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名前のあの不審な態度に何があるのかと考えていると、後からやってきたヒュウガがパーティーには遅れていくと言う。

さて、無駄に行動力のある名前は今回は何をしでかしてくれるのやら…
そう思いながら、パーティーの時間となった。






「あだ名たん、キレーだよ♪」

「…はぁ。ありがとうございます…。」


私はドレスを着て、化粧だけでなく髪も綺麗にセットされた頃にはすっかり疲れ果てていた。

もちろんそれだけじゃない。
アヤナミさんが疑いの目をこちらに向けてくるものだから、それに逃げるのにも必死で。

肉体的にも精神的にも疲れた。
そういったほうが正しいような気もする。


壁に寄りかかりながらヒュウガさんからシャンパンを受け取る。

ピンクのそのシャンパンは甘くて飲みやすかった。


このピンクより少し淡い色をした私のドレスはふわふわシフォンのワンピースでとても可愛い。

肩と足が出るのは別にいい。
だが背中が開きまくっているのが難点だ。


「あだ名たん色白いからもう少し濃い色のドレスでもよかったかなぁ♪」


いえ、十分可愛いですよ、このドレス。と言おうとすると、「あ、でもどんなドレス着てもあだ名たんの可愛さには翳むね♪」と言われては、何だかフォローを入れる気さえ失せた。

女たらしさが滲んでますよ、ヒュウガさん。


「何か食べる?オレちょっとアヤたんところに行かなきゃ。」

「あ、一人で大丈夫です。勝手に食べてるのでお気になさらず。」


そう?とヒュウガさんは微笑んでから人ごみの中に消えた。

私はさっそく真っ白いお皿においしそうなものを乗せていく。


あ、これとか単価高そう。


お皿がいっぱいになる少し手前で乗せるのを止め、一先ずフォークとそのお皿を持って壁際へ移動する。

お箸の方が食べやすいと思ってしまうのは、やはり私が日本人だからでしょうがない。


「あ、これおいしい。」









「アヤたん、遅くなってごめんね♪」


ヒュウガが遅れてやってきた。
コナツは「どこ行ってたんですか!」と怒っているが、怒られているにも関わらずヒュウガはニマニマと笑っている。


「悪巧み…。そういう顔をしているな。」

「ん♪」


否定はせず、肯定をしたヒュウガは目線をついと他へ向けた。

その視線の先に嫌な予感を拭いきれないが、つられる様にして目線をそちらに向けると、壁に背を預け、おいしそうに料理を食べている名前がいた。


「…貴様……」

「オレのパートナー♪」

「ふざけたことを言うな。」

「アヤたんはあだ名たんを誘わず一人で来たでしょ♪?でもオレはあだ名たんを誘ったの♪だからオレのパートナー♪♪」

「どういうつもりだ。」

「どういうって…ただ誘っただけだよ、おいしいもの食べれるよーって♪」


それでつられたあいつは阿呆だろうか。

名前は『飴をあげるからついておいで』と言われても、ついていってしまいそうな気がしてならない。


「あだ名たん、綺麗でしょ??」


いつもは隠れている白い四肢が出ているというだけで、どこか扇情的。
しかしあのドレスは間違いなくヒュウガの見立てであろうから、肯定などしたくはなかった。


「綺麗だよって言いにいってあげたら?」


なるほど、こういうわけか。
ヒュウガの魂胆が見えた。


『アヤたんはあだ名たんが好きなの?それならオレはアヤたんの恋路のために全力尽くしちゃうよ♪』


彼はその言葉通り全力を尽くしているというわけなのだ。


「あまり余計なことをするな。先に挨拶をしてまわる。それからだ。コナツ、ハルセ、私が行くまで名前の相手をしていろ。」


変な虫がつかないようにな。









「名前さん。」


さて、お次は何を食べようかな。と思っているとコナツさんとハルセさんがこちらへ歩いて来ているのが見えた。


「まさかパーティーに来ていらっしゃるとは思わず、驚いてしまいました。」


ハルセさんのセリフに、適当にあははと笑って誤魔化しておいた。


「二人はもう食べましたか?」

「いえ、これからなんです。何がおいしいですか?」

「あ、このマリネおいしいですよ。この肉も。」


何の味付けを施してあるのかはさっぱりだけれど、おいしかった。


三人でお皿に料理を乗せ、またさっきの壁際に立ちながら料理を食べ始める。


「そういえばヒュウガさんがアヤナミさんのところに行くって行ったっきり帰ってこないんですよ…。」

「あぁ、少佐ならアヤナミ様と一緒に挨拶してまわっていますよ。」


ほら。というコナツさんの目線の先にはヒュウガさん。
それにクロユリくんにカツラギさん。
そしてもちろんのことアヤナミさんがいた。

男性は軍服が正装とばかりに、みんな軍服を着ていて誰が誰だかさっぱりわからないが何故だかあそこだけ雰囲気が異様だ。

顔は良くて背は高いし、地位も高い。とくれば自然と女性が寄ってくるわけで…。


「何か…若い女性多いですね。」

「それを言うなら男性も多いですよ。なんていったって元元帥の末の息子さんの結婚のお祝いパーティーですから。」


お偉い様で年齢層は高くもあり、その息子夫婦で低くもあるというわけか。


でも、でもですね。
アヤナミさんの腕に触れるのってダメだと思うんですよ。


「…あの女性、誰ですか…。」


挨拶をしているアヤナミさんの腕に手を添えているあの女性。


「さぁ…。見たことがないので軍の方でもそのご令嬢でもないと思いますよ?」

「恐らく今回ご結婚された花嫁の友人かと。」


冷静かつ的確な推理をありがとうございます。


…なんか、ムカつくんですけど。


腹が立ったらもっとお腹が空いたような気がして、曲がってしまうんじゃないかと思うくらい握っていたフォークをお皿に近づけると、その皿はすでに空っぽ。

そんな私を見兼ねたのか、ハルセさんが飲み物のサービスをしているボーイを引きとめ、シャンパンを受け取ると私にそれを渡してくれた。

本日二度目のシャンパン。


「ジュースの方がよかったですか?」

「いえ、お酒は飲めます。」


それにさっきのお酒は飲みやすかった。


口をつけようとすると、急にライトが消えた。

そんなに高さはないけれど、ステージのようなところに男性が現れる。


何やら今日、集まってくれたことに対して感謝の言葉を述べている。

それを適当に聞き流し、あー背中寒いなー。なんて思ってると、急に私にライトが浴びせられた。


何事かとビックリして、ポカンと口を開けている私にハルセさんが小さく耳打ちしてくれる。


「ピアノを弾いて欲しいとおっしゃっているんですが。」


は?!?!
何で?!


コナツさんは弾けるんですか??と首を傾げている。


ちょ、ちょっと待って。
話が見えない!

何で私がピアノを弾けるってこと…。


そう考えて思い当たる人物が一人、浮上した。

彼の元へ目線を向けると、向けられた張本人であるヒュウガさんは楽しそうに手を振っているではないか。


…やられた。


そう思った。


ヒュウガの横にいるアヤナミさんと目を合わせるのも怖い。
これで私がパーティーに来てるのもバレてしまっただろう。
元よりバレないと思っていたわけでもないけれど…。


「さぁ、ステージへどうぞ!」


ライトは私に浴びせられたままで、ステージで司会をする男性が催促する。

ここで上手く断れるほど私は空気の読めない人間ではない。
それにヘタレの私が断れる状況ですらない。

ヒュウガさんはそんな私の性格を熟知した上で、この方法を選んだのだ。
私が逃げられないこの状況を。


弾いてやろうじゃない。


私は顎を引いて一歩踏み出した。

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