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アヤナミさんはソファに私を乱雑に下ろした。
その横にアヤナミさんが座るが、こちらに目を向けることなく先程読んでいた本に目を戻す。


アヤナミさんは怒ってるようだ。
でも私はヒュウガさんの言葉に納得して、というか少なからず少し嬉しくて、もう拗ねていない。

ということは謝らなければいけない。


「アヤナミさん、」

「何度もいうが、」

「ごめんなさい。」


アヤナミさんは本から顔を上げた。


「もう教会に行きたいとか言わないです。」


好きな人に心配させたくないもの。


「たった30分の間に考えを改めるとは大したものだな。」

「だって私が悪いから…。」

「明日、先程食べ損ねたケーキを買ってやる。」


私はキラキラと目を輝かせた。


「ホントですか?!二つ!二ついいですか?!」

「いくつでも選べばいい。」

「じゃぁ三つ!!」


あーでも食べきれるかなぁ。と嬉しくなる私はげんきんだと自分で思う。


「あ、そういえばアヤナミさん。」


私はアヤナミさんに擦り寄った。

まだ何かあるのかとため息を吐くアヤナミさんは、すでに本へと視線を戻していた。


「お願いがあるんです。」

「また猫なで声か。懲りないな。」

「いいじゃないですか、いつもアヤナミさんの言うとおりにしてるんですから。」

「ベッドの中だけだがな。」


う…。
何だかそう言われると恥ずかしいだけじゃなく苦しい。

執務室に戻れって言われたけど戻らず脱走して教会に逃げたり、
大人しくしていろって言われたけどパーティーに行ったり…。

あれ?私ってばろくなことしてないかも?


「言ってみろ。」

「バイト…したいなぁって思って。」


無言のままパタンと本を閉じたアヤナミさんは、私にはまだ読むのも難しいその本をテーブルの上に置いた。


「却下だ。」


そうでしょうねぇ。
未だに軍から出してもらえないっていうのにバイトだなんて。


「でも私も自由に使えるお金が欲しいんです。」

「不自由させているつもりはなかったが?欲しいものなら買ってやる。何が欲しい。」

「そ、そうじゃなくてですね。」


お金は大切にしましょう。
老後のこともしっかりと考えて。


「自分で精一杯働いて、それでお金を手に入れるっていうのはとても大切なことだと思うんです。世の中を知ることもできますし、ね??」

「ダメだ。小遣いならいくらでもやる。」

「お…お小遣いって……。そんな子供じゃあるまいし…。」

「とにかくダメだ。」


キッパリと言い切るアヤナミさんが今日は何だか腹立たしい。
確かにさっきの今でこんな話を出すのは間違っていたかもしれないけれど、不満顔になってしまう。


「そう怒るな。」

「じゃぁ許可を下さい。」

「くどいな。軍から出るのは許さない。」

「その他は許してくれるんです?」

「出ないのならな。」

「わかりました。男に二言はないですね?」


私はにっこりと笑って、自分からアヤナミさんの唇にキスを落とした。


「では、行ってきます。」

「待て、どこへ行く気だ。」

「バイトしに行ってきます。」

「バイトはダメだと、」

「ヒュウガさんのところでバイトすることにしました。メイドさんです。ヒュウガさんもさっき雇ってくれるって言って下さって。」


なんて、ハッタリだけど。


「私が許可をすると思うのか?」

「でも軍内はいいと。」


それとこれとは話が別だ、とアヤナミさんは私の腕を掴んで離さない。


「あれのところに行くというのに許可をだすわけがないだろうが。」

「二言はないはずですよね?」

「…少しは頭が回るようになったじゃないか。」


言葉は褒めているのに、その表情は拗ねているようだ。


「私と取引しましょうアヤナミさん。ヒュウガさんのところへバイトに行かせたくないのなら、街でのバイトに許可をください。」


にっこりと微笑んだ私に、今度はアヤナミさんが不満顔になる番だった。

勝った、と内心思った瞬間、私のスカートの裾からアヤナミさんの手が入ってきた。


「ッ、ゃ!」

「夜のバイトは許さん。それと短期のバイトにしろ。」


許可がでたその時には、私の体は組み敷かれていた。


「さっきも言いましたけど、気分じゃない…」

「安心しろ、そういう気分にさせてやる。」


この直後、散々鳴かされた私にバイトについての決まりごとが設けられた。


一、短期のバイトにすること(ずっとバイトをさせてくれるつもりはないらしい)

一、バイトが終わったら家に真っ直ぐ帰ること

一、男に話しかけられても無視

一、何かあったらすぐ電話

一、門限は17時


随時増えていくらしいこの決まりごとを至極当然のように述べるアヤナミさんに、私は自分が小学生になったような錯覚を覚えた。


「その約束…どうなんですかね??」

「何がだ。」


喘ぎすぎて少し掠れた声で言葉を紡ぎだす。

裸のまま私達はベッドのヘッドボードに背中をくっつけて、胸元まで掛け布をたくし上げて座っていた。


「いや、その…ちょっと過保護過ぎやしませんかね?」

「これくらいの方がお前にはちょうどいいと思うが?目を離せばあっちへふらふら、気が気ではないな。」

「すみません…。それはとっても悪いとは思ってるんですよ?でもアヤナミさんがとっても怖くてですね…。」

「勝手に怖がったのは名前だ。」

「えーそうきますか…」


それじゃぁ私ばっかりが悪いみたいじゃないですかー。


「だが、少しくらいは謝ってやってもいいと思っている。」


少しは譲歩してくれるらしい。
別に謝ってほしいわけではないけれど、せっかくだ。
こんなチャンスあんまりないだろうから、謝ってもらおう。


「では、どうぞ。」


アヤナミさんの瞳をジッと見つめると、スッと目を細められた。
次いで唇が額に口づけた。


「キスで誤魔化せませんよ。」

「わかっている。名前は少し焦らして挿れた方が感じるからな。」

「な、何のことですか?!?!」


一気に赤面した私の頬に小さく口づけが落ちた。


「体で謝罪を現してやろうかと思っているのだが?」

「い、い、い、いらんです!口で謝ってくださいよ!」

「口で謝るより態度で謝る方が得意でな。安心しろ、たっぷり感じさせてやる。」


あぁ…夜は長いというけれど、アヤナミさんと過ごす夜はいっつも短いんだ。

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