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ヒュウガ菌騒動から一週間が経った。
後日アヤナミ参謀からはお礼を兼ねて年代物のワインとお菓子が届けられた。
律儀なあの人らしくて小さく笑ってしまったが、ありがたく戴いた。
「んーいい天気だー。」
小さく伸びをして街中を歩く。
今日はバスティン大司教補佐官にお休みを頂いたので久しぶりに買い物に来ていた。
昨日電話でヒュウガを誘ってみたけれど、残念ながら仕事のようで今日は一人だ。
電話口で『少佐、何で行く気満々なんですか。目の前の書類見てくださいよ。』というコナツくんの声に苦笑を漏らして、会う気満々だったヒュウガに『じゃぁまた次の機会ね』と電話を切ったのだ。
あれ以上電話をしていると、ヒュウガは上手くコナツくんも私も口車に乗せて今日は休んでいただろうから。
だけどあまりにもヒュウガが可哀想なので何かお菓子でも差し入れしようかなぁ、と今人気のスイーツの店を見て回る。
序でに小物とか、服とか。
本来ならそれらがメインのはずなのに、私の中でどこかヒュウガ中心に回っているようで何だか笑えた。
先に銀行に寄って、この前の遠征で入った収入を絶対に使わないと決めている貯金通帳に入れて…、と銀行に寄ったのがいけなかったのか、それとも私の運が悪かったのか。
「金を出せ」
あぁ、何でこうなってしまったのか。
顔を布で隠している男4人組が私がいる銀行に入ってきた。と思えばこれだ。
シャッターを下ろせという主犯格のような男の言葉に従ってシャッターが下り、出入り口が封鎖されてしまった。
客も行員も慌てふためき悲鳴を上げている。
その中で一つの発砲音が響いた。
ピタリと叫び声が止み、自然と皆の視線が発砲した細身の男に注がれた。
威嚇だったようで天井に銃弾が通ったような穴が開いている。
「騒げば今度は一人ずつ殺す。」
どうやら叫び声がお気に召さなかったようだ。
私は叫び声もあげず、ただ立ち尽くしていた。
フラッシュバックというのはこういうことをいうのか。
強盗にあった昔のことが脳裏を過ぎる。
震え始めた体を叱咤するがどうにも落ち着いてくれない。
「おい、客はそっちの端に固まってろ。叫べば殺す、外部と連絡をしようとすれば殺す。もちろん下手な真似をしようとしても殺す。」
小太りの男は私達を奥へと追いやって行員を脅し始めた。
強盗犯は4人、その内1人が行員を脅して金を用意させている。
残りの強盗犯3人はそれぞれ出入り口を見張っている。
客は私を入れて20人いるかいないか。
お年寄りから親に連れられている子どもまで年齢層は幅広い。
体は震えているのに思考はやけに覚めていた。
どうにかしてヒュウガに連絡がとれたらいいのだけれど…。
どうにか中の状況を教えれば警察だって突破しやすいだろう。
外にはもう警察が駆けつけたようでザワザワとうるさい。
きっとマスコミも来ているだろうから、私が今日は休みで街にいると知っているヒュウガに空メールだけでも送れたら恐らく気付いてくれるはずだ。
震える手をポケットに伸ばそうとしていると、背後で女性の短い叫び声が聞こえた。
「おいおい、どこに連絡しようとしてるんだ?」
冷や汗を流しながらも後ろを振り向くと、30代の女性が果敢にも外部と連絡を取ろうとしていたようだ。
しかしそれも一番奥に居た男に見つかったようだが。
強盗犯が客に紛れ込んでいたのだ。
恐らく、誰かが連絡を取る事を危惧した上でこうなることを予想していたのだ。
強盗犯は5人?
いや、もしかしたらまだ紛れ込んでいるかもしれない。
誰もが客同士で疑心暗鬼になる。
そうなれば迂闊に行動はできない。
一体誰が考えたのか、よほど頭がいいとみえる。
疑心暗鬼に陥っているのは私だってそうだ。
ブルリと携帯が震えたが出ようとする気さえ起きない。
連絡を取ろうとしていた女性は肩を打ちぬかれて血を流して蹲っている。
客に紛れ込んでいた男は私達の輪から離れると主犯格の男に「まだかよ」と近づいていった。
強盗犯はこちらに視線を向けていないものの、まだ紛れ込んでいるかもしれなくて誰も彼女に近寄るものはいない。
血の香りが鼻を掠めた。
耳に届く呻き声。
あの時と同じだ。
あの時と…。
……いや、違う。
震える私を『大丈夫』だと励ましてくれる彼がいない。
ただそれだけで心細さが倍増する。
昔強盗に会った時も、ヒュウガが軍に入ったときも、私は怖くて逃げてばかりいた。
向き合う事が怖くて、頼ってばかりで。
だけど私には今彼女を助けられる力がある。
人が死んでいくのをただ傍観するだけの昔とは違う、助けられる私がいる。
ギュッと瞼を閉じて、そしてゆっくりと開くと同時に深く息を吸い込み、そして吐いた。
「…大丈夫ですか?」
すぐ後ろにいた女性に触れると左肩当りは赤く血に濡れていた。
「う、うでが…、いた、」
浅い呼吸を繰り返す女性に「大丈夫です、今治しますね。」と小さく笑顔を向けてザイフォンを発動させた。
「…うそ…、貴女、…」
「癒し系のザイフォンです。もう痛くないですか?」
「え、えぇ…。ありがとう。」
「いえ。それよりも治っていないフリを続けていてください。バレても厄介で、ッ!」
急に襟首を掴まれたと思ったらそのまま上に引っ張られて首が絞まった。
自然と立ち上がる体勢になり、後ろを振り向くと主犯格の男が面白そうに私を見下ろしている。
「ほぅ、癒し系のザイフォンの持ち主とはな。しかも顔もイイとくりゃぁ高く売れるじゃねぇか。」
全身を舐めるような視線で見下ろされ、気分は最悪だ。
「おい、この女も連れて逃げるぞ。」
どうやらお金はすでにバックにたんまりと入れられているようで、私を人質にしながら裏口に横付けしてある車で逃走する気らしい。
銃口をこめかみに押し付けられて、警察が手出しできないのを視界に入れながら車に押し込められようとしたその時だ。
「はいはーいそこまで♪」
彼の声が聞こえたと思えば、一陣の風が吹いた。
次いで血の臭い。
声がしたほうに顔を向けると刀についた血を、血振るいしたヒュウガが立っていた。
「ごめんねぇ、オレ今かなり怒ってるから手加減できなくって☆」
私のこめかみに銃口を当てていた男は地面に伏せており、血が溢れ出してきている。
すでに息はしていなかった。
「なんて、誰も聞いてないか♪」
刀を鞘に収めたヒュウガは事切れた死体5つを見下ろしていた。
たったあの一太刀で、ヒュウガは5人もの命を奪ってしまったのだ。
血を纏うヒュウガをみたことはあるが、人を殺したところは初めて見た。
やはり彼の表情は変わらない。
私に笑いかけている時も、人の命を奪う時も。
そのことに一瞬恐怖したけれど、それが彼なのだ。
「名前、迎えに来たよ。怪我ない?」
差し出された手のひら。
返り血の一滴もついていないけれど、きっとその手は血に塗れているのだろう。
「…うん、平気。助けに来てくれてありがと。」
私はいつの間にか震えが収まっている手を、そっと彼の手に重ねた。
「脱いで。」
ヒュウガの自室に連れて来られてまず一言目がそれだ。
私は「は?!」と目を丸くして彼の言った言葉を聞き返したが、彼はそんな時間さえも惜しむように私の服に手をかけた。
「ちょっとまままま待って!!!」
「いいから。抵抗しないで。」
「するわっ!!」
一体彼が何を考えているのかさっぱりだ。
下着姿にされたと思えば今度は全身を見つめられ、さすがに羞恥で彼のことを叩きたくなってくる。
「怪我、ホントにないね…。」
ホッと息を吐いたヒュウガは心底心配してくれていたようだ。
私はごめんね、と呟きながら脱がされてぞんざいに放られていた服に手を伸ばした。
「え?着ちゃうの?」
「着ますけど何か?」
ちょっと後ろ向いててと言っても全く向いてくれないので、私が彼に背中を向けて服を広げる。
すると、背後から左手が腰に回ってきて首筋に彼の唇が触れた。
「安心したら何か名前抱きたくなった。」
「意味わからないんですけど。」
「助けに来たご褒美ちょーだい?」
「それが私ってか。いやいや、ちょっと心の準備が、って、手、手!」
右手がブラをたくし上げながら胸を揉んできた。
しかも下着の上から秘部まで撫でてくるものだから必死に両足を閉じて抵抗をみせる。
するとヒュウガはそれがお気に召さなかったようで、首筋を軽くがぶっと噛んできた。
「ぎゃ!か、かんっ、噛んでっ、」
驚いている私を他所にヒュウガはいつもの表情のまま私をベッドに放り投げる。
起き上がる隙さえも与えずに彼は私に覆いかぶさってきた。
「名前…、」
ヒュウガの唇が私の唇に触れて、それからすぐに離れる。
かと思いきや今度は耳に唇を押し当てられてくすぐったいと身を捩れば、「ホント、心配した…」と囁かれた。
「あー…、ごめんね。」
何度目かの謝罪を述べてヒュウガの頭を撫でれば首筋にチリッとした痛みが走る。
「どさくさに紛れて何してんの。」
「無理だよっ!好きな女が下着姿でベッドに横になってて、我慢できるわけないじゃんっ!」
「何かその言い方、私から誘ったみたいなんだけど!下着姿にしたのもベッドに横になったのも全部ヒュウガのせいだか、っ、ン…」
もう一度唇を塞がれた。
今度はすぐには離れず、ゆっくりと口内を荒らされる。
「違うよ。全部名前のせい。オレが名前に惚れてるのも、欲情するのも、全部名前のせい…。」
キスの合間に聞こえた彼の言葉をきっかけに、行為はどんどん深くなっていった。
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