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真っ白いシーツの上に真っ白い肌をしたこれまた真っ白な名前が横たわっている。
時々寝返りを打とうと身じろぐが、抱きしめている腕に少しばかり力をいれてやれば寝返りを打つことなく、こちらを向いたまま眠っている。
きっと彼女は深い眠りの中にいるのだろう。
寝言をいうこともなく熟睡しているその様子は、とても愛おしいと思うと同時にやりすぎたかと苦笑してしまう。
止まらなかったのだ。
欲を吐き出しても、名前が気を失うまでそれは続けられた。
欲しかったものが手に入り、触れたかった部分にまで触れられて箍が外れたと言えばいい訳のように感じるが、気の済むまで名前を感じていたかった。
甘い声も、熱い吐息も、腕を掴んでくる手も、快楽の色を浮かばせている顔も、全てが愛おしくて、一度欲を吐き出した後でも止めることはなかった。
名前が気を失ったのは何回目だったか。
慣れていない名前はもちろんそんなに持たなかったけれど。
シーツを汚している赤い染みも、不思議と不快には思わなかった。
腰に回している腕を少し引けば、名前は小さく身じろいで私の胸板に擦り寄ってきた。
ぬくもりを欲しがる子供のようにも見える。
このまま加減を忘れ、強く抱きしめてしまえば壊れてしまうその弱い体。
守らなくてはと私に思わせる名前はある意味すごいの一言に尽きる。
「名前。」
耳元で小さく名前を呼んでやれば、名前は薄く瞳を開けた。
「…アヤナミ、さん?」
目を擦る様は可愛い赤子のようで愛おしさが募る。
「どーしたん…ですか?」
どうやらまだまどろみの中から覚めきれないらしく、舌足らずだ。
その微かに動く唇に唇を重ねてやれば、ふにゃりと笑った。
出会った頃、あんなにも見たかった笑顔を今、彼女は腕の中で温もりを与え合いながら当たり前のように向けてくれる。
夜はまだ明けない。
愛し合う時間はまだたっぷりとあった。
「ねーねーアヤナミさん。」
私は甘えるようにアヤナミさんに後ろから擦り寄った。
当のアヤナミさんは後ろから首に腕を回してくる私に眼もくれず、ソファに体を預けて本を読んでいる。
だけど私は知っている。
本を読みながらも、ちゃんと私の話を聞いていてくれていることを。
だから私は構わず言葉を続けた。
「あのですね、」
「却下。」
アヤナミさんはあろうことか、内容をいう前に結論を出してしまわれた。
そのことに少しだけムッとして口を尖らせる。
少し前の私だったらこんなこと怖くて出来なかったけれど。
でも今の私は特に立場が強いのだ。
それもちょうど1週間前の出来事のこと。
初めてアヤナミさんと体を交わしたあの日の夜。
それはそれは無体を強いられたのです。
気絶するまでヤられ、人がぐっすり眠っている時にも名前を読んで起こしたアヤナミさんは、まだ足りないと私を抱きました。
求められるのが嫌なのではないし、むしろ嬉しいのだけれどあれはちょっとやりすぎだと思うんです。
だから次に目覚めた時に怒ったら、アヤナミさんは素直にすまなかったと謝った。
それからだ。
それから私はちょっぴり優位な立ち位置に立っている。
だけれど、もちろんそんな日々にもピリオドを打つ日がくることは火を見るより明らかで。
「まだ何も言ってないですけど…。」
「あまり調子に乗るな。お前が猫なで声で私の名前を呼ぶときは決まっていい事がない。」
あぁ、そういえばそうだったっけ??
この一週間、私は珍しく大人しいアヤナミさんにお願い事をしていた。
「教会に行きたいなどと金輪際抜かすな。あそこには二度と行かせぬ。」
なんでアヤナミさんがそんなに私を教会に行かせたくないのかはわからないけれど、どうやら決意は固そうだ。
アヤナミさんは私の右腕を引っ張ると、ソファの背もたれの上をズリズリと擦りながら膝の上に乗せた。
こういうことにならないためにせっかく後ろにいたのに、全くの無意味だったようだ。
こういうこととは、つまり、…そういうことだ。
「拗ねるな。」
不満顔の私の唇に唇を重ねられる。
アヤナミさんはいつもこうして私のお願いを誤魔化すのだ。
最初は私も満更でもなかったけれど、こうも続くとさすがに参る。
胸元にはいくつものキスマークがつけられていて、こうして消えきらない内にまた痕を残してくるものだから、私の胸元からキスマークが消えることはない。
「…私、そういう気分じゃないです。」
アヤナミさんの肩を押して、膝から降りた私はプチ家出を遂行した。
「で、オレのところに来たと。」
リンゴジュースを出してくれたヒュウガさんに頷くと、小さく笑われた。
「家出かぁ〜。きっと居場所もバレバレだろうね♪」
「いいんです。することに意義があるので。」
「あーあ完全に拗ねちゃってるなぁ♪」
「当たり前です。軍内から一人で出てはいけないって、どこの子供ですか私は。」
「違う違う、今拗ねてるっていったのはアヤたんのほうだよ☆」
アヤナミさんですか?
「こんなに大切に大切に、それこそ人目にあまり触れないように危険から避けてあげて、ありえないくらい優しくしてあげてるのに報われてないんだもんなぁ♪」
「……ヒュウガさんのところに来たのは間違いだったかもです。」
「あは♪今頃気付いた?オレはあだ名たんの味方だけどアヤたんの味方でもあるからねぇ♪」
嘘つき。
100%アヤナミさんの味方のくせに。
「しかも男の部屋に来るなんて無用心だよ?」
「まだ21時です。」
さっき暗くなったばかりですよ。
「まぁ、確かにね。でもあだ名たんにはアヤたんがいるから軽々しくこんなことしちゃダメだよ?逆にアヤたんが女の部屋に行ったら嫌でしょ?」
アヤナミさん贔屓のヒュウガさんの問いに、私は素直に頷いた。
「嫌です。」
何だか少しだけ罪悪感。
わがまま…なんだろうか。
こんなに守られているのに、愛されているのに、その人の腕の中から出て外の空気を吸いたいと思うのは。
「ヒュウガさんは…なんでアヤナミさんが教会に行っちゃいけないっていうんだと思います?」
「んー♪その理由はもうあだ名たん知ってるんじゃないかなぁ。」
私が首を傾げると、ヒュウガさんは「じゃぁヒュウガ先生が簡単に説明してあげよう♪」と笑ったのでつられて笑った。
「あだ名たんも知ってるだろうけど、教会にはサンクチュアリの掟があるから軍は中に入れないの。そんなところにあだ名たんが行って、何かあったらアヤたん心配するでしょ?でもアヤたんは軍人だから教会に手を出すことはできない。心配でも助けに行けないんだよ??そりゃぁ嫌だろうね♪」
「…なるほど……。」
ん?
あれ??
待てよ…。
「ヒュウガさん、私を迎えにくるとき教会に…」
「ん?そんなことあったっけ?」
怖いくらいニコニコと笑っているので、私は触れてはいけないんだなと口をつぐんだ。
いくらアヤナミさんの命令だったとしても、きっとバレたらマズイんだろう。
でもそれくらい軍が手をだすのはいけない場所なんだ……。
「わかりました。心配かけるのは…嫌です。」
「いい子いい子♪ケーキあるよ、食べる?」
「食べます!」
「ちょっと待っててね♪」
ヒュウガさんが立ち上がろうとすると、扉がいきなり開かれた。
「名前、寝る時間だ。帰るぞ。」
魔王降臨。
その怒りを静めるために生贄は…ヒュウガさんでいいでしょうか。
「まだ21時ですよ?」
帰らないつもりではないけれど、あまりにも早い就寝時間に首を傾げた私をアヤナミさんは軽々と肩に担いで、ヒュウガさんの部屋を出た。
「あれだけ惚れてたら、敵陣に恋人を行かせるのはそりゃぁ嫌だろうねぇ♪」
アヤナミさんが私を教会へ行かせたくない本当の理由を呟いたヒュウガさんの言葉は、誰にも届くことなく、勢い良く閉められた扉の音によって消えた。
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