13
「お、重い…」
前回は急で全く用意できなかったからと、前もって用意しておいた荷物を抱えて歩く。
前もって用意しすぎたせいで、いろいろといらないものが入っているが、私にととってはいらないものではない。
女は物入りなのだ。
「あ、名前だー。」
リビドザイルに乗り込もうかとしていると、クロユリくんの声がして顔をあげたら嬉しそうなクロユリくんやハルセさん、それにコナツくんの後ろには一人驚いている顔をしているヒュウガの姿。
その姿に苦笑しながら、「ヒュウガー重たいから荷物持ってー」と声を投げかける。
人の間を縫って私の元へきたヒュウガは荷物を持ってくれたものの、やはりその表情はどこか喫驚を滲ませている。
「私の部屋ってこの前と同じ部屋でいいの?」
「ん?うん、」
「よし、今回の遠征もがんばろー!」
私の笑顔に、ヒュウガは驚いた顔を引っ込めて笑った。
「ねぇねぇ名前ー、トランプ持ってきた??」
「うん!皆でトランプしようって約束してたもんね、クロユリくん。」
「あ、オレ7並べ得意だよ♪」
「狡賢そうな上に卑怯そうだもんね…。」
あれは結構性格の出るゲームだから…。
「ひどい!」
リビドザイルに乗り込みながら皆で笑いあう。
やはり一抹の不安は取り除けないが、それでも私はここに来た。
生憎の曇り空は、もう少しで雨が降りそうだ。
「また私の負け?!?!」
パラリとトランプを放り投げて机にうつ伏せになれば「だって名前弱いんだもん。」というクロユリくんからの言葉にトドメを刺された。
ヒュウガお得意という7並べを、皆お風呂に入ってから集まった私の部屋でやっていたのだけれど、得意というだけはあってヒュウガは未だ負けなし。
ついでにクロユリくんも負けなしだ。
意外だったのはカツラギさんも負けなしだということ。
ハルセさんやコナツくんは1回ほど負けたりしたけれど、私が一番弱かった。
7並べだけでなく、ポーカーも。
「名前さんは顔に出やすいですからね。」
ついにカツラギさんにまで言われてしまった。
「そんなに出やすいですか??」
頬に手を当てて、うにっと頬っぺたを抓る。
無表情になれれば一番いいのだろうけれど、トランプしながら無表情って傍から見たらつまらないように見えるだろうし、何より私が面白くない。
ヒュウガを観察してみたが、彼はいつものように笑ってばかりで何も得られなかった。
「もう一回!」
「でももう9時ですからね、女性の部屋にこれ以上いるのはあまり良くないでしょう。」
カツラギさんの提案に渋る私は「せめてあと一回!」と強請ったが、ハルセさんの「明日も明後日だってトランプは逃げませんよ。」という言葉に頷くしかなかった。
トランプを片付けてくれたコナツくんは透明なケースに入れて机の上に置き、みんなと一緒に「おやすみなさい」と部屋を出て行く。
「少佐は戻らないんですか?」
また名前さんの部屋で寝るんですか…?といった冷たい目線を向けられたにも関わらず、ヒュウガは「うん♪」と平然とした顔で頷いている。
私はそんな様子を見ながらヘッドボードに置いておいた小説を手に取った。
バタンと閉じられた部屋の扉と同時に本に挟んでおいた栞を取ろうとした瞬間、ヒュウガに名前を呼ばれた。
「名前、トランプしよっか。」
「えー2人でトランプしてもねぇ…」
特に負けなしのヒュウガに勝てる気がしないし、乗り気になれるわけがない。
「7並べじゃなくてババ抜き。」
「どうせなら明日皆でしようよ。」
「いいからいいから♪」
強制的にヒュウガがトランプを切り始めたので、「一回だけだからね。」とまるで子どもに言い聞かせるかのように呟いたら「わかった。」と素直に答えたので何だか面白くて笑えた。
持っていた本をもう一度ヘッドボードに立てかけて置くと、ヒュウガはトランプを切りながらベッドの上に胡坐を掻いて座り、私もベッドの上に上がって斜めに座る。
交互に配られているトランプを見ていると、ヒュウガは「何か賭けようか」と言ってきた。
「ヒュウガトランプ強いじゃん。ヤだよ、負けるし。」
「7並べじゃないんだから。単純なババ抜きだよ?引いて引かれて、ただそれだけで勝敗は2分の1なんだからわかんないよ♪」
「んー…何賭けたらいいの?」
「それは名前が決めていいよ。」
私が決めていい…か。
「オレが勝ったらオレの質問に答えて?」
「質問って?」
配り終わったトランプを合わさった数字の分だけ捨てていく。
「それはオレが勝ったら言うよ。」
「答えられる質問にしてよね??」
何だか賭けをする方向に向いているようだが、別に聞かれてマズイような事はないしと腹を括った。
「じゃあ私が勝ったら、一晩中腕枕ね。」
朝まで腕枕して痺れるがいいさ。
「わかった、いいよ♪」
じゃんけんをして先攻後攻を決めると、私が先行になった。
ヒュウガの持っているトランプの数より私の方が一枚多い。
つまりは私の所にババがあるということになるわけだが、まだまだ勝敗はわからない。
「ではでは引かせていただきます。」
私はヒュウガの手元からすんなりと引き抜き、持ち手のトランプと照らし合わせて2枚捨てた。
「では、どうぞ?」
扇状になっているトランプをヒュウガに突き出せばババの隣を引いていった。
ちぇっと内心呟きながら彼のトランプを引き、捨てる。
そうして数回そのやり取りをしていると、ヒュウガが2枚残っていた私の持ち手のトランプの中からジョーカーを引いた。
「やったー!」
「やったーって、まだ負けって決まったわけじゃないでしょ?」
この状況でジョーカーを引く気がしないわ!!とヒュウガのトランプに手を伸ばした時だ。
「こっちがジョーカーだよ。」とヒュウガが心理戦を持ちかけてきた。
私から見て右をジョーカーだと彼は言う。
しかし私が取ろうとしていたのは左のカード。
ヒュウガからしたらジョーカーを取って欲しいわけだ。
彼の言うとおり本当に右がジョーカーだとしたら今私が取ろうとしているのは数字の4のはず。
だけど彼がそう素直に教えてくれるだろうか。
もしかしたら右が本当は数字の4で左がジョーカー…
いやいや、裏をかいてやっぱり右がジョーカーということもあり得る…。
いかんいかん!
これじゃ彼の思う壺じゃないか。
何がババ抜きは『単純』だ。
とんだ心理戦じゃないか。
ここは素直に自分を信じるか、それとも…
「こっちもらったぁぁぁあぁぁ!!」
私は半ばヤケクソに右のトランプを引いた。
「……くそぅ…」
私の手には見事にジョーカーのカード。
「あは☆だからこっちがジョーカーだって教えてあげたでしょ??」
殴りてぇぇぇ!!
「別に、まだ私が負けだって決まったわけじゃないもんね!」
二枚のトランプを背後で混ぜてサッと彼の前に出す。
「どっちがジョーカーかわかんないでしょ。」
「じゃぁどっちがジョーカーか教えてくれる?」
「教えるわけないじゃん!」
大丈夫、いくらトランプに強いヒュウガだからって勝敗は2分の一なんだから。
「ジョーカーはこっち?」
私から見て右のトランプを指差される。
「教えませーん。」
「じゃぁこっち?」
今度は左のトランプを指差された。
「教えないって言ってるからさっさと取ってよ。」
「こっちかなぁ?」
また右のトランプを指差された。
ドキリとする心臓。
「それともこっちかな?」
詰めていた息を小さく吐き出せば、ヒュウガはにっこりと笑って「教えてくれてありがと♪」と左のトランプを取っていった。
「わーい☆一抜けた♪」
「一抜けたって、一抜けたらもう終わりじゃぁあぁぁ!!ズルイズルイズルイ心理戦なんてズルイー!!!!」
ババ抜き、侮るなかれ。
というかヒュウガ、侮るなかれ。
「腕枕も捨てがたかったんだけどねぇ。」
「ズルイズルイイカサマー!!」
ジタバタとベッドに転がって手足をバタつかせる私に「はいはい」と聞いているのか聞いていないのかわからないような返事を返しながらトランプを片付けたヒュウガは、ケースに入れたトランプをヘッドボードに置いて「さて、」と息と共に吐き出した。
「質問に答えてもらおっかな♪」
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