暗い、静かな、夜道にて。





いい子でいるのはとても楽だ。
相手が欲しがっている言葉をあげることだって。
その分得することだって多い。
多いけど、本当に心から望んだものを逃す事も同じくらい多い。


「あのよ、オレの前ではいい子でいるフリしなくていーんだぞ。」


暗い夜道は人気がほとんどない。
だけどその不気味な道も彼がいれば特に怖いなんて思うことはなくて、むしろ彼が送り狼になってくれてもいいと思っていた丁度その時だ。

デートの帰り道、ずっと何かを言い辛そうにしていた彼が頭を掻きながらそう呟いた。


「フリって…。」


苦笑を返し、両手を後ろで組んで「いい人ぶってるわけじゃないけどさ、好きな人には良い所見せたいものでしょ?」と首を傾げてみせる。


「お前はそうかもしれねぇけどよ。俺的にはもーちっとワガママ言って欲しいワケよ。今すぐ会いに来いとか、キスしろとか、抱き締めろとか、まだ帰るなとか。付き合ってンのに求めてこねぇなんざ、俺のコトどーでもいいのかって思うワケよ。」


フラウにしては珍しく弱気発言だ。
以外な一面を見たようで何だか嬉しくなった。
彼も、私の意外な一面を見てこういう気持ちになりたいのだろうか。


「嫌いにならない?本性はすっごく性格悪いかもよ?」

「今度は性悪女ぶるつもりか?ったく。」

目を細めてため息を吐く彼にニッコリと笑って右手を差し出した。


「手ー繋いでほしいな。」

「もっと早く言え。」

「後ね、さっきから靴擦れ痛い。」

「それこそもっと早く言え馬鹿。」


手を繋がれて、それから頭を軽く叩かれた。
うん、悪くない。


「ねぇフラウ、このまま送り狼になる気、ない?」


繋いでいる手をギュッと握り締めると彼は驚いたように歩いていた足を止めた。
そりゃビックリするか。
私の事、ずっと奥手な女だって思ってただろうし。


「…ガキが。」


吐き捨てるように言われて肩を竦めて見せる。


「あら、フラウより経験あるかもよ?」


なんて、実は処女なんですけどね。


「この性悪女。」

「お褒めに預かり光栄です。」

「褒めてねぇよ。」


そう言って彼は繋いでいる手を握りなおした。



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