26
きっと私アヤナミさんに殺されたんだ。
深いまどろみの中で、私は泣いていた。
目の前にはエリュトロンさんが立っている。
『馬鹿ねぇ。』
よしよしと慰めてくれているエリュトロンさんは少し悲しそうだ。
「エリュトロン…さ……、エリュトロンさぁん…っ!」
その豊満な胸に飛び込めば窒息死しそうになった。
あ、もう死んでるんだっけ。
『はいはい、泣かないの。何でそんなに泣いてるのよ。』
「だって、だって私、」
嗚咽交じりで必死に訴えるが、中々自分が死んだと言いにくいもので。
『だって何?』
「私…死んじゃった…」
せっかく幸せを願ってくれたエリュトロンさんのためにも幸せになろうって決めたのに、逃げて、殺されてしまった。
『名前…。』
妙に神妙な顔をするエリュトロンさんを見て、本当に死んでしまったんだと確認させられた。
『名前、貴女…本当に馬鹿ね。』
「ひどい…死んだ人間にまで追い討ちかけるような言葉を今言わなくても…」
『死んでないから言ってるのよ馬鹿。ここは夢の中。私が出てくるときと同じ夢の風景でしょ?良く見てみなさい!』
エリュトロンさんは無理矢理私の顔を掴んで上げた。
ホント容赦ないな、この人。
周りを改めて見渡せばそこはいつもの夢の中の風景だった。
「私…本当に死んでないんですか?」
『えぇ。』
「本当の本当に?!」
『えぇ。』
「本当の本当のほんと、」
「くどい。」
バッサリと一刀両断されて涙も引っ込んだ。
『一体誰に殺されたと思ったのよ。』
「アヤナミさん。」
『それだけは絶対ないわ。』
「だってアヤナミさんから逃げ出して、通路に出てすぐ誰かに後頭部殴られた感じがして、」
『絶対ない。言い切れるから、信じなさい。』
「うん。そうですよね…アヤナミさんがそんなことするわけないですよね。」
よかった…そうじゃなくて。
「アヤナミさんのこと信じます、私。」
『違うわよ、私の言うことを信じろって言ったのよ馬鹿。』
思いっきりため息を吐かれてしまった。
『ったく、なんとな〜く何してるのかなぁとかって思って見に来てみたら…次は誘拐されているなんて、ここまでくると笑えるわね。会うつもりなんてなかったのよ?ただ一言言いたくなって。あなた、阿呆ね。』
「……そうですね…」
『ホント、トラブルメーカーね。』
「そうなんですよ………って、誘拐?!?!?!」
『反応遅いわ。』
「ははは犯人は誰ですか?!」
『何だか笑ってるみたいよ。』
そんなことより犯人ンンンー!!
『目覚めてみたら?私は知らない人間だもの、名前も知らないわ。いつも名前のこと見てるわけじゃないしね。』
…なんか神様のイメージ崩れるんですけど。
「神様っていつも見守ってくれているんじゃ…」
『はぁ?馬鹿じゃないの?神だって忙しいのよ?毎日毎日毎日、何万何億って願い事されるし、赤い糸繋げないといけない人間だってまだいるし、大体あんな数えるのも面倒なくらい多い人間をずっと見守っていられるはずないじゃない。』
「ごもっともです。」
エリュトロンさんの眼の下に微かな隈が見えて、私は素直に謝った。
『とりあえず、とっとと目覚めなさい。私これからまた別世界に仕事行かなくちゃいけないから。』
「えぇ?!今ぐらい見守ってくださいよ!」
『はぁあぁぁ?!?!贅沢いってんじゃないわよ!元フェアローレンやセブンゴーストの斬魂からも見守られてるくせに!死んでなくてホントによかったわね。じゃ。」
え?
え??
え???
フェアローレンって何。
ゼヘルが何。
私が目を丸くさせているにも関わらず、エリュトロンさんは姿を消した。
そして、それと同時に覚めたくもない現実へと、私は目覚めたのだった。
頭痛がひどかった。
それは名前が部屋を出て行ってからずっとで、考えすぎで頭痛がしているのかと自嘲してしまう。
名前はいつもこうだ。
悪意には悪意を、善意には善意を返す。
だから結局のところ私が折れなければいけない。
どうでもいいことにはすぐ謝ってくるくせに、こう大切なことには全くだ。
殺したくなる。
いっそのこと監禁でもしてみようか。
ふと、そんな考えが過ぎったが、それを打ち消すように頭を軽く振った。
自分はどうかしているらしい。
こんな考えを名前に抱くなんて。
どう考えても、そんなことをしたら名前は笑わなくなる。
一番笑顔を見たいというのに、見れなくなるのは嫌だ。
小さくため息を吐いて、どうせヒュウガのところにでも行ったのだろう名前を迎えに行こうと椅子から立ち上がった、その時だ。
「アヤたん、あだ名たーん♪今日は皆で飲まない??」
ヒュウガがコナツをつれて部屋に入ってきた。
ノックも無しに入るヒュウガに、コナツはノックをしたほうがいいのかと迷っているようだが、どうせ今更だ。
「名前はそっちに行っていないのか?」
「あれ??何、また喧嘩したの??そっちどころか何処にも行ってないと思うよ??」
どういうことだと眉間に皺を寄せると、コナツが「すでに皆さん少佐の部屋に集まってるんです。」と補足を付け足した。
「あらーまた教会かなぁ??」
教会。
今は一番聞きたくもない言葉がでてきて、眉間の皺がもう2、3本できた。
「発信機をつけてある。」
前回教会へと逃げられてからは日頃から発信機をつけているのだ。
名前が知れば怒るだろうが、彼女事態がトラブルメーカーなので致し方ない。
「あだ名たんどこ行ったのかなぁ〜?」
発信機の場所を示す画面を見ていると、ヒュウガが横から顔を出してきた。
画面には、第一区の最北端で赤いランプが点滅していた。
つまり、ここに名前がいるということになるわけなのだが…
名前が出て行って30分と経っていないのに、名前がいる場所はホークザイルを飛ばしても2時間はかかる場所にいる。
「ランドカルテ(空中移動術)か。」
「コナツ、今すぐランドカルテを使えるやつで今、軍にいないやつ調べて。それがわかったらその裏の人物も。」
「は、はいっ!」
バタバタとヒュウガの指示に従って部屋を出て行ったコナツ。
小さくため息を吐けば肩にヒュウガの手が乗せられた。
「まぁまぁ、落ち着いて殺気しまって♪追う?」
「愚問だ。」
「ランドカルテ使い呼ぶ?」
「いや、この距離を移動できる使い手は軍にはもういないはずだ。ホークザイルの準備を。1時間半でつくぞ。」
「2時間は掛かる距離だよ??」
「問題でもあるか?」
「…ないよ、りょーかい☆」
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