息を止める瞬間の、その





たとえば、


「カツラギさん、おかえりなさい!!」


と最上級の笑顔で出迎えられたら、それはもう仕事の疲れなんて文字通り吹き飛んでしまう。


「ただいま帰りました。」


先程まであった遠征の疲れは何処へやら。
未だニコニコと笑っているその頬に小さくただいまのキスを送ると、その笑顔は更に深みを増す。


「遠征どうでしたか?疲れました??」

「少しだけ。私はやはりディスクワークの方が好きですね。」


そう言って微笑むと、はた、と彼女は動きを止めた。
その視線は私のある一点へと注がれており、私は彼女の視線から外すように背中へと右手を隠した。
さっきの笑顔は既に消え失せ、息を詰めてショックを受けている彼女に苦笑する。

自分は彼女のこの悲しそうで心配そうな表情はあまり見たくない。
まるで自分のことのように息を止めて泣きそうな顔なんて、愛おしい人には誰だってさせたくないだろう。


「大丈夫。ほんのかすり傷ですよ。」

「手当ては??」

「コナツくんがしてくれました。それに絆創膏を貼るまでもない傷ですから。ほら、もうそんな顔をしないで下さい。」


ね?と彼女の顔に手を添えて、俯いていた顔を上げさせる。
そして悲しみに震えるその唇にそっと唇を寄せた。

彼女が息を止める瞬間が好きだ。
悲しみで息を止める瞬間ではなく、キスをするまでのほんの一瞬の瞬間。
恥ずかしそうにギュッと目を瞑って固まっているのに、受け入れてくれようとしてくれている、その表情をひどく愛おしく思う。

一度唇を離してもう一度口付ける。
そうして何度も口づけてからやっと解放してあげると、いつも決まって照れくさそうにはにかむ彼女。

彼女といると、日々愛おしさは増すばかりだ。


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