ヒュウガVer




私以外まだ誰も居ない会議室でまずブラインドを下ろし、ペットボトルのお茶とレジメを今週の会議参加人数分長机に置いていく。
ものの10分で配り終えた私は自分の席に座るとレジメに目を通し始めた。

誰よりも早めに来てレジメの内容を頭に入れておく私を人は真面目だと噂しているようだが、私としてはただ自分の覚えが悪いから人一倍努力をしなければいけないと思っているだけだ。

パラリ。
紙の捲れる音を会議室に響かせると、コツリと新たな音が増えた。


「お疲れ様♪」

ヒュウガ少佐だ。
何が楽しいのか、嬉しいのかニコニコしている。


「お疲れ様です。」


いつもは遅刻ギリギリか、アヤナミ参謀に引きずられてしか来ないのに今日はどうしたのだろうか。
もしかしてヒュウガ少佐の双子の…と冗談めかして偽物説を想像していると、何故か彼は私の隣に長い手足を惜しみなく投げ出して座った。
ブラックホークの席はいつもと変わらず上座の席なんだけれど…。


「ねぇ、オレと付き合わない?」


今日は一体どうしたんですか?と尋ねようとしたが、私は彼の発言に目を点にした。
まさかの告白。
しかも会議室で告白されるとは。


「か、会議室は会議を行う場所で、断じて冗談でも告白の場になるとは思わなかったです。」


思ったことを素直に口にすると、彼はキョトンとしてからすぐに笑った。


「じゃぁオレと君のこれからの関係性を話し合おっか☆」


冗談ではないと彼は言うが、今まで彼と私の共通点があっただろうか。
いや、ない。
部署も建物も違う私達がこの会議室で以外顔を合わせることはない。
正気だろうかこの人。
敵に殴られて頭のネジの1本や2本戦場に落としてきたんじゃ…。


「えっと、私たちお互いの事あまり知りませんし、話したこともないですし、」

「そんなのこれからどうにでもなるよ♪」


遠回しに断る時の使い古された常套句を口にしようとしたが、彼はそんな時間を与えてくれない。
くれるのはYESと言わざるを得ない雰囲気だけだ。
これは彼が本来持つ雰囲気なのか、ブラックホークに入って培われたものなのかはわからない。
それ程私たちはお互いの事を何も知らないのだ。

答えに迷っていると、遠くから人の声と靴音が聞こえてきた。
気付けば時計の針は会議開始10分前を差しており、この声の主も会議室へ向かって来ているのであろうことが伺える。


「じゃ、じゃぁお友達からでもいいですか?」

「いいよ♪」


こんな常套句で納得してくれるとは思っていなかったため肩透かしを食らったようなあっけない気分だ。
だが異性に慣れていない私は同時に安堵する。

ヒュウガ少佐は自分の席に戻るなり居眠りを始めたが、私は会議が始まってからも初めてされた告白にそわそわと落ち着かなかった。
その時の彼の気持ちよさそうな寝顔が妙に腹立たしくも感じたが。

いつもは長く感じる会議も、そんなこんなで会議内容はほとんど頭に入って来ないままあっという間に解散を告げた。会議参加者がぞろぞろと出て行くのを横目に小さくため息を吐く。
レジメの角を机で揃えて立ち上がるとブラインドを上げるために紐に手を掛ける。


「少佐が僕たちより早く会議にいらっしゃっていたので驚きました。どうしたんですか急に。」

「んー、まぁ、用事があって…ね♪?」


通り過ぎる瞬間に『ね?』と目を合わせて問いかけられても返答に困ってしまう。
何だか目を合わせるのが気恥ずかしくて、私は目を逸らすなり上げたブラインドから差し込んできた光に目を細めた。


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