「んっ、いた…、痛い、ヒュウガ…」


逞しい腕に手を添えて首を振れば、労わるように頭を優しく撫でてくれる。
その手が頬へと滑り降りてきたかと思えば目尻に浮かんだ涙を拭った。


「息吐いて。できるだけ優しくするから。」


幼い頃の私では想像することさえ出来なかったことが今自分の身に起きている。

真っ白なシーツの上に重なる二つの影。
熱いくらいの吐息と体。
薄っすらとかいている汗はヒュウガに色っぽさを出しており、その醸し出される雰囲気にも体の芯から熱くなる感覚に陥ってしまう。

あぁ、あの頃はただ彼が好きだと認識していただけだったけれど、キスとかセックスとかそういったものは想像もしなかったし、何より無知だったため考えもつかなかった。

小さく触れるキスくらいは想像したりもしたけれど、今みたいに彼の舌が私の舌を絡め取ったりするキスが存在するなんて知りもしなかった。

それが大人になるにつれて色んな知識が増え、そうして今、ありったけの知識で繋がっている。


私が下半身の痛みに息を詰めているのを見兼ねたヒュウガは、私の唇を割って舌を潜り込ませ、呼吸を誘う。

それに誘導されるように息を吐き出せば、彼が奥にまで入り込んだ。

気持ちいいという感情はまだ浮かんで来ないものの、愛おしいという感情はとてつもなく溢れてくる。


「っふ、ぁ」


唇が離れれば自然とヒュウガと目が合い、どうにも気恥ずかしさに目を逸らしてしまう。
彼はそんな私の太ももを更に広げて押し入ってくる。


「あーもうダメ。名前可愛い。」


キツく抱きしめられたかと思えばゆっくりと律動が始められて、また息がし辛くなる。

痛くて、でも愛おしくて、色んな感情がない交ぜになってただ声を漏らせば次第に痛みが甘く熱くなってきた。

高い嬌声を隠したいがために右の手の甲を口に押し付けたけれど、気付いたヒュウガに取り払われてしまった。
その上その手をシーツに縫い付けるように押さえられ、抵抗をみせるが意味はなさない。

彼の長い指と私の指が絡まったことに何故か嬉しさを感じてしまったが、しかし如何せん自分の高い声は耳につく。

どうにかして声を抑えたいのにヒュウガは容赦なく、だけど労わることは忘れずに攻めてくるものだから絶え間なく部屋に嬌声と水音が響く。

唇を噛めば今度は彼の舌にこじ開けられ、また響く。

今度はどうしようかと熱に浮かされている思考で考えていたら、ヒュウガの唇が耳たぶを甘く噛んだ。


「声、聞かせて。」


低く囁かれた声と言葉に、全身がゾクリとした。
すると「あ、今締った。」と彼が笑うものだから、彼の背中に左腕を回して爪で引っかいてやった。

律動は激しくなるばかりで、襲い来る絶頂に瞳をキツく閉じて身構えていると、ふわりと頭を撫でられた。

その手があまりにも優しくて、つい瞼を開けて彼を見た瞬間に私は絶頂へと達してしまった。

ピンと張る四肢を小刻みに震わせている間、ヒュウガも数回打ち付けた後、腹部に欲を吐き出した。

もう一歩も動けないとばかりにへにゃりと全身から力が抜けていく。
シーツの冷たさは、熱を持っている上に未だ敏感な肌には心地よさと共にひどく冷たく感じた。

私の腹部に放たれた欲をティッシュで拭った彼は、それを丸めてゴミ箱へと投げ入れていたと思えばすぐに私の隣に横になった。


まだ暑いけれどさすがに素肌のままでいる気にはなれず、足元の方でグシャグシャになっていたブランケットを重たい体で必死に繰り寄せていれば、それに気付いたヒュウガがブランケットを引き上げて私の体に掛けてくれた。


「ありがと。」

「ん♪ゴメンね、痛くして。」


ヒュウガが左肘をついてその手のひらに頭を乗せ、右腕で私を引き寄せる。
見下ろされているような体勢を嫌だとは思わなかったけれど、私の表情がより伺える体勢なため少し恥ずかしい。


「平気。…途中から痛くなかったし。………どこでそんなテクニックを覚えていらしたのやら。」


彼から視線を逸らすと、「妬いてるの??」と茶化すような声が聞こえてきて今度は睨んでやった。
その睨んだ先にはヒュウガの顔。
茶化すというよりは、何だか嬉しそうな表情にも見える。


「オレも男の子だからねぇ。でも抱いてて余裕がなくなったのも、満たされたのも名前が始めてだよ♪」

「…そりゃ、どうも。」


恥ずかしいセリフをペラペラと言えるこの男にはビックリだ。
私が恥ずかしがるのをわかっていてやっているのならそれはもう確信犯に違いない。


「顔、赤くなってる。」


ツンツンと人差し指で頬を突かれて、うざった気に手で払ってやった。
こいつ、絶対確信犯だ。


「あーあ。可愛いヒュウガはどこに行っちゃったのかなぁーもう。背は私より高いし、声は低いし、なのに態度は大きいし。もーヤダヤダ。」

「じゃぁ今は?」

「今はもちろんかっこい…くない!」

「ハイハイ無理しない無理しない。」

「無理なんてしてなーい!」


触れているヒュウガの足を蹴飛ばせば上手く絡め取られてしまった。


「じゃあさ、怖くない?」


やけに真剣みを帯びた声だった。

静かなのにどこか憤りの中に鋭さを感じる。


「オレのこと、怖くない?」


彼は不安なのだろうか。
確かな確証が欲しいのだろうか。


「それ、前にも聞いたよね。」


確か2回目の遠征に行くという初日にそんな話をした覚えがある。


「前は殺すとこ見てないでしょ??でも今回は…名前の目の前で殺したんだし。」


困ったような表情こそしているけれど、微塵も後悔の表情を見せない彼にため息が出る。
だって彼は最初から強盗犯全員を私の目の前で殺すつもりだったのだろうから。
私の決意を彼は試したのだ。


「オレは名前が昔強盗にあった事を今も恐怖してるの知ってるから。でもオレは軍人で、しかもブラックホークだよ。オレはずっと名前の側にいたいけど、人が死ぬ事に敏感な名前の側にオレがいたら名前は悲しんで傷つくでしょ?」

「それでも、ヒュウガは軍を辞めて私を選ぼうとは思わないんだね。」

「オレが強くなろうと思ったのは名前が切欠だけど、今は名前だけのためには動いてあげられない。」

「ハッキリ言うんだね。うん、いいよ、それで。」


ケラケラと笑えば彼は少しだけキョトンとした表情を見せた。
その表情が余計に笑えて、更に笑ってしまう。

彼は私に嫌われるのを覚悟して今の言葉を言ったのだろう。

そして私はその言葉の中に、そして今、ここで初めて確かに傷を見た。
彼の中にある傷痕を。

彼は深い傷を負っているのだ。
私が『あの日の出来事を傷』としているように、彼は『私が傷ついていることが自分の傷』だと。

そしてわかってしまった。
彼は恐れていたのだ、私に嫌われるということよりも私が傷ついてしまわないかを。
だから軍人になると私に告げたときも辛そうだったし、軍人になってからも連絡一つしてこなかった。
それは全て私のためだった。

そんな彼の優しさに私は甘えて、逃げていた。

あぁ、なんて愛おしいのだろうか、この人は。


私は腰に回されている彼の腕にそっと手を置いた。


「違うよ、ヒュウガ。ヒュウガが私の側にいるんじゃなくって、私がヒュウガの側にいるの。」


居たいの、貴方の側に。
心が痛くても、居たいの。


「私ね、本当はずっと攻撃系のザイフォンの使い手になりたかった。軍人になっちゃったヒュウガの横に昔みたいに並びたかった。だから癒し系だと知ったとき、自分の能力を疎んだ事もあった。」


たくさんの夜に涙して、そして自分の能力を疎ましく思った。

あの日々は思い出しただけでも辛くて、そしてちょっぴり恥ずかしい。
前の私に見せてあげたいくらいだ。
今の私の笑顔を。


「だけどね、今なら癒してあげられることに喜びさえ感じるんだよ。それもヒュウガのおかげなんだから。傷ついたヒュウガを癒してあげられるってすごく特権よね。」

「いいの?怖くないの?名前は絶対傷つくよ?」

「いいの!だってもうたくさん逃げたから。この自分の気持ちから、軍人になったヒュウガから。今度はちゃんと傷つきたいよ。泣いても悲しんでも傷ついても、それでもヒュウガの側に居たいよ。」


ヒュウガの手が私の頭を撫でる。


「だから、私が少しでも怖くないように、無事に笑顔で帰ってきてね。」

「うん…。約束する。」


この手の温かさに、きっと一生癒えることがないであろう傷を優しく撫でられているようで。

切なくて、でも何より愛おしくて。


「名前…」


小さく呟かれた名前にもそんな感情が混ざっているように感じられて、私は同じ想いを乗せて彼の名前を囁いた。

END

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