終
『いい男二人に守られて、羨ましい限りだわ。』
恨めしそうにそんなことを言ってくるエリュトロンさんに、私は早く夢から覚めないかなぁと願うばかりだ。
『でも良かったわね、危害加えられなくて。』
「はい。優しい人でした。私がピアノ弾いたら泣いて聞いてくれて。」
私がまた弾きに来てもいいですか?と言った時の反応といったら、こちらが困ってしまうほどだった。
それにアヤナミさんも『勝手なことをいうな』みたいなオーラ出してるしで、板ばさみは少し辛かった。
「びっくりしたことに、フラウさんがゼヘルだったなんて…」
『まぁ、基本的に人に言ったらダメだからね。名前は異世界の人間だし特別なのよ。』
特別とは自分では思っていないけれど、そういうものなのだろうか。
『あ、やばい、そろそろ仕事に戻らないと。』
「あ、はい。心配して会いにきてくださってありがとうございました。」
『心配なんてしてないわよ…適当に、また来るわ。ホントはあんまり会ったらダメなんだからね!名前があまりにもトラブルメーカーだから気になって、』
「はい、ありがとうございます。」
『…あんまり心配かけさせないでよね』
はい、エリュトロンさん。
「よく寝ていたな。」
「…エリュトロンさんに会ってました…。」
「そうか。」
二人ベッドに並んで、朝日の眩しさに目を擦っていると、まだ寝ていろと抱きしめられた。
「んー…」
小さく唸って擦り寄る。
素肌同士が当たっているからか、体温が心地いい。
昨日、私を誘拐したご老人の家でフラウと別れて、この部屋に帰ってきた私はアヤナミさんと縺れ込むようにしてベッドに転がった。
それからの出来事はぜひぜひ割愛させていただきたい。
「アヤナミさん、フェアローレンって知ってます?」
アヤナミさんが急に黙った。
いや、元よりしゃべっていなかったけれど、この空気だ、きっと今眉間に皺を寄せているのだと思う。
今までの経験がそう物語っている。
「アヤナミさん?」
「どこでそれを?」
「エリュトロンさんが、私はゼヘルとフェアローレンに見守られていて贅沢だって。」
「なるほど。ただの御伽噺だ、気にするほどのことではない。それより言うのを忘れていたのだが名前。」
「はい?」
「ヒュウガのメイドをするというのは嘘だったようだな。」
……
あれ?
何か冷や汗が…
「えー?そうだったけなー?もう忘れちゃったなぁー…」
「なら思い出させてやろう。」
ちゅ、とつむじにキスを落とされた。
「ななな何するつもりで、」
「ちょっとしたショック療法だ。気絶するまでヤれば思い出すだろう。」
「ウソウソウソ!ウソです!覚えてます!」
「なら仕置きだな。気絶するまで、」
「どっちにしてもそうなるんですか?!?!昨晩したじゃないですか!」
おかげですっかり寝不足。
腰は痛いし、眠いしで体力的にも精神的にももう無理だ。
「それに私今日バイトなんです!」
今日のバイトが午後からで良かった…。
「それなら昨晩辞めると電話しておいたから安心しろ。」
はぃ?!?!
「何を安心しろと?!なんで何がどうなってるんですか?!?!」
「男に話しかけられても無視をしろと約束事をしていただろう?破ったからには辞めてもらおう。」
「フラウさんのことですか?!フラウさんはお客様で、」
言いかけてハッとした。
そうだ、私達、昨日これで言い合って…。
すっかり忘れていた。
なにせ誘拐されるとは思ってもみなかったので。
「…アヤナミさん、その…昨日は…ごめ、」
「すまなかった。」
アヤナミさんは私の頬に左手を添えた。
「あの時は頭に血が上っていらぬことを言った。」
私はアヤナミさんの手に自分の手を重ねて首を振った。
寝転がっているせいで上手く振れないけれど。
アヤナミさんは少しだけ溢れてきた涙を親指の腹で拭ってくれた。
「アヤナミさん、好きです。」
「あぁ。」
「だからもういくら喧嘩しても殺したくなるとかって言わないでくださいね。」
アヤナミさんが言うとシャレにならないんです。
「すごく怖かったんですから。私、死ぬの嫌ですし。」
そりゃぁ知らない人に殺されるくらいだったら、アヤナミさんに殺される方がいいけれど。
でも極力死にたくない。
「待て。何故名前が死ぬことになっている。私が殺したくなると言ったのはあの男のことだ。」
「…フラウさん?」
「ベッドの上で他の男の名を言うな。塞ぐぞ。」
塞ぐぞって、もう塞いでるじゃないですか。
アヤナミさんの唇が私の唇に押し当てられていて、舌が入り込んで来た。
ぬるりとした生温かい舌にビクリとするけれど、しっかりと絡め取られる。
丁寧に歯列をなぞり、たまに舌を吸われるとゾクリとした。
気持ちよくて、脳も体も蕩けそうで。
しがみつくようにアヤナミさんの首に腕をまわす。
こうすると胸がアヤナミさんの胸板にくっつくからいつもは恥ずかしくてしないけれど、キスがあまりにも優しいから夢中になってしまったのだ。
「上手く誘えるようになったじゃないか。」
「ン、誘ってない、です。」
唇を離して啄ばむ様に話す。
長い口づけはしつこい訳ではなくて、ただ熱く互いの唇を求める。
アヤナミさんの薄い唇に少し噛み付くと、後頭部に手を回されて深く口づけられた。
流し込まれる唾液を必死に飲み込もうとするけれど、上手に飲みきれなかったそれは口の端から零れ出た。
いつの間にかアヤナミさんは私の上に覆いかぶさっていて、互いを貪っている。
「アヤ、ナ…さ…ッ、ん、ンンっ!!」
息ができないでいると、急に昨晩散々触られた秘部を擦られた。
ビクリと跳ねる体。
秘部には挿れられることなく、アヤナミさん自身が押し当てられて敏感なそこを擦られている。
「ッ、ンン、ん、はっ、」
息が苦しくて涙目になっていると、アヤナミさんは唇を離した。
思い切り新鮮な空気を肺に取り込んでやろうと体がしているのにも関わらず、その隙を狙うようにして中にアヤナミさん自身が捩じ込まれた。
「っぁああっ!」
昨晩、散々絶頂を迎えさせられたせいか、まだ余韻が残って濡れていたままの秘部は快楽に蠢き、膣は難なく異物を受け入れた。
最初から快楽だけが押し寄せてくる。
アヤナミさんは思い切り私の足を広げて体を押しいれて来る。
最奥に当たるのがとても気持ちいいけれど、反対に怖くもあった。
思考はショートし、ただただ欲望のままにアヤナミさんを求めるから。
そうアヤナミさんに言えば、それでいい、とキスされたけれど、それでもやっぱり怖かった。
自分の体なのにそうじゃない感覚。
やり場のない快感。
快楽に震える私は、ただこうしてアヤナミさんの背中に爪を立てるしかないのだ。
「アヤナミ、さ…、すきっ、ぁ、あぁっ!!」
絶頂を迎えながら、生理的な涙が浮かぶぼやけた視界でアヤナミさんが微かに笑った気がした。
「名前、これをやる。」
私のお腹に欲を放ったアヤナミさんが後始末を全てしてくれた。
私はただただベッドでグッタリ。
アヤナミさんは後始末を終わらせたようで、そんな私の手のひらに四角い箱を乗っけた。
「何ですか、これ。」
「昨日名前を迎えに行く時たまたま見つけたのだ。」
へぇ…と呟きながらその包装紙を開けた。
「パズル?」
「あぁ。」
「白いパズルなんて珍しい…」
「そうだな。だが名前のようだと思ったらいつの間にか買っていた。」
「白いパズルが私みたい…ですか?」
私の体、こんなバラバラじゃないんだけどなぁ…
「あぁ。何ものにも染まらず、ピースを嵌めてしまえば簡単なのだがそれまでが不可解だ。」
「そんな難しい性格してます?」
「難しいというより…未だに理解できないな。」
「そ、そんな…」
確かに私もアヤナミさんを理解しているかと聞かれたら答えはNOだけど、そんなにハッキリといわなくても…
「だが、そんな名前も悪くない。愛してる、名前。」
彼女はパズルピース。
真っ白い、パズルピース。
フェアローレンのことはただの御伽噺でいい。
好きだと笑っていてくれれば、それだけでフェアローレンは彼女だけを愛するアヤナミでいられるのだから。
それが彼女への真実。
そして何ものにも染まらず、彼女は彼女の色を貫き通すのだろう。
その輝かしい様を、私はずっと見続けるのだ。
厄介ごとばかりに巻き込まれ、そして首を突っ込む、目の離せないトラブルメーカーの彼女の傍らで。
END
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