とある日の日常



職種:軍人。
そんじょそこらの男とは鍛え方が違うその体格はなかなか服で隠せるものではない。
加えて僕より高いその長身。
そして明らかに隠そうとしていないその視線に、盛大にため息を吐いてクルリと踵を返した。


「何してるんですか、少佐。」


声を掛けると、商品棚には隠しきれていないその体がにゅっと出てきた。
いつから僕を尾行してきたのかはわからないけれど、軍からとは思っていない。
気付いたら少佐の視線と気配を感じた、ただそれだけなのだが、少なくとも5分もこちらを黙って見ているのはいかがなものか。
決して悪びれた風のない少佐は「あれ〜?コナツ、何してるの??」といつものように間延びした言葉を、今コナツに気付いたよ!!といったテンションで呟いた。


「かれこれ数分も僕の事ニヤニヤして見ていたの知っているんですから、誤魔化しても駄目ですよ少佐。」

「ん♪じゃぁ、コナツは10分も女物のネックレスと睨めっこして何してるの??」


男が女性物のネックレス見ていたら、それから先何をするのかなんて一つしかないだろう。
僕には女性物のネックレスを身に着ける趣味はまったくない。
それにしても、10分も前から見られていたのか…と若干ショックを受けるが、少佐相手に気配を探れと言われても正直厳しいものがある。
やっぱり少佐はすごい。そう思うことにする。絶対本人には言わないけれど。


「…少佐には関係ないです。」

「へーそんなこというんだぁ〜♪へー、ふーん♪♪」

「な、なんですかその含みのある言い方…。」

「別に??真面目で頑張り屋な自分のベグライターが迷ってたら手を差し伸べてあげるのも上司の仕事かなって☆」

「結構です。プライベートですし。」

「まぁまぁ、そう言わずに♪」


絶対面白がってる。

ネックレスに目をやる少佐の横顔を眺め見て、内心呟く。
休日に厄介な人に見つかったものだ。
これが大人な大佐やハルセさんだったら気付かないフリをしてくれただろうし、中佐だったら「彼女にあげるの?」とストレートに聞かれて、それに頷けば「ふーん」とあっさり終わっていただろう。
なのに何故今日に限って少佐に会ってしまったのか。


「指輪とかじゃダメなの?」


ネックレスで決まらないなら指輪は?と聞いてくる少佐に口を閉ざす。
サイズを知らないと正直に言えないのは男としてのプライドだろうか。


「指輪は…記念日にあげようと思ってるんです。だから今日はネックレスにします。」


と何とか誤魔化して、時計を見るとそろそろ待ち合わせの時間に近づいていた。
ここはやはり一番最初に彼女に似合うと思ったものにしよう、とネックレスを取ってレジで包装してもらう。
それを店員から受け取って、少佐とはさようならと思いきや、ついてくる。


「なんでついてくるんですか。」

「コナツの彼女見てみたいなぁって☆」

「僕、これから彼女に会うなんて言ってないですけど。」

「時間気にしながら女物のネックレス見てたらこれからデートだって言ってるようなもんだよ、コ・ナ・ツ♪」

「……。ついてこないでください!」




***




「遅れちゃってごめんなさい!」


待ち合わせの時間を少し過ぎてしまったが約束の場所に行くと、コナツさんは私に気付くなりニコリと笑った。
コナツさんが討伐に行っていたから、こうして会うのは2週間ぶりだ。


「大丈夫だよ☆全然待ってないから♪」


何故か隣に立っていた長身の黒髪の男性が答えると、コナツさんの表情は一転して拗ねたように隣の彼をジト目で見た。


「へ?あ、…すみません……。」


知らない人だが、つい謝ってしまった私に、今度はそのコナツさんのジト目が私に向く。


「謝んなくていいから。結局撒けなかった僕も悪いけどさ…。」


悔しい。そんな顔をしているコナツさんに、もしかしてこの人…と疑問が浮かぶ。
コナツさんと同じ歳には見えないし、広い肩幅や体格からして同じ軍人なのが見て取れる。


「上司にひどいなぁ〜♪」


上司と聞いて、やっぱりと疑問が確信に変わる。
彼が、結構頻繁に会話の中に出てくる『ヒュウガ少佐』に違いない。
2人の雰囲気からはただの仕事仲間というだけではなく、信頼関係も感じ取れた。


「名前です!いつもコナツさんがお世話になっております!」

「オレ、ヒュウガね♪お世話してます☆」

「名前、全然お世話になってないから。むしろしてるから。少佐ももう一目見たんですから満足ですよね?」


いい加減帰ってください。とコナツさんの敬語を新鮮に感じていると、ヒュウガさんの手が肩に回った。


「これからお茶でもどう?」

「人の彼女ナンパしないでください!」


コナツさんの反応を見て楽しそうにしているヒュウガさんに、あぁ、コナツさんって職場ではこんな感じなんだなぁと新たな発見に嬉しくなる。
結局、ヒュウガさんはコナツさんの話しを右から左へと流し、立ち話も何だからと近場のオープンテラスのカフェに入った。

ボックス席に私が先に座れば隣には当然のようにコナツさんが座り、私たちの目の前にヒュウガさんが座ってコーヒーを注文する。
ついでに私はフルーツタルトも。

最初こそ、帰ってくださいよ。と文句を言っていたコナツさんも、10分もすれば諦めたのか大人しくコーヒーを啜り始めた。
話題はコナツさんの職場の話しだったり、私への質問だったりして話術も巧みなヒュウガさんは初対面の私に対してももう長い付き合いのように話しかけてくれる。

フルーツタルトを頬張っていると、コナツさんはお手洗いへと席を立った。
そんなコナツさんの背中を数秒だけ眺めて、目線を前に向けると、テーブルに頬杖をついたヒュウガさんと目が合う。


「名前ちゃんはコナツのこと、好き?」


ストレートに聞いてくるヒュウガさんの言葉に若干照れもしたが、サングラスから覗くその視線が真剣に見えたので、私は誤魔化すことなくしっかりと頷いて見せた。


「そりゃもう、はい。ヒュウガさんも、お好きですか?」

「嫌いだったら側に置いてないね。」

「よかった。ヒュウガさんはどうしてコナツさんをベグライターにしたんですか?」


コナツさんに昔、ベグライターになった時のことを聞いたことがある。
何故、どうして、どうやってベグライターになったのか。
その時は少し困ったような、それでいて恥ずかしそうでもあり誇らしげでもある、そんな複雑な表情を見せたのだが、ヒュウガさんは今、懐かしい思い出すように目を細めて口の端を緩く吊り上げた。
それはどこか満足そうに見える。


「その質問にコナツは答えなかったでしょ?」

「…バレましたか。」


そうだ、結局『いろいろあったんだよ。』と苦笑されるだけでその場は流れたのだ。


「コナツも今より若かったってこどだねぇ♪」


どうやらヒュウガさんも教えてくれないようだ。


「コナツさん、なんだかんだ言ってますけど、貴方のこととても尊敬しているようですし、これからもよろしくお願いします。」

「こちらこそ♪コナツってばオレのせいっていうのもあるんだけど、仕事になると頑張りすぎるところがあるから、名前ちゃんも、コナツの事支えてあげてね。」

「はい。」

「あ、そうそう。オレ、一つ名前ちゃんに聞きたいことがあるんだよねぇ。」

「…はい?」




***




お手洗いから戻ると少佐の姿がなかった。


「あれ?少佐は?」

「ついさっき帰るって。」


一体何をしたかったのやら。
少佐の事は今も昔もわからない。
しかし、卓上の伝票がなくなっていたので、まぁ迷惑料ということで有り難く奢られておく。

名前の向かい側に座ってコーヒーを飲み直したところで、先ほど買ったネックレスを渡した。
開けていい?と聞いてくる名前は包装を開けて中からネックレスを取り出すなり喜んだ。


「わ、可愛い!」

「誕生日プレゼント、遅くなってごめんね。」

「全然気にしてない!ありがとう!大切にするね。」


早速ネックレスをつけて花が綻ぶように笑った名前に癒されていると、ポケットに入れていた携帯がブルリと震えた。
見ればメールが一件。
送り主は少佐で、余計な一文が書かれていた。
『名前ちゃん、左手の人差し指は7号だって☆』

…バレてた。
急激に疲れた気がして、残りのコーヒーを流し込んだ。
少佐には出会った時から勝てやしない。


「はちゃめちゃな噂に聞いてたより、良い上司の方だったね。」

「どこをどうみたらそう思うわけ…。」

「だって…、…やっぱりなんでもない。」

「僕がいない間に何話したのさ。」


正直気になるところだ。
少佐は余計な事言ってないだろうか。


「ふふ、内緒。」


名前はそういってキラキラ輝くペンダントを触った。

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