雪の日のひだまり





噴水の近くの木は上に降り積もっている雪の重さに耐えきれず、撓った細い枝は少しばかり雪を落とす。

私はそんな様子を噴水の側から眺め見ていたが、ふわりと雪が唇に触れたのを切欠にふと空を見上げた。
今は昼間だというのに空には厚い雲がそこかしこに漂い、今また冷たい雪を降らせ始めたようだ。
つい先ほども降っていたというのに、気温は下がってゆくばかりでうんざりしてくる。
噴水近くの時計は待ち合わせの時間までまだ15分前を差していて、息を吐きかけたりして必死に温めていた指先も、時間が経つと同時に悴んでゆくばかり。

道向かいには可愛らしいカフェがあって、室内では上着を脱いでいるくらいだから中はとても暖かいのだろう。
湯気の立つ温かい飲み物を飲みながら頬をゆるめている女性たちは幸せそうに見える。
この場所から動く気にはなれないけれど、とても魅かれてしまう。

すっかり悴んでしまった指同士を擦り合わせて息を吹きかける。
白く吐き出た息はすぐに空気中に消えてしまったけれど、白い雪は降り続けるばかりで、私の想いのように降り積もってゆく。
未だ待ち人来ず、そんな状況でも私は彼をただじっと待ち続ける。
そうしていると、雪に交じって声が降り注いだ。
雪と同じくらい冷たい声が。


「まったくお前は…。どこか中に入って待っていろと言っただろう。」


呆れたような表情の彼がため息を吐いたのが盛大な白い息によって見て取れた。


「ここにいたほうが、私のこと見つけやすいかなって。」


私はカフェの暖かさよりも、一秒でも早くアヤと会えることを選んだのだ。
アヤは悴んでいる私の手を取るとその冷たさを確認するようにまずは指から握られ、どちらからともなく指を絡めてしっかりと握りあう。
そうすると、私の手には生き返ったように温もりが伝わってきて、まるで雪がお日様の光で溶けていくようなそんな気持ちになる。


「まったく、お前は死人のように顔を白くして。とりあえずどこか中に入るか。」

「じゃぁ、あのカフェでカフェオレ飲みたい。」


ついさっきまで眺め見ていた女性客ばかりの可愛いカフェを指差すと、アヤは心底嫌な表情を浮かべた。
今のアヤは少し歩いたところにある普通のカフェがいいとか思っているに違いなくて、私が無言でアヤの首筋に冷たい手をピタリと当てると、その冷たさに少し仰け反ったアヤは十分に躊躇ったのち、仕方ないとばかりに道向かいのカフェに向かって歩き始めた。
手を引かれながらひっそりと笑みを浮かべ、2人でカフェの中に入る。
きっと私も、今から幸せそうな顔をしてアヤと温かいカフェオレを飲むのだろう。

ドアが閉まる寸前、噴水の時計から3時を差す音が鳴った。


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