非常に非常識な男





「どっこいしょ、と。」


重たい箱を二つ重ねて必死に持ち上げる。
誰もが恐れ戦くブラックホークへ二回も荷物を運ぶなんて冗談じゃない。
一回で済ませられるならそれに越したことはないと無理をしてみたが、ダンボールの箱を二つ重ねているため背の低い私は前がほとんど見えないし、早速腕が痺れてきた。
やっぱりここは一つずつ運ぶかと考え始めていた時、曲がり角から私が最も苦手とする男が歩いてきた。

彼の名はヒュウガ。
少佐という地位についていながらもサボり魔としてかなり有名な彼は、事あるごとに私にちょっかいを出してくるものだから非常に、ひっじょーに困っている。


「あうあう……腹黒い笑みが近づいてくるし…」


彼がニコニコしているだけで腹黒く見える。
今日も背中に縦一本ツーと指を這わせられるのだろうか。
あれはくすぐったいからホント勘弁して欲しいのに。

しかし、今はダンボールを二つ重ねているため私の顔は前からは見えていないはずだ。
オドオドせずに知らん振りして通りすぎちゃえ大作戦を決行してみた。

すると案の定、ダンボールで顔が隠れていて私だと認識できなかったのか彼は気付かずに通り過ぎていってしまった。

あからさまにホッとしてブラックホークの執務室に気を取り直して歩みを進める。
今すれ違ったという事は彼は執務室にはいないということになるし、私の安全は保障されているためついつい浮き足立ってしまいそうになった瞬間、ふっと耳に息が吹き掛けられた。


「ぅぎゃぁあぁぁっ!」

「あはは色気なーい♪」


心底面白そうに笑っている彼は先ほどすれ違ったはずのヒュウガ少佐だった。


「すれ違ったのに挨拶もないなんてどういうことかなぁ?オレとの仲でしょ?」


腹黒い微笑みが顔を近づけてくるので、どんな仲でもないじゃないですかと内心毒づきながら「気付かなかったんです」と、サッとダンボールでガードしてみた。
すると彼はそれが気に食わなかったらしく更に笑みを深くして、痺れてきていた腕を指先で突いてくるではないか、この鬼畜生め。


「それどこまで運ぶの?」

「貴方の執務室までです。では私急いでいるので…。」


逃げるように彼に背を向けて歩き始めると、彼は私の隣に並んでついてくるではないか。
速度を速めても、緩めても、私より長いその足ではすぐに追いつかれてしまうので意味を成さない。


「何でついてくるんですか?」

「やだなぁ自意識過剰だよ☆オレが自分の執務室に戻るのがそんなにおかしい話?」


さっき絶対サボりに行こうとしてたくせに。
どうせ戻るのならこのダンボールの一つくらい持ってくれてもいいじゃないか。
恨みがましい目で彼を見上げると「持って欲しい?」と首を傾げられた。
その小さな仕草一つ一つが今は何だか腹立たしい。


「可愛く『持ってください』って言ったら持ってあげないこともないよ?」

「結構です!」

「そう?なんかヨタヨタ小鹿みたいに歩いてる姿が滑稽で可愛いよ♪」


滑稽で可愛いって、……刺したい。
この男、刺したい。


「でもま、今日は気分もいいから持ってあげようかな。」


彼はそう言って箱を一つ持ってくれた。


「……ありが、とうございます…」


何だか色々と素直に喜べないけど、軽くなった荷物にだけは素直に喜んでおこう。
非常に、ひっじょーに癪だけどお礼を言うと唇に何かが触れた。
彼の、唇だ。


「お礼は前払いね♪」

「…い、今、今、き……き…キス…」


なんてことするんだこの人!
私のファーストキスが!
私は彼の持つダンボールの上に、更に私の持っていたダンボールを重ねて置いた。


「私のファーストキスは高いんですからね!その分きっちり働いてください!ばーかばーか!!」


荷物のなくなった手で唇をゴシゴシと拭きながら逃げるように走る。
彼は私が必死になって持っていた2つのダンボールを軽々と持ちながら一瞬キョトンとしていたが、走り逃げている時には背後から楽しそうな笑い声が「顔赤いよー」という声と共に聞こえてきた。

非常に、ひっじょーに不愉快だ。


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