寂しさの魔物なんて





「朝よりは少し下がったようですね。」


体温の低いカツラギさんの手が私の額から離れていく。
ただ離れただけだというのにも関わらず、何だかものすごく寂しさを感じた。
カツラギさんは目の前にいるし、こうして微笑んでいてくれているというのに、なぜこんなにも風邪という魔物は寂しさを連れてくるものだろうか。


「はい、これがお昼の薬の分です。」


離れたばかりのカツラギさんの手が起き上がる私を支えてくれて、差し出してくれたそれを受け取ってぼんやりと眺め見る。

これを『飲みたくない』と駄々を捏ねたらきっとカツラギさんは困ったような顔をして『飲まないと駄目ですよ』と諭してくるに違いない。
困ったような顔をされるのは好きではないけれど、これを飲んでしまえばカツラギさんはお昼の業務に戻っていってしまうのだろうと思えば、たまの我が侭ぐらいなんてことないように思えた。

だけど、私は必死に水と共にそれを喉に流し込んだ。
だってカツラギさんに迷惑はかけたくない。
再度布団に潜り込むと、カツラギさんは汗をかいてベタベタの私の髪を何の躊躇いもなく撫でてくれた。


「風邪のときぐらい甘えなさい。いいね?」


優しい声色で紡がれたその言葉にゆっくりと頷いた。
カツラギさんはいつも私が望んでいることをしてくれる、いつだって欲しい言葉をくれる。
それがたまに申し訳なることもあるけれど、私はえへへと笑って未だ頭を撫でてくれるカツラギさんの手に自分の手で触れて、それからギュッと握った。

全く迷惑そうな表情を浮かべる事もなく、むしろどこか嬉しそうに微笑んでいるカツラギさんの手が力強く私の手を握り返した瞬間、寂しさの魔物なんてどこかへ吹っ飛んでいってしまった。


「お昼休み、終わっちゃうね。」

「そうですね。でも、」


たまには遅れていってもいいでしょう。と繋いでいない方の手で頬を撫でられて目尻にキスが落とされた。


「もう少しこうしていましょうか。私だってこの手は離したくないんですよ。……もう少し、貴女に触れていたいんです。」


カツラギさんがそう言って微笑むものだから、ただでさえ風邪のせいで顔が赤いというのに更に顔を赤くして、「熱、あがりそうなこといわないでくださいー」と泣き言のように呟くとカツラギさんはくすりと笑ってお腹辺りの布団をポンポンと手を置いた。



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