん。大体髪が跳ねるのはくせっ毛だしさ。コナツは私のすっぴん見苦しい?」

「見苦しくはないけど、」


むしろそのぴょこんとした後ろ髪も可愛いと思っているけど。ともコナツは言わなかった。
そうだ、名前はすぐ調子に乗るから。
こんなところも兄にそっくりだと思う。

名前は話しているうちに目が覚めてきたのか、布団から顔を覗かせた。
その顔は不満気で、拗ねているようにも見える。
コナツは何もわかっていない、と名前は内心一人ごちた。
そんな中、コナツは名前の自室を見渡す。
私服がソファの上に数枚重なって置いてある。
いや、あれは放り投げっぱなしというべきか。


「名前…そんなんじゃお嫁に誰も貰ってくれないよ?」

「大丈夫コナツに貰ってもらうから。」


どこまで本気なのやら。
コナツは片手でサラサラな自分の髪を軽くかき回して、こういう冗談は苦手だとばかりに困り果てる。


「コナツは私がお嫁さんじゃイヤ?」


名前は布団から手を出してコナツの手を掴んだ。
今まで布団の中にあったその手のぬくもりがコナツの肌に触れ、じんわりと熱を伝える。
柔らかく、優しい体温だ。
コナツは無意識のうちにその手を握り締めていたことに気付き、手を離した。


「なんで離すの。」

「いや、…うん、…ごめん…」


なんで謝っているんだろうと思う。
だって仕方がない、コナツには名前が今にも泣きだしそうに見えたのだ。
実際、泣きまではしないものの、名前は半べそをかいていた。
しかも名前は、ここまでしているのに、鈍く、疎く、鈍感な目の前のコナツに怒りさえ沸いてきそうだった。
士官学校時代からそうだ。
コナツはいつも勉強に鍛錬に忙しく、良く言えば勤勉、悪く言えば馬鹿真面目。
『とりあえず卒業できればいいよね』と思っている名前とは正反対の性格だが、名前はコナツに魅かれている。
真逆故に魅かれているのもあるかもしれない。
兄であるヒュウガが、コナツをベグライターにした時は、天が私に味方をしていると名前は心底本気で思った。
その上自分のどこをかってくれたのかはわからないが、自分もブラックホークに入隊できるとわかったときは、背中に羽でも生えて空が飛べるのではないかと疑ったほど、名前はコナツと同じ部署で働くことができて嬉しかった。


「貰ってあげるのはいいけど、せめて自分で起きれるようになりなよ…。」


これが今の行動に対してのコナツなりの精一杯のフォローだった。
名前はみるみる内に元気を取り戻す。
前に行列ができている洋菓子店のケーキを買って来てあげた時と同じ…いや、それ以上の目の輝きがコナツには見て取れた。
そして同時に、何故、今このタイミングで目を輝かせるんだと首を捻る。
士官学校時代からのクラスメイトでもあり、同期でもあり、そして友人でもある彼女のことが、コナツはたまにわからなくなる。
自分の思考とはまた違った思考をしているとさえ思う。
名前に限ったことではない。
それは上司であるヒュウガに対してもだ。


「なんで嬉しそうなの?」

「だって、コナツが今私の事お嫁に貰ってくれるって!男に二言はないよね?」


布団から上体を起こした名前の後頭部には今日も見事な跳ねがあった。
コナツはそれに手を伸ばし、どうにか押さえつけられないか手で何度か髪を撫でるように押し付ける。


「二言はないけど……、何、名前の将来の夢ってお嫁さんとか?」


ありきたりといえばありきたりだけれど、コナツの周囲の女性は働きたいという女性も多いため『お嫁さんが夢』という女性は珍しいが、適当に思い浮かんだことを口にすると、コナツの手を掴んだ名前は満更でもなさそうに「うん」と笑った。
化粧もしていないのに、どんな女性よりもきれいだとコナツは素直に思う。
質の良い髪質も、パジャマから覗く白い肌も、女性特有のもので、意識しないわけではない。
無防備な名前から目を逸らせば、掴まれたままの手を少し強く握りしめられた。


「あのね、私の夢はね、『コナツのお嫁さん』だよ。」


一体どこまでが本気で冗談なのか。
コナツは考えあぐねる。


「あー……えっと、じゃぁ朝は早く起きれるようにならないとね。」


ここはどれも本気に受け取らず、流すのが一番だと判断したコナツは名前から目を逸らしながら応える。
忘れかけていたが、今はもうすでに勤務中なのだ。
一分一秒でも早くダメダメな兄妹を起こさなくては。


「それなら大丈夫!本来ならちゃんと起きれるから!」

「は?」


コナツは口を開け、呆けた。
何をいうかこの娘は。
毎日毎日起こしに来ないと起きないくせにどの口がそれを言うんだ。

そんなコナツの心境を知ってか、名前はにんまりと笑った。


「起きないっていうより、起きないんだよね、私の場合。」

「は?!え、なんで?!?!」


今までの自分の努力はなんだったんだ、とコナツは視界がぐわんと揺らいだ。
あまりにもショックが大きすぎる。
一人で起きられるのなら起きてくれないものか。


「じゃぁ明日からはちゃんと起きてきてよ。」


どうせ嘘だろう、とコナツは内心目を細める。
それが本当ならあしたから一人で起きてきてほしい。
こうしているうちにも書類は溜まっていっているのだから。


「イヤよ!朝一でコナツの顔が見られるなんて最高の目覚めじゃない?」

「…何その理由。」


呆れる。
けど、満更でもない。

名前はコナツの心境何て知らずに「今度からは、ちゅーで起こしてくれてもいいんだけど??」と笑っている。


「じゃぁこうしようよ。ちゃんと一人で勤務時間前に起きて来れたらキス一つってことで。」

「あっ!それズルイ!!」


起きま宣言!!

(コナツ…全然起こしに来ないなぁ…)

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